ルッソラの森の秘密③
ルッソラの森を捜索していた兵士の一人が大きなツララを発見したと報告してきた。
ランド達が向かってみると確かに滝は流れてはいなかったが水が固まりツララが何重にも重なっている場所があった。
「ランド、ここで間違いないようだな」
ルカが巨大なツララを手で触りながらランドに向かって言った。
「ああ、問題はどこに抜け道の出口があるかだ…簡単にみつからない細工がしてあるはずだ、何か人工的に作られたものがないか手分けして探そう」
兵士たちは手分けして滝の周辺を探した。そんな中、マルーシャが滝つぼから少し離れた場所に腰かけながらツララが折り重なった滝を眺めていると、雲間から見え隠れしていた月が滝の上の方を照らし出した。
その様子をなにげなしに見ていたマルーシャは、ふと夏場なら川の水が流れだしてくるであろう場所のすぐ近くの大きなゴツゴツした岩の間に月明かりに照らされてキラキラと光っている丸い形をした石が目に留まった。月の光がその石に反射して、すぐ下の滝の真ん中辺りをさしているのに気が付いた。
「ランド! ちょっとここに来て」
滝の下周辺にいたランドが、離れた場所の石の上にのんきに座っているマルーシャに険しい表情をしてみせたが、よく見るとマルーシャは何かをしきりに指差しているのに気づきマルーシャのそばに駆け寄った。
「マルーシャ、どうしたんだ」
ランドが近づくと、マルーシャは立ち上がりランドの顔を自分の指差す方向に向けながら言った。
「見て、あのツララの頂上辺りのすぐ横に一箇所だけ月に照らされてキラキラしている場所が見えるでしょう。その石の光が反射している場所、ほら滝の真ん中辺りの横の岩がゴツゴツみえている隙間から大きい木が突き出している辺りがなんだか怪しくない?」
マルーシャに言われるまま視線を移動させると確かにそこだけ不自然に光が反射していた。
「なるほど、あそこに秘密の通路のスイッチか何かありそうだな」
そう言うとアルとルカを呼び寄せた。
「さて、あそこへどうやって登るかだな…夏ならともかく、こうツララがせりだしてツルツル滑るとなるとなかなか登れないぜ、登山用の道具なんか持ちあわしていないしなあ」
ルカが腕を組みながら滝を眺めていると、視界にサミュがはいった。
「なあランド、サミュになぜ弓と縄なんか持ってこさせたんだ」
「ああ、もし秘密の通路をみつけられなかったら最悪あの弓を城の跳ね橋に突き刺して綱渡りでもしようかと思ってな」
そんな無謀なことを口にしたランドにアルとルカはランドなら本気でやりかねないと顔を見合わせ、秘密の通路が見つかるように神に祈りたい心境になった。
「あれがどうかしたのか」
ランドの問いにルカが岩の隙間から空に向って突き出している太い木を指差した。
「あの木に下から弓矢で縄を通して、体重の軽い奴に登らせるってのはどうだ。俺達じゃあ、あの太さだと途中で折れそうだし」
「よし! 他に方法もなさそうだ、やってみるか」
そう言うとランドは滝の下にいたサミュに近づき、サミュの持っていた弓に縄を巻きつけ少し離れた場所から木を狙い弓を思いっきり引いた。すると勢いよく弓矢は滝を登り、見事目標の木をくぐり反対方向に縄が通った。
「やりー! さすがランドだな、さて誰が登るかだな…」
三人が誰か適任者がいないか周囲をさがしていると、マルーシャが手を上げた。
「ねえ! 私がやる!」
三人は一瞬マルーシャに目をやったが三人とも聞こえなかったかのようにまたすぐ小柄で軽そうな兵士を捜し始めた。
「何無視してくれているのよ! ここにこんなにきゃしゃな女の子が目の前にいるじゃない」
「マルーシャ…お前自分の体を持ったことないだろう。お前は見た目よりかなり重いぜ」
アルとルカはそこまで言うとやばいぞーと視線をランドに送ったが既に遅く、ランドの頬にマルーシャの平手が飛んだ。
「もう! ランドのばかあ! 失礼しちゃうわ! ええええ! どうせ私は重いですよ! 何よ、私より体重が軽いっていったらサミュぐらいなもんじゃない!」
マルーシャの一言に三人は顔を見合わせ叫んだ
「そうだアイツだ!」
「おーいサミュ! その縄をもって早くこっちにこい」
飛んで行った弓を追って、凍った川の上におり、弓のついた縄をようやく掴んでいたサミュに向かってアルが叫んだ。サミュが弓のついた方の縄をもう片方の縄を掴んでいたルカに手渡した。
