ルッソラの森の秘密②
洞窟に避難したラールシア軍だったが吹雪はその夜から雨に代わりは朝になっても止むことはなかった。結局一日足止めをくらったランドたちだったが豪雨がようやくやんだのはランドたちが洞窟に入って丸一日が過ぎた夜中になってからだった。だがどんよりと曇った厚い雲が月を覆い隠し、よりいっそうの暗闇を引き立てていた。
森は降り積もっていた雪を溶かし足元はかなりぬかるんでいる様子だった。
ランドは目前に迫ったバルデ城奇襲に備えここからは余分な荷は置き去りにし、武装していっきにバルデ城に近づこうと考えていた。兵士達も武装し、いよいよバルデ城に近づくと知らされると、兵士達の間にも緊張が走った。
「みんなよく聞いてくれ、ここから森を進むとすぐにバルデの都が見えてくる。だがそこに行くには谷を下る必要がある。その谷を越えればバルデの都だが、バルデ城に侵入するには困難を極める。これからまずバルデ城を見渡せる場所に俺達が先に偵察に行っている間、お前達は合図があるまでこの場で待機していろ。サミュ! お前は太い弓と丈夫な縄を持って俺達についてこい」
「了解いたしました!」
兵士たちは皆気を引き締めた。
やがてランドとアルとルカそれにマル―シャとサミュの五人で先に洞窟をでて森を抜けた五人は軍は山岳地帯を抜け森の終わりの谷に到着した。この森へつながる橋は以前はかかっていたようだが、壊されていて向こう側の都には渡る橋はなさそうだった。
その頃には雲は姿を消し、月が顔だし、辺りは視界がよくなっていた。ひっそりと静まりかえった都は物音一つせず、静まりかえっていた。だがまだそんなに遅い時間帯ではないにも関わらずどの家の窓からも光は洩れていないようだった。
「おいランド! これからどうするつもりだ。あれが城だろ。当然跳ね橋なんか閉じてるぜ」
ルカがバルデ城を指差しながらランドを見たがランドは城には目もくれず、一様に都の様子を伺っていた。
「ランドどうかしたのか? 何か見えるのか?」
ランドの態度を不思議に思ったアルがランドに向かって小さな声で聞いた。
「よく見てみろ。フィスノダ国の最大の都にしては人の気配がまったく感じられない、まだ深夜でもないのに光が漏れている家が一軒もないだろう」
「フィスノダは隣国との国交を断絶しているんだろ、ローソクや油が一般人にまでまわっていかないんじゃないのか?」
「そうだろうな。だがここまでとは…普通、城のすぐそばの都なら兵士達が警備のために明かりをともして兵士達が巡回していてもおかしくないんだが、城門は閉ざしたままだ。あの雪のつもり具合は少なくとも雪が降りだしてから一度も開いていないということだ」
ランド以外の四人は改めて都全体を見渡しながら頷いた。するとランドはおもむろに一枚の紙を懐から取り出しそこにひろげた。それをみたルカが思い出したように話し出した。
「そういえばドンバ港のあの爺さんから聞いた話じゃあ、噂ではフツ王に政権が代わってから、バルデの都の男達は夜になると城門のすぐ内側のいたるところにびっしりと建てた粗末な小屋に移動させられて、交代で夜通し城の外から進入者がせまっていないか見張らせているらしいぜ。フツ王は夜の闇に紛れて万が一敵が侵入してきても城の中には決して進入できないように城門から内側の城の領域をずっと厳重に警備させ続けているらしいぜ」
「政権が変わってて言ったら五年以上も前からってことか? なんでそんなに警備を厳しくしていたんだ?」
「そりゃあするさ、前王の息子はまだ生死が不明のままだからな」
「前王の息子ってまだ当時子供だったんだろ、そんな子供に何ができるんだ?」
「前王の王妃は、バルジ王国の王家の人間だったらしいぜ、もし、王子が生きのびてバルジ国に助けを求めたとしたら、バルジ国としても王家の姫だった人間を殺されて、だまっているとは思えないからな、今のところバルジ国に動きはないようだが、フツ王は密かに恐れているのさ、今なお絶大な人気がある前王の息子が成長してバルジ国から援助を受けて国を奪い返しにあらわれるんじゃないかってな」
