バルデ城侵入③
ランドとマル―シャは敵を警戒しながらもフツ王の居場所を探してバルデ城内を捜索していた。
二人が通路の突き当たりまで来た時、目の前を横切っている新たな通路から聞き覚えのある足音と共にアルとルカが姿を現し合流した。サミュもその後ろから走りながら近づいてきていた。
「ランド! フツ王の居場所がわかったぞ」
「どこだ?」
アルの言葉にランドは立ち止まり聞き返した。
「ランシェルド様、この通路の突き当たりを左に曲がったら、南側の塔へ通じる渡り廊下が繋がっているそうです。そこを渡りきって、右の通路をまっすぐ行った突き当たりの部屋にフツ王がいるそうです」
居場所を答えたのはサミュだった。
「本当なのか?」
「確認はまだですが、先ほど偶然使用人通路に繋がる使用人部屋に迷い込んだ時に、隠れていた使用人にフツ王の居場所を聞いてみたらそこだと教えてくれたのです」
「がせねたじゃないのか?」
ランドが何かを考えながら言うと、サミュが真剣な顔で答えた。
「そうかもしれませんが、すごくおびえていたので、命はとらないから教えてほしいって剣を下においてもう一度聞き返したら、ふるえる声で教えてくれたので間違いないと思います」
「サミュ、その笑顔でにっこり笑いながら聞いたんでしょ」
「えっマルーシャス様どうしてわかったんですか?…まずかったでしょうか?」
サミュは左手で頭の後ろをかきながら、いつもの笑顔でマルーシャに微笑み返しながら言った。ランドはサミュの顔を見ながら頷き四人の顔に視線を向け小さな声で言った。
「よし、とりあえずそこに行ってみるか。いくぞ!」
そう言うとランドは先頭をきって走り出した。不思議なことにその通路にはフィスノダ兵は一人もいなかった。マルーシャはランドの後ろを走りながら隣を走るサミュにたずねた。
「サミュ、その使用人をあなたどうしたの?」
「あっ、他の兵士に見つからないようにしっかり隠れているようにいっときましたけど、いけなかったですか?」
「いいえ、それでいいのよ。その使用人も天使にでもあったんじゃないかって思ったんじゃない? あなたの笑顔は最高だもの」
マルーシャはサミュにウィンクしてみせ、微笑み返した。
やがて通路の突き当たりまで来ると突然ランドの足が止まった。壁に体をつけ、頭だけすばやくだし曲がった先の南側の塔に繋がっているであろう通路をうかがった。フィスノダ兵がこちらに気づかない距離であるのを確認すると、少し角から離れ壁に背をつけ、服の中から見取り図を取り出し現在位置を確認した。
「どうやらフツ王はサミュの言う通りの場所にいるのは間違いなさそうだな。この角の先の塔の通路前は兵士が群がってやがる。わかりやすい王様だ。だがここからそこまで距離がありすぎてあれだけのフィスノダ兵相手に真正面から突っ込んでも塔まで辿りつくのに時間がかかりそうだな…」
「そうだな…あまり時間をかけると騒ぎに気づいたフツ王に逃げられたらもともこもないからな」
ランドの言葉にアルが付け加えた。
「どうするかだが…」
ランドは小声でしゃべりながら真剣に見取り図を睨んでいる。アルも見取り図を眺めてふと、あることに気づきその部分を指さした。
「ここからいったらどうだ」
アルがさした場所は南の塔につながっている渡り通路だった。
「このままこの廊下を行った方が一番近いが数が多すぎて時間がかかりすぎてしまう。下で騒ぎが起きているからフツ王もまだ俺達がここまで侵入してきているとは気づいてないだろうから、逃げるかどうか様子を伺っているころだろう。もし逃げるとしてもこの見取り図を見る限り逃げ道は四ヶ所しかなさそうじゃないか」
アルの言葉に一同は見取り図に集中した。
「一つはこの先の唯一の渡り通路だが、ここに兵士が群がっているということはここを通る可能性はないだろう。残るは、このフツ王のいるらしい部屋のどこかにあるダストシュートだが、まだ見つかっていないと思っているフツ王があえて、ごみ捨て用の投げ入れ口から外へ逃げようとは考えにくい、南塔の中にある階段は一つだけだが、その一階付近には、どこを行き間違えたのかわからんが、上にいるはずのあいつらがフィスノダ兵と一戦交えているから通れない、残るはここ」
