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ラールノダ②

「ランシェルド、さすがティ―ゼルン家のご子息ね。あなたも血が騒ぐのね。そうね、あなたのいうとおり、このラミドの都にある書籍には、ラールノダに関する歴史はどこにも記されていないでしょうね。城の中の資料館室の中のものなら、もしかしたら昔の資料が残されているかもしれないけれど…あそこは誰でも入室が許される場所ではありませんから、入るのは難しいわね。でも、難しい本や古い書籍だけが、昔の手がかりを調べられる唯一のものとは限らないのですよ」


「それはどういう意味でしょうか?」


ランドは首をかしげながら真剣な顔で聞き返した。

すると、スーリア王妃はマルーシャを膝からおろし、立ち上がり湖に視線を向けると、昔からこのラールシアに伝わる祈りの唄を唄いだした。

それを聞いたマルーシャがスーリア王妃の元に駆け寄り、スーリア王妃の後に続いて同じ唄を唄いだした。唄い終わると、スーリア王妃はマルーシャを抱き上げると、ランドの方に向き直り付け加えた。


「ランシェルド、確かに昔のラールシアの人々はラールノダ王国に関することを書物に書き残さなかったかもしれません。けれど、人々は伝説を、子供達に語りついでいるでしょう。この地に昔から唄い継がれている祈りの唄にもラールノダという言葉がでてくるでしょう。ランシェルド、昔話や昔から唄われている唄には、時として真実や昔の人々の願いや思いが隠されていることもあるのですよ。未来に生きる私達へのメッセージとしてね。あなたがもし、真実を心から知りたいと願えば、真実はいつか必ず見えてくるものですよ」


「いつか真実が・・・」


スーリア王妃は何度も同じ言葉を繰り返しながら、じっと、シアフィスの森の方角を見つめているランドに笑みを浮かべながら彼の顔を眺めていると、マルーシャが目をキラキラ輝かせながら叫んだ。


「お母様! 私はあると信じるわ。そのッ・・・キューラ城! だって、もしまだあるのなら素敵だもの。私見てみたいわ!」


「そうですねマルーシャ」


「お母様、これは内緒なのだけれど、フィスノダ国のセジード王子の夢は、いつか神様のお城を復活させることなのですって、でもみんなには今はまだ内緒なのですって、私にだけこっそり教えてくれたの。私もそうなったら素敵だわってお話したのよ。でも、セジード王子もそのお城の場所はどこか知らないって言っていたわ。いつか探しにいくのですって、私も行きたいわ。お母様! いつか私にも見つけられるかしら?」


マルーシャは小さな瞳をキラキラ輝かせながらスーリア王妃の顔を見ながら言った。


「そうね、まだあるのなら素敵ね。でもマルーシャ? セジード王子と会ったのはこの間が初めてではなかったかしら? もう親しくなったの?」


「ふふふっ、お母様、私自分が大好きになりそうな人はひと目でわかるのよ。私フィスノダ国のセジード王子といとこのノアーヌ姫は大好きよ。だからすぐ仲良くなったの。この間フィスノダ国のバルデ城に行った時、私、こっそりお母様がくださったホーリの子守唄の絵本を持って行っていたのよ。見たことのない絵本だってノアーヌ姫が言ったからみせてあげたの。その時、セジード王子もそばにいたからたくさんおしゃべりしたの。私があの絵本に描いてあったお城はきっとどこかにあると思うって話したら、セジード王子もまだあると信じているって言ってくれたの。だから私、セジード王子と約束したのよ。いつか、二つの国を一つにしましょうって。お母様、いつかラールシアの人達がもっともっとフィスノダ国の人達と仲良くなったら、キューラ城は私達の前に姿を現してくれるわよね?」


「そう、セジード王子とそんなお話をしたの。そうね、そうなると素敵ね。でもねマルーシャ、あの美しい都で暮していた王女様の物語のホーリの子守唄の絵本には本当は続きがあるのですよ」


「続き?」


「ええ、あの本にでてくるラールノダ王国の伝説にはキューラの都を暗い闇が覆い尽くしてしまったという悲しい伝説も残っているのですよ。華やかな都で暮らしていた人々の心にも闇の心が誕生してしまうのです。ねたみうらみ嫉妬が、やがて人々の心を蝕み、闇は人の心に甘い誘惑をささやいたのだそうよ。願いを叶えるかわりに仲間や親兄弟全てを裏切れとね。あのシアフィスの森はそうした闇の囁きを受け入れてしまった人達の魂が天の神の元にも行けず全てのものを恨み妬み助けを求めて彷徨っているのです」


「みんな仲良くしないから天の神様は怒ってしまわれたのかしら?」


「そうかもしれないわね、人というものは、信じることを忘れてはいけないのですよ。なにより、私達も彼らと同じ民族の血が流れているのです。いいですかマルーシャ、決して、人を裏切るようなことだけはしてはなりませんよ。いつの日か、天の神様が私達民族の罪をお許しになってくださる時がくるように、争いが二度とおこらない世界になるよう、さあみんなも一緒に祈りましょう」


