スーリア王妃の死③
その頃ランドは、スーリア王妃の亡骸が安置されている王妃の間の前にいた。
そこにトルベル国王がいると聞いてきたからだ。
王妃の間の前には数人の兵士が扉の前で警備の為立っていた。ランドは静かに扉をノックした。
「陛下、ランシェルド・ティーゼルンです。少しお時間よろしいでしょうか? このたびの爆破騒ぎを少し調べてみたのですが、少々腑に落ちない点がございましたのでご報告にまいりました」
王妃の間ではベッドの上で冷たくなって横たわっているスーリア王妃の亡骸のそばで一人佇んでいたトルベル国王はランドの声を聞き、静かな声で入るように答えた。
「ランシェルドか? 入るがよい、余もそちに話しがあったのだ」
トルベル国王はランドが部屋に入り扉を閉めるのを確認してから王妃の亡骸を見詰めながら呟いた。
「ランシェルドよ、人の命とははかないものだな。王妃の亡骸は今にも目を覚ましそうな穏やかな顔をしているというのに、もう二度と笑顔を見せてはくれぬのだからな…余は今日ほど自分の無力さを思い知らされたことはない。そばにいながらスーリアの苦しみを何一つ取り除いてやることができなかった…余は無力だな」
「陛下! 無力だなどと、決してそのような事は断じてございません。陛下はご立派にこの国を治めておられます。無力とおおせられるなら、それは我々の事、もっと早くフィスノダを降伏させることができてさえいたならば、王妃様がこのような事になられることもなかったかもしれません。本当に申しわけございません」
「いや、そなたが詫びる必要などない。そなた達はよくやってくれているではないか。命を懸けて戦う必要のなかったはずのそなた達に無理やり剣を握らせ戦場へと送り込んだのはこの余じゃ。兵士達の中には恨みに思っている者もいよう。父上が築き上げた和平を交渉で続けられなかった余の責任だ。今こうしている間も戦場の兵士達は命をかけて戦っているであろうに…」
トルベル国王は疲れきった表情でため息をつきながら、そばにあった椅子に腰をおろした。
「陛下、我々は誰も陛下を恨んではおりません。先に和平を撤回したのはフィスノダ国だったではありませんか。彼らによって多くの町が消えてしまいました。我が国は神の恵みで再び生活が潤い、人々の生活は活気が戻ってきてはおりますが、今のフィスノダ国のフツ国王を倒さない限りこの国の真の平和はおとずれません。必ずやラールシアに勝利をもたらしてみせます。明日の夜明けには戦地に戻りますが、その前に今回の件を独自に調査してみたのですが、城内に残っていた不発弾はフィスノダ軍のように似せておりますが、別の国のものではないかと思われます。恐らく砲弾は密かにこの城内に運び込まれてから爆破させたようなのです。もしかすると、この城のどこかに我々が知らない秘密の抜け道らしきものが存在するのかもしれません。それに王妃様を刺した剣はフィスノダの物でもラールシアの物でもございませんでしたし、もしかすると、第三国の新たな敵の可能性も否定できません」
「そうであったか、そなたも疲れているであろうに御苦労であった。もう後の調査は他の者に任せて十分休んでくれ」
ランドが頭をさげて部屋を出ようとした時、扉をノックする音が聞こえ、ラールシア軍総帥のスエル総帥が入ってきた。
「陛下マル―シャス様の事でお話しがございます」
「マルーシャスがどうかしたのか? あの子は今、部屋で休んでいるのではなかったのか?」
トルベル国王が答えるとランドがすぐさま総帥に歩み寄った。
「マルーシャス様がどうかなされたのですか?」
「おおランシェルド、ここにいたのか。ちょうどそなたも捜していたところだ。陛下! 実は今しがた王女様の部屋の前にいた兵士から、王女様が部屋からぬけ出されたとの報告が入りまして、今捜索させているのですがどのようにいたしましょうか?、おそらく城の外にはでていないようなのですが」
「そうか、気がついたのだな。あの子も一人で考えたいのであろう。昔から一人になりたい時はよく抜け出してどこかに雲隠れしていたようだからのう。だが夜もふけてきておる。ランシェルド、すまぬが探しに行ってはもらえぬか? まだ敵の仲間がその辺りに潜んでいるやも知れぬからな。ダムダフ総帥、そちはもう下がってよい」
「はっ!」
総帥はトルベル国王に一礼して部屋をでていった。
それを見届けてからトルベル国王は立ち上がるとランシェルドに近付き静かに頭をさげた。
「陛下! なっ何をなされます」
「ランシェルドよ、余はあの子の父親として今は何もしてやれぬ、母親の死はかなりこたえているであろう。そばにいてやってくれ。そちにはいろいろ負担をかけるな。だがこの戦ももう引き返せないところまできてしまった。マルーシャスとこの国を頼む。どうかフィスノダを倒してくれ、これまで犠牲になった数多くの者達のためにも…」
「陛下、頭をお上げくださいませ。フィスノダは必ず倒します。そしてこの命に変えてもマルーシャス様とこの国の未来を守ってみせます。ご安心ください。すぐマルーシャス様を探してまいります」
ランドは誇り高い国王が自分に頭を下げてくださっているのが信じられないというような表情をしながら小さく頭を横に振ると、あわてて跪き深く頭をさげた。
そしてすぐ顔を上げてトルベル国王を真っ直ぐ見詰め返し、もう一度頭を下げて部屋を飛び出して行った。
トルベル国王は、よどみない澄んだ瞳で真っ直ぐな視線を返してきたランシェルドを頼もしく感じ、安堵のため息をもらした。
「スーリアよ、そなたが見込んだあの小さかった少年はりっぱな青年になったものだな」




