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二人の王女①

ランドはマルーシャが落ち着くのを待って、マルーシャからゆっくり離れると、近くにいた兵士数名に見張りの塔の中に放置してあった板を運び出させ、その上にフツ王の遺体を仰向けに乗せ、王の間に運ぶため庭園までやってきた。


その時ランドはふと違和感を感じた。それは降伏して庭園に集められているフィスノダ兵の数が城に常駐している兵士の数にしては異様に少ないように感じられたからだ。


まして、バルデの都から召集されているであろう男達や城の中で働く使用人達らしき姿がまったく見えなかったからだ。


フツ王が死んだのは今の歓声で気づいているはずだった。

だが誰一人として姿をみせようとしない、直感的に何かの合図を待っているのではないかと感じたが、それが何なのかわからなかった。


ランドはひとまずフツ王の亡骸を王の間に運ぶのを優先し、その場を離れた。

ランド達はフツ王の亡骸を運び終わると、そこに兵士数人を見張りに置き、下の庭園に戻ると、ランドは早速ラールシア兵に、バルデ城内にまだ潜んでいるおそれのあるフィスノダ兵や使用人達にフツ王が死んだことを知らせるために直ちに降伏して庭園に出てくるように告げるようバルデ城内に散らばらした。


そして大きな声でこう叫んだ。

「フツ王は死んだ! これにより今、この瞬間をもってフィスノダ国はラールシア国の占領下となった。大人しく出てきた者には危害を加えない、直ちに降伏してでてくるように!」


ランドは城中に聞こえたのではないかというような大きな声で叫んだが、やはりフツ王が雇ったであろうフィスノダ兵士達以外誰一人としてでてくる気配はなかった。


「おいランド、バルデ城に残っている兵士がこれだけっていうのは変じゃないのか? サミュが会ったっていう使用人らしい者達も一人も出てきていねえようだし」


ルカの言葉にアルも同じことを感じていたのかランドに視線を向けた。


「お前らもそう思うか? おそらく何かを警戒しているんだろうが……フツ王が死んだ今何を警戒する必要があるってんだ?」


ランド達がそんなことを話していると、ラールシア兵の一人が慌てた様子でランド達のところへ駆け込んできた。

総司令官殿大変です!」

「どうした?」

ランドの変わりにルカが叫んだ。


「そっそれが……城内を調べていましたところ、城の地下牢の前にフィスノダ兵らしい五人がいたので降伏するように言ったのですが、総指揮官殿が直接地下牢まで来ていただけるまでその場は一歩も動くわけにはいかないと、あいかわらず剣を我々に向けて構えたまま動こうとしないのです」


「なんで地下牢の中じゃなくて前なんだ?」

横で話を聞いていたルカが聞き返すと兵士が首をかしげながら言った。


「それがどうやら地下牢の中に身なりからして王族の姫君ではないかと思われる女性がいるようなのです。彼らはその女性を守ろうとしているのではないかと思われます」


「姫君? フツ王に娘なんかいたのか? おいマルーシャは知っているか?」

ルカがマルーシャの方を向きたずねた。

「姫君? ちょっと待って……姫君なんていたかしら」

マルーシャは古い記憶を思い返しながら答えた。


「あっ! そうよいたわ! 王族の中に確かに一人姫君がいたわ」


「本当か?」

ランドもマルーシャにもう一度確認をした。するとマルーシャは大きく頷き一言付け加えた。


「ええ本当よ。思い出したわ。間違いないわ。フツ王の前の王のジャラル王には子供は王子一人だけだったけれど、昔一度ここに来た時、紹介されたことがあったわ」

マルーシャの言葉にランドは呟いた。


「フツ王の娘か……フツ王が死んだ今、王族ならば逃がすわけにはいかないな」


ランドがそう呟いた瞬間、どこからともなく桑や棒などいろんなものを武器がわりに持ったフィスノダ人らしい年配の男達がいっせいに現れ、その場にいたランド達を取り囲んだ。


ランド達はとっさにマルーシャを自分の後ろに引き寄せ剣に手をかけた。

「ノアーヌ様は何も悪くない!」

「王女様に何かしてみろ! 俺達がただじゃおかないぞ!」

「そうだそうだ!」


貧しい身なりのその者達は口々に叫びながら続々とどこからともなく姿を現した。おそらくバルデの都の住人達だろうがすごい数である。中には兵士らしき者達も大勢いるようだった。今また、これだけの人数を相手にするとなるとかなり危険が伴いそうだった。


ランドが何か言いそうになった時マルーシャが後ろから叫んだ。


「ノアーヌ姫! そうよ思い出したわ。彼女の通称名は確かノアだったわ。ねえ、あなた達のいう王女様の愛称はノア姫じゃなかったかしら?」


マルーシャはランドの後ろから頭を乗り出し、そこに集まったフィスノダ人にいつもの明るい調子で話しかけた。

マルーシャの声に顔を見合わせているフィスノダ人だったが、その中の一人が恐る恐る話し出した。


「どうしてその呼び名をラールシア人のあんたが知ってなさる。そっそんなことより、あのおやさしいノアーヌ様だけは俺達の命に変えてもお守りするんだ。王女様を殺すつもりならここは通さないぞ!」


「そうだそうだ!」

マルーシャはこの貧しい身なりの男達の真剣な眼差しが真実を語っていると直感した。ここに集まった数多くのバルデの都の男達はノアーヌ王女を助ける為ならば命を惜しまないだろう。フツ王の時はでてこなかったバルデの都の男達が、ノアーヌ王女の身に危険が迫るかもしれないと知った瞬間にこんなにも大勢の人達が自分の身の心配よりも王女の身の安全のために立ちはだかるとは……ノアーヌ王女が国民に愛されているのだろうということは簡単に想像ができた。そこでマルーシャはいいアイデアを思いついた。


