バルデ城侵入④
残虐なシーンが含まれていますので苦手な方は飛ばしてください。
中は真っ暗だったが、先頭のランドと真ん中のサミュの持つろうそくの光で何とか中を進むことができた。はしごはそう長くはなく、すぐ左右に横穴が続いているようだった。
ランドは迷うこともなく正確に南の塔に通じる渡り通路に向かって四つ這いになりながら進んだ。
真四角な狭い通路を抜けると少し広い空間にでた。
ランドはろうそくをかざしながらよくみると上に扉らしいものがあった。ランドは全員その空間に辿りつくのを待ち、剣を鞘から抜き、中腰になり静かに扉を押し上げた。
そこは部屋の中に作られた衣裳部屋らしかった。ランドはまず自分のろうそくを消し、音を立てず上に上がり、下に合図した。全員上がりきったところで最後のアルが下に置いていたもう一つのろうそくの火を消した。
五人はどこからか入ってくる月明かりを頼りに広い衣装室を進み、扉のあるところまで辿りついた。 耳を澄ますと話声が聞こえてきた。
「おい、下のクズどもの始末はまだできないのか?」
「申し訳ございません。まだてこずっているもようです。しかし城門は全て閉ざしておりますし、サラン側の秘密通路に敵が進入したという報告は入っておりません。いったいどこから進入してきたのでしょうか?」
「あの堀を見てみろ、珍しく堀の底があらわになっているのが見えるだろう。ラールシアの蛆虫どもはあの堀を登って進入してきたんだろうが…あんな少人数でこの余の命が取れると本気で思っていたのか、ラールシア人もおろかよのう」
フツ王らしい声にルカが立ち上がろうとするのをランドが無言で静止した。下の騒ぎの様子を窓を開けて見ているのか、下の騒ぎの声が鮮明に聞こえてきた。
「陛下、我々が行って静めてまいりましょうか?」
兵士らしい声もしてくる。外のさわぎの音で部屋の中の正確な人数は把握できないがかなりの兵士が待機しているようだった。
「ほおっておけ、しかし掘りの水がなくなるとははじめてだな。もしや聖水の効力が薄まっているかもしれぬな、万が一のことがあれば、外に出られるかもしれぬ…ふっふっふっ! 長かったのう…だがようやく時が満ちてきたようだ」
フツ王は独り言をつぶやいているかのように窓から見えるバルデ城を取り囲むような形で流れる堀の川を見つめながらつぶやいた。そして振り向きそばに控えている兵士らしき男に向って言った。
「城にいる兵士全てに伝令しろ! 蛆虫どもを一匹残らず始末してしまえとな。この塔の下と渡り通路にも兵士はきちんと置いておるのだろうな」
「はっ、その点は抜かりなく、全ての兵士及び、小屋の住民どもにも知らせております。人員はいつもの倍の人数を配置しております」
自分のことしか考えていないフツ王の言葉にマルーシャもあきれて吐き気を覚えた。その時一人の兵士が勢いよく飛び込んできた。
「申し上げます!」
「どうした?」
さっきのフツ王とは違う男の声がした。
「先ほど巡回に行っていた兵士数人が戻らないので様子を見に行かせたところ、向こうの同じ階でやられているのを発見したと報告が入りました」
「なんだと、敵はもうそこまで上がってきていたのか。いいか、いずれ渡り通路に姿を現す、気を引き締めて何がなんでもこっちへは通すな」
「はっ!」
そう言うと一人は勢いよく部屋を飛び出して行ったようだ。
「どうやらばれたようだ、お前ら行くぞ!」
ランドは小さな声で合図した。その合図でいっせいに剣をかまえ、臨戦態勢をとった。
「マルーシャ、俺の後ろを離れるな」
「了解」
マルーシャも真剣な表情で言い返した。ランドは後ろを確認すると、ドアを思いっきり蹴りやぶった。
広い部屋の中には、体格のよさそうなラールシア兵らしい男達が十人ぐらいおり、肝心のフツ王は部屋の反対側の奥の大きな椅子にドッカリと腰かけていた。
さすがのフツ王も意外なところから出てきたランド達に驚きをみせたが、すぐ冷静になり、そばの兵士達に怒鳴りちらした。
「お前ら何をしておる。こやつらを早く始末してしまえ! この役立たずが」
フツ王の言葉で中のフィスノダ兵達がいっせいに剣をかまえ斬りかかってきた。
「あなたがフツ王ね、あなただけは許さない。覚悟しなさい!」
マルーシャの目にはフツ王しか映っていないようだ。
「お前の手におえるやつじゃない、後ろにさがってろ!」
ランドはマルーシャの肩を抑えると力ずくで自分の後ろに下がらせた。その瞬間ランドの目の前に男が剣を振りかざして斬りかかってきた。
ランドは反射的に両手で剣を受け止めたがさすがのランドもバランスをくずし膝をつきそうになった。
そこへサミュがその男に横から体当たりをし、そのはずみで男の足元がぐらついた。
その一瞬をランドは見逃さなかった。ランドはすっと横に移動し男の横腹に剣を斬りつけた。
「きっ、貴様!」
大男が最後の力で体制をくずし床に転がってしまって倒れているサミュに襲いかかってきた。
そこへランドがもう一度男の体に止めをさした。
「大丈夫か?」
ランドはあわてて体制を立て直したサミュが剣を構えなおすのを確認すると、すかさず次々に襲い掛かる敵を相手にしていた。
五人が部屋の中のフィスノダ兵と格闘している頃、ようやく上の階でさわぎになっている声を聞きつけたラールシア兵達の数人が下から駆け上がり、通路のフィスノダ兵相手に一戦交える声が聞こえてきた。