アルが指差したのはそう、渡り通路の下の部分、ランドが取り出してみていたのは、二枚目の王に提出用の詳しくかかれている見取り図の方だった。その見取り図には、渡り通路の下にも空間らしきものが書かれていた。
「この城の設計者はこの通路を非常事態用に、二重構造にしているんじゃないのか。ここを通っていけばほら、この通路の出口はちょうど今フツ王がいる部屋の隣の部屋に繋がっている。もしフツ王が密かに逃げるとしたらこのルートだろうからこの通路のことを知っていたとしても最悪鉢合わせですむ」
アルの提案にランドは頷いた。
「よし、アルの作戦でいこう。問題はその入り口がどこかってことだな」
ランスは見取り図を眺めていると、ルカが小さく叫んだ。
「その入り口なら俺知っているかも…」
いっせいに視線がルカに向いた。
「アルほら! さっきの変な額の後ろに小さな扉みたいなのがあっただろう。あれじゃないのか。俺達が通ってきた通路って、この先の通路と並んで部屋二つ分ぐらい向こうの通路だっただろう。方向としたらあっているぜ」
「そう言われてみればもしかしたらそうかもしれないな。行ってみるか?」
アルはランドの顔を見ながら言うとランドも頷いた。
「よし決まりだな、こっちだ」
ルカはそう言うと来た道を戻り始めた。戻る途中の通路につけられていたろうそく立てごと二本取り外し一度火を消し目的の部屋まで走った。
一同もルカの後に続いた。そしてルカはある部屋で立ち止まり、部屋の中に入る前に通路の壁にかけられていた火のついたろうそくに、持っていた二本のろうそく立てを近づけ火をつけ中に入った。
中は窓からさす月明かりでかなり明るかった。ルカはろうそくをかざしながら部屋を見渡した。
「あそこだ」
そう言うと豪華な料理が描かれている額の前で立ち止まった。そして一本のろうそく立てをランドに渡し、もう一つをサミュに手渡すと、両手で額の両端を持ってその額を壁からはがした。するとそこに人一人が通れそうな扉があらわれた。
そこを開けると、ろうそくの光に照らされて中の空間があらわになり、上下に通じる通路が見えた。
それと共に中からいい臭いが風に運ばれて入ってきた。ランドがろうそくで中の様子を覗き込んだ。
「ルカ、よくこんな仕掛けがあるって気づいたわね」
感心したように後ろで見ていたマルーシャがルカに向かって言うとすかさずアルが答えた。
「こいつの食い意地のおかげだよマルーシャ」
「おいアル、なんだよそれ、そんな言い方したら俺がまるで意地汚いみたいじゃないかよー」
「違うのか? こいつこの部屋を覗いた時、あやしい! いいにおいがする、きっとどこかにかくし部屋があるはずだっていいだしてこの部屋中探し回ったんだ。それでこの扉を見つけたってわけだ。ここは台所の換気口にも繋がっているんだろうな。調理のいいにおいが微かに残っているんだ」
「ルカ、たまにはその発達した嗅覚も役に立つことがあるのね」
マルーシャは手で口を押さえながら必死で笑いをこらえた。
「こらマルーシャ! 発達した嗅覚はよけいだぞ」
ルカはマルーシャに拳を振り上げるふりをして怒りながらブツブツと文句を言っている。
「仕方ねえだろ、腹すいてんだから」
「おい! しゃべっていないで行くぞ。ルカお前の発達した嗅覚のおかげでここから南の塔へいけそうだ」
「こらランド! お前まで俺を馬鹿にしやがって、お前ら覚えとけよ」
ルカがカンカンになって怒っていると、既に扉の中に入り、首とろうそくだけ扉から覗かせたランドがルカに向かってニヤリとした。
「ルカ! フツ王を倒してラールシアに戻れたらいくらでもお前の好きなものを食わせてやるよ」
そう言うとランドは頭をひっこめ中に入って行った。続いてマルーシャが入り、サミュが入り、ルカもまだブツブツ言いながら後に続き、最後にアルが続いた。