「ねえあなた達はノアーヌ王女様の身の安全が心配なんでしょう。私達が彼女をみつけたら命を取るかもしれないと」

「そっそうだ!」


「じゃあこうしたらどうかしら。私達はフツ王の娘であるノアーヌ王女様を立場上逃がすわけにはいかないけれど、これから先ずっと、フィスノダがラールシアの支配下になろうともノアーヌ王女様の身の安全は私が保証します。ラールシアの軍法会議で処刑なんかにさせないわ」


マルーシャがランドの前にでてフィスノダ人に真剣な顔で訴えかけた。マルーシャの言葉にランド達も驚きの表情をみせた。


「おいマルーシャ! そんなこと簡単に口走ってもいいのか?」

マルーシャのすぐ後ろにいたグランがマルーシャの耳元に近づき小声で言った。


「いいのよ。私の直感を信じなさい。ノアーヌ王女はフツ王みたいな人間じゃないはずよ」

マルーシャはそう言うと、ランド達に顔を向け笑顔で言い切った。そんなアルーシャにランドもマルーシャの直感とやらを信じることにした。


バルデの都の男達もマルーシャの言葉に一瞬静まったがまたざわつきはじめた。

「敵国のおっ女兵士一人に王女様の命は保障すると言われても信用できないね。なあみんな」

「そうだそうだ!」


その時ランドの横にいたラールシア兵の一人がマルーシャの前に立ちはだかり叫んだ。

「このお方を誰だと思っている。このお方は我がラールシア国第一王位継承者のマルーシャス王女様だぞ!」

兵士の言葉にバルデの都の男達にざわめきがおこった。


「うっうそだ! 王女様が兵士にまざって敵国に攻めいるなんて話聞いたこともねえ。そんなデマにだまされる俺達じゃあねえぞ!」


「ちょっと失礼よあなた達! この私の顔を見れば一般の女の子と違うことぐらいわからないの!」

マルーシャはバルデの都の男達相手に本気で怒り始めた。


「まあまあ落ち着けよマルーシャ、そんな格好をしているマルーシャをみて信じろということ自体無理な話だよ。普通の王女様は戦場なんかには絶対に行かないもんだよ」


アルが興奮しているマルーシャをなだめるようにマルーシャに近づいた。それを見ていたルカも腕をくんでマルーシャに近づき、にやけながらマルーシャの顔をのぞきこみ付け加えた。


「俺達ですら時々マルーシャが王女様だって信じられなくなる時あるもんなあ…」

「なっなによお! アルもルカも失礼しちゃうわ」


プンプン怒っているマルーシャにずっと黙って聞いていたランドが静かにマルーシャの前に移動し、群衆に向かって叫んだ。


「俺はラールシア国軍総指揮官のティーゼルンだ。彼女は正真正銘のラールシア国の王女マルーシャス・ロウェン・ラールシア王女だ。王女の意向で兵士に混ざってここまできたが、それは国を思えばこそ。あなた方がノアーヌ王女を大切に思っているのと同じように俺達もここにいる王女のことを命より大切に思っている。彼女がノアーヌ王女の命を保障するといった以上、ここにいるラールシア兵一同は彼女の言葉にしたがい、ノアーヌ王女の命はとらないと誓おう」


ランドの言葉に続いてマルーシャが群集に向って提案した。


「そうだわ! こうしましょうよ。彼が地下牢にいるというノアーヌ王女様に会いに行っている間、私はここで人質になっているわ。そうすればノアーヌ王女様を地下牢で殺すなんてことはできなくなるでしょう。この私がラールシア王女であるって信じてくれたらの話だけど」


「おいマルーシャ、それは無茶なんじゃないのか? かりにもここにいるのは敵国の人間なんだよ。一斉に危害を加えてきたらどうするんだ?」


アルーシャの話を聞いたアールが反論したがマルーシャの決意はかたそうだった。


「大丈夫よ、こうでもしないとみんな信用してくれないわ。これ以上無益な殺しあいはしたくないの。お願いわかって」


反対するアルにマルーシャは小さい声で説き伏せた。その間に男達も小声で話あっているようだったが話がまとまったのか年老いた老人の一人が群集の前に歩み出て話し出した。


「わしはブースという者です。今このバルデの都にいる人間は貧乏人ばかりです。貴族や金持ち達は先代のジャラル王様が暗殺なされたのをきっかけに次々と国外に逃げ、今この国にいるのは行くところのない貧乏人ばかりです。わしらはもう何も失うものはありません。こんなわしらの唯一の宝はノアーヌ様の笑顔だけです。わしらにとってはこの国が誰の統治になろうと関係ありませんが、姫様はわしらに残されたたった一つの光なのです。その姫様の命が危険にさらされようとしているのを見てみぬ振りをするわけにはいかないのです。見たところあなた様は間違いなくラールシアの兵士の中で一番偉いお人のようですな。あなた様を信用しないわけではありませんが、念の為あなた様がノアーヌ王女様をここまでご無事にお連れするまで、ラールシアの王女様だというこの方は人質としてわしらが監視させてもらうことにいたします。もしノアーヌ王女様の身に何かが起こればこの王女様の命はないと覚悟なさってくだされ」


「それでいいわよね。ランド!」

マルーシャはそう言うとランドに向かってにっこり笑った。それを見てランドは大きくため息をついたがそれしか方法がなさそうなのでマルーシャには何も言い返さず、アルとルカにマルーシャを守るように目で合図をし、伝えにきたラールシア兵の後について地下牢のある塔に消えて行った。


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