スーリア王妃の言葉を聞いた幼い四人の子供達は、無言のままスシュル湖に向って目を閉じ祈りを捧げた。しばらくしてマルーシャがスーリア王妃の頬にキスをしてから笑顔で言った。


「ねえお母様、私たちの神様はイクーリア様でしょ。でもイクーリア様は天にはいないで、ここにいらっしゃるのでしょう?」


「ええそうですよ」

「だったらイクーリア様も天にいらっしゃる別の神様と喧嘩をなさっているのかしら?」

「えっ? どうしてそう思うのマルーシャ?」


「だってほかの国の神様は天にいらっしゃるのでしょう? ここにいらっしゃるということはイクーリア様も誰かと喧嘩をなさっているから天にお帰りにならないのじゃないかしら」


「そうねえ、もしかしたら、誰かと仲直りしたくて天に帰らないでこの地に留まっていらっしゃっているのかもしれないわね」


「お母様! 私たちみんな仲良くなったら、イクーリア様は別の神様とも仲直りなさって天に戻られるの時がくるかしら」


「そうかもしれないわね」


「そうだわ。私がみんなの心を笑顔にしてあげるわ。みんなの心が笑顔になって、フィスノダ国の人達とも心が一つになったら、神様はきっとキューラ城を私達に見せて下さるわよね。そしたら私が闇に囚われている魂も助け出してあげて、イクーリア様に天へ戻れるようにしていただくわ。みんながいい子になって、喧嘩しなくなって、みんな仲良くなったら、もう争いは起こらないでしょ? ねっ! いい考えでしょ。そうしたら、みんなもイクーリア様もきっと天のお家へ帰れるようになるんじゃないかしら」


マルーシャは地平線の向こうに広がるシアフィスの森を指差しながら言った。


「素敵な思い付きねマルーシャ。そうだわ、あなたの夢が叶うようにお守りをあなたにあげましょう」


スーリア王妃はそう言うとマルーシャをおろし、、首につけていた銀の首飾りをはずした。その首飾りには指輪が繋がれていた。それをマルーシャの首にかけた。


「これはお母様の生まれた家に代々受け継がれてきた指輪なのですよ。これを持っていれば、きっとご先祖様達があなたを危険から守ってくださるわ」


「お母様、これはお母様がいつも身につけている大切なものなのでしょう? 私がいただいてもいいの?」


マルーシャはその首飾りに付けられていた銀細工で城の形のような模様が彫りこまれている美しい指輪をまじまじと眺めながら聞き返した。するとスーリア王妃は答えた。


「これからはあなたのものですよ」


「本当? わあ素敵! 私この指輪前から気になっていたの、だってこの指輪とてもきれいなんですもの。お母様ありがとう。あら? この指輪…裏に何かが書いてあるわ、お母様何と書いてあるのですか?」


スーリア王妃にかけてもらった首飾りに通されている指輪をまじまじと眺めながら首をかしげているマルーシャにスーリア王妃はやさしく微笑みながら言った。


「マルーシャ、あなたはこれから、この国の王女として、さまざまなことを学び経験し、この国の民のために何が大切なのか見極めながら生きていかなければなりません。それはたやすいことではないでしょう。そしてあなたがこれから歩む人生には、さまざまな苦難が起こってくるでしょう。けれど、どんな時も人々の心を暖かく照らす太陽のように、笑顔を忘れてはなりませんよ。その指輪には仲間を意味するルーフ・ラズレーンという言葉が記されているのです。マルーシャ、今は理解できないでしょうけれど、この言葉は忘れてはなりませんよ」


「ルーフ・ラズレーン?」


「そうです、ルーフ・ラズレーン。ランシェルド、アルセンド、ルカリオ、あなた達もこれからどんなことが起こっても、みんなで助け合って、乗り越えていくのですよ。三人ともマルーシャを頼みますよ。ルーフ・ラズレーン、みんなもこの言葉を覚えておいてね。いつかその言葉の真意が試される時が必ずきます。その時どんなことが起きても、あなた達は一人じゃない仲間がいるということを忘れてはなりませんよ。どんな困難なことがあなた達の身にふりかかってきたとしても、あなた達が笑顔と仲間を信じ続ける限り、あなた達の未来は光輝くでしょう」


スーリア王妃の言葉に四人の子供達は大きく頷き、互いの顔を見合って笑顔をたたえていた。スーリア王妃はそんな四人の子供達に笑顔を向けながら、まるで遠い未来が見えているかのように、幼い四人の子供達をやさしい眼差しで見つめ続けた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 指輪物語を彷彿とさせる様な正統派ファンタジーですね。世界観というか設定も良く練られている印象を受けました。その辺りは設定適当人間の私にはとても参考になりました。 続きも楽しみに読ませて頂き…
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