出発③
ラミド城を出た二人は一路モビレの砦にいる仲間の所を目指し馬を走らせていた。
城を出てからラミド城下を通り過ぎ、ドルタ平原に差しかかってから隣をいくランドの横顔をチラチラと見るが相変わらず無表情な顔を崩さないのでマルーシャは何も話しかけられずにいた。
「マルーシャ、何か言いたいことでもあるのか?」
マルーシャの視線に気がついていたランドがぶっきらぼうに聞いてきた。
「えっ、べっ別に…」
マルーシャは突然のランドの言葉にドキッとしながらランドの顔を一瞬みてすぐ顔を逸らしたが意を決してしゃべり始めた。
「あっあのね、そろそろ私がいなくなったって大騒ぎになっている頃かなって思って」
マルーシャの答えにランドは何も答えなかったが、マルーシャは気にせず話し続けた。
「でもね、実はグレナには言ってきたの。だから私がランドと戦場に戻ることはじきにお父様には伝わるはずなの。お父様が知ったらきっと怒るでしょうね。だまってでてきちゃったし…結局お父様とは一言も話さなかったから」
相変わらず無言のままのランドの態度にマルーシャは不安になって恐る恐る聞き返した。
「ねえ、まだ私がついてきたこと怒っているの?」
「いや、恐らくお前も一緒に城をでることはすでに陛下はご存知だったはずだ」
「えっ! そんなはずはないわ! お父様が気づいていたのなら兵士の誰かが追いかけてくるはずでしょう。でもそんな気配はないわよ。きっとグレナはまだ話していないのよ」
マルーシャは後を誰か追ってきていないか確認してからランドの顔をみた。
「考えてもみろ、俺が一人で戦場へ戻るからと、夜明け前に開門を頼んでおいた時点ですでにそのことは陛下の耳に入っているはず、だが城をでたのが馬二頭に俺とは別にもう一人いたことに気づいた門番がおかしいと陛下に報告しないはずがないだろう」
「そっそれじゃあ…お父様は私が戦場に戻ることをお許しになってくださったっていうの? 私の自由にしていいと…私はお父様に何も告げずに来たというのに…」
マルーシャはそう言うと、馬を止めて馬からおり、後方に見えているラミド城を見つめた。
ランドも馬からおりマルーシャに近づいた。
「俺達は必ず陛下の思いに答えなければならない。マルーシャ、特にお前はどんなことがあっても必ず生きて戻らなければならないんだ。この国がこの国であり続ける為にも」
「ランド…私にできるかしら?」
「マルーシャ…お前の存在は必ず勝利に導く光になる。だからお前は生きることだけ考えていればいいんだ。俺達の仲間の身に何が起ころうとも」
「そんなこと約束できないわ! ランドたちにもしものことが起きそうになったら私は正気なふりなんてできないわ。みんなで帰還するわよ絶対に」
マルーシャはランドに向かって首を振ってみせたが、ランドの決意もまた変わらなさそうだった。
暫く無言が続いていたが沈黙を破ったのはランドの方だった。
「ところでその背中の荷物はどうしたんだ? 行きは背負ってなかっただろう?」
突然話題を変えられたマルーシャはうまくはぐらかされた気分ですっきりしなかったが内心ほっとしながら自分の背中の荷物をおろした。
「そうそう忘れていたわ。これグレナに持たされたのよ。途中休憩した時に開けるようにって」
そう言いながらマルーシャは荷物の中に手を入れ、中の荷物を取り出した。
「あっ、これお弁当だわ。ランドの分もあるみたいよ」
そう言うと大きめの包みをランドに手渡した。
「ありがたい、正直何も食べていなかったからな。さすがグレナだ」
ランドはそう言うなりドカッとその場に腰をおろし、マルーシャから受け取った包みを開けその中身を食べ始めた。
「私も食べよっと」
マルーシャもランドの隣に腰をおろすと、ラミド城を眺めながらお弁当をほうばった。
食べ終わった二人は暫く無言だったが先に口を開いたのはランドだった。
「なあ覚えているか? 昔よくアルやルカ達と城を抜け出して馬に乗って遠乗りに出かけたよな。みんなに内緒できているはずなのにお前は必ずお弁当を持ってきていたよな、それも俺達の分も」
「そうそう覚えているわ。小さい頃は不思議で仕方がなかったわ。だって遠出の時は誰にも内緒にしていたのに部屋を抜けだそうすると、必ず入り口にお弁当入りのかばんが置いてあったのよね。大きくなってからわかった事だけれど、あれはグレナだったのよね。グレナにはいつもばれていたみたいなのよね。グレナはどうしてわかっていたのかしら? 今でもわからないわ」
マルーシャは懐かしそうに昔を振り返りながらチラッとランドの横顔を覗き見た。
ランスも珍しく穏やかな顔をのぞかせていた。
「マルーシャ、必ず生きて戻ろう。ラールシアに勝利をもたらしてな。さあ! そろそろ行くぞ」
ランドはそう言うと最後の一口を口に放り込むと立ち上がり自分の馬に飛び乗った。
それを見たマルーシャもあわてて食べ終わり笑顔をラミド城に向けた。
「お父様、必ずラールシアに勝利をもたらして戻ります」
マルーシャはラミド城に向かって一礼すると、何かが吹っ切れたかのようにスッキリした顔で笑顔をランドにみせた。
「さあ行きましょう。勝利を掴み取るために未来を光に変える為にね」
マルーシャの笑顔にランドも小さく微笑むと頷き返した。
マルーシャももう振り向かず、ランドの後に続いて自分の馬に飛び乗り、空を見上げ心の中でささやいた。
(お母様、空から見ていてください。私は必ず取り戻してみせます。お母様が望んでいらした失われた絆をこの手で…)
その頃、城の王の書斎では窓の外を見詰める影が二つあった。
「陛下、本当によろしかったのですか? 姫様をあのまま送り出して」
窓の外に視線を向けながら無言のまま立っているトルベル国王に扉の前に立っていたグレナが話しかけた。
「すまなかったな。そなたもずっと寝ていないのであろう」
「いえ、わたくしは…スーリア様の危機にも側にいながら何もできませんでした。せめてこれぐらいなんでもございません」
「もう悔やむな。あれは事故だ。いつかあの子に真実を話す時がくるだろうが今はその時ではない。戦況はいよいよ決着の時が近づいている。わしは無力だな。若者たちにこの国の運命をゆだねなければならぬのだからな」
「陛下…大丈夫ですわ。マル―シャス様なら必ず勝ってご帰還なさいますわ。スーリア様がお望みになられていた絆を結んで」
「そうだな」
トルベル国王は見えなくなった二人の幻影を見詰めながらそっとつぶやき、静かに部屋の窓を閉じた。すべてを胸の内に秘めながら。