「ようやく、気がついたか」
通路の騒ぎに気づいたルカがニヤリとさせた。
やがて部屋の中には最後に大男とフツ王だけになっていた。なぜなら衣裳部屋から部屋に飛び出した時、後ろにいたアルがとっさに部屋の扉を閉め、中から鍵をかけていたのだ。
この扉は王の部屋専用とあって、頑丈な扉に替えていたのがあだとなり、外のフィスノダ兵も簡単に入ってこられないでいた。
必死にドアを破ろうとしていたところへラールシア兵が下から上がってきたものだから部屋の外の通路でも双方の兵士達が入り乱れ混戦していた。
「さあ覚悟するんだな、フィスノダ兵はもうお前一人になったぞ」
ランドの言葉に最後に残った大男は不気味な笑みをたたえ、怯む様子もみせず一歩ずつ前に歩き始めた。
「くっくっくっ! 覚悟するのはお前らの方だ。お前らの相手は俺様一人で十分だ」
「何を!」
大男の言葉にルカが斬りかかろうとするのをランドが止めた。
「止めろ! お前のかなう奴じゃない、俺がやるからさがってろ!」
ランドの言葉に歯軋りさせながらルカがさがった。
「貴様が大将と見えるな。いいだろう、まずお前から相手をしてやる」
そう言うと大男はいきなり大きな剣振りかざしランドめがけて斬りかかってきた。
ランドはそれをはらいながら大男と互角に張り合っている。暫くして再びまともに剣をぶつけた瞬間、不意にランドの足元に激痛がはしりバランスを崩し、もっていた剣を跳ね飛ばされてしまい、ランドの足元に短剣が突き刺さった。短剣をなげたのはフツ王だった。
椅子に座っていたはずのフツ王が立ち上がり何本かの短剣を握りしめにやりとしていた。ランドはその短剣をすばやく足から抜くと、それをフツ王目掛けて投げ返した。その剣は見事フツ王の手をかすめ持っていた短剣を全部床におとしてしまった。
ランドはすぐに自分の短剣をだし大男の次の攻撃を受けたが短剣は目の前で粉々になり、間一髪のところでよけた。しかし肩をかすめた衝撃で鎧のおかげで傷はおわなかったが動きが鈍くなってしまい床に倒れこんでしまった。
大男は剣でランドにとどめを刺そうとしたが、ランドがすんでのところで体をひねると大男の剣は床に突き刺さり抜けなくなっていた。そこに見かねたアルとルカが大男の首を狙おうとした時、ランドの声が飛んだ。
「手を出すな!」
その声で二人は思いとどまったが、大男はランドが立ち上がる瞬間、ランドの首を掴み首を絞めながら立ち上がり、力任せにランドの体を頭ごと壁に叩きつけた。
ランドは気を失いその場に崩れおちてしまった。それを見て駆け寄ろうとした四人に大男が既に床に横たえている仲間の剣を一つ掴み立ちはだかった。
それと同時に扉が今にも開きそうなぐらいきしんできた。外から何かで扉を壊しているのだろう。
それをみたフツ王は、不気味な笑みをみせながら椅子に座り直した。
「そいつを仕留めたようだな。ではラールシアの諸君、ここまでたどり着いた運のよさはほめてやろう。だがここまでだ! ギル、さっさと残るそのうじ虫を始末してしまえ! その気の強そうな小娘は生け捕りにしろ! まさかとは思っていたが本当に兵士に混ざっていたとは…そいつを盾にすればラールシアはすぐにでも降伏するはずだ」
「はっ!」
フツ王の言葉を受け、不気味な笑みを浮かべ大男がアル達の方に歩きだそうとした瞬間、ギヤーというものすごい叫びと共に大男が前に倒れた。
大男の背には剣が突き刺さっていた。四人はいっせいに顔を上げると、そこには頭と足からも血を流しているランドが立っていた。
「ランド!」
四人同時の声にランドはニヤリとした。
「こいつは俺がやるといっただろう」
ランドは手で頭を押さえ壁にもたれかかりながら言い放った。
「びっくりさせるなよ!」
ルカが言った。
「ランド大丈夫?」
そう言いながらマルーシャはランドに駆け寄り、すばやくランドの前でしゃがみ込むと、自分の腰につけている布を抜き取り、ランドのとめどなく流れでている右足にあて、きつくしばり止血した。
「お前からのブーツ役にたったぜ」
ランドは壁に頭を打ち付けられた瞬間一瞬意識を失ったがすぐ意識を取り戻し、大男がランドに背を向けた瞬間に、自分のブーツに仕込んでいたもう一つの短剣で、大男の背中側から心臓がある部分を突き刺したのだった。普通のブーツには短剣は仕込めないのだが、これはマルーシャが靴職人に特別に作らせたマルーシャからの誕生日祝いの品で戦いに行くと決まった年に嫌がるランドに無理やり履かせたものだった。
マルーシャも同じ短剣を仕込めるブーツを履いていた。ブーツの短剣は使うことはないだろうと思っていたランドだったがこの短剣で命拾いしたのだ。
大男が倒れたことでかなり動揺したフツ王は椅子の横のテーブルに置いていた自分の剣を握り立ち上がった。
その時扉が破られた。とっさに扉に視線が集中した。そこからなだれ込んできたのはフィスノダ兵ではなく、ラールシア兵だった。
「ランシェルド様ご無事ですか?」
「お前ら遅いぞ! どこ道草くっていたんだ!」
ルカは扉のラールシア兵にいいながらニヤリとした。ランドはその様子を見て鋭い視線を残ったフツ王に向けた。
残るはフツ王ただ一人だ。