その時ルカがやけにニヤニヤしていたのが気になり、アルとランドに視線を移した。だがアルも笑っている、ランドだけはサミュには笑いかけず、きびきびとした態度でルカから縄を受け取り木の真下に縄を持って立ち、サミュを呼んだ。
「おい! ボヤボヤしてないで鎧を外してこっちに来い!」
サミュはランド鋭い声にあわてて着けていた鎧を外し、ランドの元に駆け寄った。
兜は夜の攻撃は視界がさらに狭くなるためと今回の暗闇で動きやすさと味方の区別するためを優先し被っていなかった。
「この片方の縄を解けないようにお前の体を縛れ、いいかきつく縛らないと途中で解けると命はないぞ」
サミュは何がなんだかわからないまま自分の腰に縄をきつく縛った。
「できました」
「今からもういっぽうの縄を他の兵士達で引いて、お前をあの木の辺りまで引っ張りあげるから、お前はあの木の辺りまでついたらそばに変わった石か何かないか探すんだ、わかったか」
「えっ! あっあの…僕」
「俺はわかったかと聞いているんだ。できるかできないかは聞いていない」
「わかりました」
サミュは頭上の木を見上げながら身震いした。そこへマルーシャが後ろから近づき、そっと耳打ちした。
「サミュ安心して、もし木が折れても下でランドが必ず受け止めてくれるわ。そうでしょ。このわ・た・しより軽いサミュだものわけないわよね、ランド!」
マルーシャはあえて私を強調してジロリとランドを睨んだ。
「ああ、落ちたら必ず受け止めてやるから安心しろ」
ランドは大きなため息をついて視線を頭上に向けた。
「はい! 僕頑張ります」
「よし! いいかお前達、せーのでゆっくり縄を引くぞ」
ランドはすぐに散らばっていた兵士を滝つぼに一列に並ばせ、縄を掴ませいっせいに合図を送った。
やがてサミュの体が宙に浮かび、ゆっくりと木に近づいて行った。
「おーいサミュ。その辺だ、何かないか?」
木の近くまで登ったサミュは周りの岩を手探りで触ってみた。すると木のすぐ真下辺りに他のゴツゴツした岩と比べて小さく、触るとツルツルした人工的に作られたような石があることに気付いた。
「ランシェルド様、ここに変わった石があります」
「よし、その石をおもいっきり押してみろ!」
サミュは言われるままその石を思いっきり押してみた。するとゴオーという地響きと共に氷ってできたツララが砕け、滝がまっぷたつに別れ、そこから空洞が現れた。
それと同時にワーッという歓声がおこり兵士達はいっせいに握っていた縄を放してしまった。
「うわー!」
緩んだ縄でサミュはまっ逆さまに下に落ちてしまったが、マルーシャの言葉通りに、間一髪ランドがサミュを受け止め、ゆっくり下にサミュをおろした。
「ランシェルド様」
「よくやったサミュ。大丈夫か?」
「はい!」
サミュはランドから自分にはじめてかけられたやさしい言葉に、落ちたショックも忘れてボオーとしてしまった。ランドはすぐに何もなかったかのように開いた通路を覗きに向かった。
「おい!たいまつに火を起こせ!」
ランドは兵士の一人に命令し、たいまつの火を受け取ると、今開いたばかりの通路の奥にたいまつをかざした。中は真っ暗で湿ったかび臭い匂いが充満していた。
たいまつの火を向けると中は石の階段がずっと下の方に長く続いているようだ。
「よし! バルデ城に侵入するぞ! 覚悟はいいな! 用心深いフツ王のことだ、見取り図通りの王の間にはいないだろうから城内にはいったらまずフツ王を捜すんだ。あいつを打ち取ればけりがつく。みんな生きてラ―ルシアに戻るぞ。さあ出発だ! 各自たいまつを持って俺の後に続け!」
ランドは大きくたいまつを掲げると、先頭に立って真っ暗な洞窟の中に足を踏み入れた。ランドに続いてマルーシャが入り、アル、ルカと続いて行った。
暫く呆然としていたサミュも正気に戻り急いで縄を解き、外していた鎧と剣を付け直すと、そのままになっている縄を手繰り寄せると肩にかけ、他の兵士達に続いた。
一方先頭を行くランドは慎重に足を進めていた。中は二人がやっと通れるほどの狭さで、横の土壁はツルツルしていて足元の石の階段は湿気を帯びて滑りやすくなっていた。
体を支えるのにはどこも役にはたたなかった。その上、下り階段はなだらかで時折平な場所は途中から横にずっと続いていたが確実にバルデ城に向かっているようだった。
先がどうなっているのはわからない真っ暗な地下の通路をラールシア軍はしゃべる者もなくバルデ城を目指し進んでいた。