「おいおい…そんなんだったら城に侵入するのなんかなおさら不可能なんじゃないのか? 仮に夜の内にこの都が火事になったとしたってそんなに用心深い王様なら絶対開門の許可はしないんじゃないのか」
「その通りだ、だが入る方法がないわけじゃない。これを見てみろ」
ランドはひろげた紙を指差し四人を周りに集めた。
「ランド? これって見取り図か? 本物じゃないよな? やけに詳しく書いているようだが」
「正確には本物の原型になったやつの写しだ」
「原型って?」
「昔、俺がフィスノダにきていた時、何者かに追われていた老人を助けたことがあってな。その老人はバルデ城の設計士の子孫だったらしいんだが、今のフツ王の残虐ぶりと国民への度重なる弾圧で苦しんでいる人々を救おうと、その老人はラールシアに行ってこの地図と引き換えにフィスノダを何とかしてほしいと談判しに行くつもりで密かに機会をうかがっていたらしいんだが、フツ王の刺客に見つかって命を狙われていたらしいんだ。刺客からは逃げたらしいんだが、深い傷を負っていてな、命が短いのを悟ったその老人が俺の持っていたラールシアの紋章入りの短剣を見て、俺がラールシア王家ゆかりの人間だと勘違いして老人が俺に地図とこの古いバルデ城の見取り図をくれたんだよ」
「おいちょっと待てよ。お前が家出していた頃って確か戦争が始まるかどうかって時期じゃなかったか、俺達がまだ軍の見習い兵士になるかならないかって時期だろ? なんで王家の人間しか持てねえラールシアの紋章入りの短剣なんか持っていたんだ? それにその老人はそれをトルベル国王に代わりに持って行ってくれってことだったんじゃなかったのか?」
「そうだろうな、短剣はスーリア王妃様から借りていたんだよ。旅から戻った時返したけどな」
平然とした口調で言うランドに返す言葉を失った四人だったが、結果的に数年を経てフツ王を倒すために使われているのだからその老人も本望だろうとみな心の中で思い、あえて口にはださなかった。
「見取り図は二枚重ねになっていてな。その老人が言うには、上は城に献上した見取り図、そして下の見取り図は国王のみに密かに手渡された城への抜け道を記した見取り図だっていうんだ」
「だが、この見取り図が本物の写しだという証拠はないんだろう」
「そうだが少なくともこっちの地図の方は正確だったぜ」
ランドは別の地図の方も懐から取り出し答えた。
「ランドそれでどうするつもりだ」
「ここを見てみろ、このバルデの都の方に秘密の通路が記されているんだ。おそらくこの通路のことはクーデターで政権を奪ったフツ王は代々国王のみに手渡されているはずの見取り図は手にしていないだろうからな」
「だけどランド、なぜこっちなんだ。サランの方が場所もわかっていたんだろう? あっちの方が確実に城に侵入できるんじゃないのか?」
「ああ、だがあいつの短剣がここを刺していたんだよ。おそらくフツ王もサラン側の通路は使っているんだろう。待ち伏せ覚悟でつっきろうかと思っていたんだが、城に無傷で侵入できるにこした事はないからな。この城に関しちゃあ、あいつの方が詳しいからな。そのあいつがあえてここを示したということは、こっち側の抜け道はフツ王は知らないだろうという意味だと思う。この場所を突き止められればダメージを極力抑えて城に侵入できるだろう」
「だけどよう…あの男いったい何者なんだ? 本当に信用できるのか?」
ルカの言葉にランドは少し間をおいて城に視線を移しながら答えた。
「少なくとも今この世でフツ王を一番憎んでいるのはあいつだっていうことだけは確かだ。そのフツ王を代わりに倒そうとしている俺達に嘘は言っていないはずだ」
「フツ王を恨んでいる人間なんてこのフィスノダ国には山ほどいると思うが、わかった、じゃあまずその見取り図に記されている城からの非常用出口のあるらしい滝を探そうじゃないか。この寒さだ、今は氷ついてツララになっているかもしれないが…」
「それしか方法がないんじゃ探すしかないな」
アルの言葉にルカも同意し4人はすぐさま立ち上がり、さっき来たばかりの森林に引き返し、兵士達に命令して、森林一帯の中にある滝もしくは滝らしいものを探させた。




