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スーリア王妃の死①

(どうして、どうしてお母様が…城は安全ではなかったの?)


マル―シャは降りしきる雨の中、フィスノダ国領内のペルトウ平原のモビレの砦からシアフィスの森を抜けラールシア国領内に入りドルタ平原を愛馬のレアにまたがりラミド城をめざしていた。


隣にはラールシア国軍第一部隊総指揮官のランシェルドが平行して愛馬のダノンにまたがりマ―シャを気遣うように降りしきる雨の中を彼女のスピードにあわせて馬を操っていた。


この二人の愛馬は特別種で長距離を走っても間にいくつか休憩をはさんでやれば乗り換える必要がなく馬自身も負担を感じることなく難なく走りきることができる特別な馬たちだった。


彼女の愛馬レアもマル―シャの言葉を理解し、ずっと戦場でもともに闘っている相棒だった。

彼女の想いをくみ取ってか、レアは雨の中をアミド城を目指して駆け抜けた。


フィスノダ国との開戦から五年の月日が流れていた。

開戦当時はフィスタノダ国が有利だったが開戦から四年後マル―シャの幼馴染で最年少でラールシア軍第一部隊の指揮官に就任したランシェルドとその幼馴染のアルセンドとルカリオの三人が第一線に出陣するようになったことで戦況は一変した。


そして、その半年後、ラールシア国第一王位継承者であるマル―シャス王女突然が戦場に兵士として参加すると宣言し、ランシェルドのいる第一部隊に入って戦場にたつようになると更に戦況はラールシア側に有利に働き今ではフィスノダ国の最大の砦であったモビレの砦をたった半年で陥落し、後はフィスノダ国の国王が住むバルデ城を残すのみとなっていた。


ところがその矢先に、突然悲報がモビレの砦にいたマル―シャの元に飛び込んできたのだった。


ラールシア国の総司令部が置かれているラミド城に突然砲弾が投げ込まれ数カ所の塔が破壊され、同時に侵入してきた敵の襲撃を受け、ラールシア国の王妃でマル―シャの母親であるスーリア王妃が危篤状態だという知らせがちょうどモビレの砦で作戦会議をしていたマル―シャに届いたのだ。


ラールシア国王からマル―シャに直々の帰還命令が届いたのだ。



その知らせを聞いたマル―シャはすぐにモビレの砦を離れ、単身ランシェルドが付き添ってラールシアのアミド城へと向かうことになったのだ。


二人は夜通し休むことなく馬を走らせ、ラミド城下についたのは既に夕刻の日が沈みかけている時間帯だった。


普段ならまだ人の往来が盛んな時間帯にも関わらず、道には人の姿が見えず静まり返っていた。

どの家も厳重に扉を閉ざし、まるで廃墟のような様子だった。


マルーシャはあせる思いを押さえ込みながら、嫌な予感で押しつぶされそうな気持ちを振るい落とすかのようによりいっそう馬を走らせラミド城に向かった。


二人が厳重に閉ざされた城門の前に到着すると、すぐに閉ざされていた城門が開き、二人が城門をくぐり城内に入ると、見張りの塔から当直の兵士らしき門番が飛び出てきた。


「マルーシャス王女様、ランシェルド第一部隊指揮官殿ご帰還お疲れさまでございます」

「お母様のご容態は?」


マルーシャは馬越しからその兵士に聞き返した。


「今だ危篤状態とのことでございます。陛下を始め皆様は王妃様のご寝室にお集まりでございます」

マルーシャは兵士がいい終わらないうちに馬を走らせ、スーリア王妃の寝室がある塔に馬を向け、塔が近づくと馬から飛び降り、急いで城の中に駆け込んだ。


迷路のように入りくんだラミド城の城の中を雨に打たれてずぶ濡れのマントから滴りおちる雨のしずくで何度もバランスを崩しそうになりながらも足早にスーリア王妃の寝室に向かった。


王宮の中はやけに静まり返り、薄暗く不気味さえ感じられた。


ようやくマルーシャはスーリア王妃の寝室に辿りつくと、寝室の扉を勢いよく開いて叫んだ。

「お母様!」


部屋の外には多くの側近たちや侍女たちが心配そうに集まっていた。

中にはトルベル国王や、王族専属の医師達がいた。皆スーリア王妃のベッドを取り囲むようにして佇んでいたが、一斉に勢いよく開け放たれた扉に視線を向けた。 

 

扉に姿を表したのがマルーシャだと知ると、医師たちはパッと部屋の隅に控え、スーリア王妃が横たわるべッドがマルーシャの視界に飛び込んできた。


マルーシャはスーリア王妃のベッドに近づき、枕もとのそばの床にひざをつくと、スーリア王妃に自分の顔を近づけた。


「お母様マルーシャスです」


青ざめて荒い息遣いのスーリア王妃がマルーシャの声を聞いて弱弱しく目を開き、苦しそうな息遣いの中笑顔を見せた。


「マルーシャ、ハァ…ハァ…私の…ために呼び戻してしまってごめんなさいね。あっ…あっあなたにどうしても渡さなければならないものがあるのです」


スーリア王妃は震える指で枕元に置かれていた真っ白な丸い小さな箱を指さし言うと、侍女頭のグレナがスーリア王妃の枕元に近づき、枕元に置かれていた小さな箱をマルーシャに手渡した。


マルーシャは濡れて冷たくなっている手で震えながらその箱を開けると、中には赤と緑の宝玉が入っていた。


「これはお母様の宝物でしょ」

「その中にある赤の宝玉はこれからはあなたのものです。ランシェルド…そこにいますね」

「はい、ここにおります」


ランドはマルーシャの後を追ってすぐに部屋に入り、部屋の後ろに控えていたが、スーリア王妃の呼びかけで静かにスーリア王妃の側に近づいた。


「ランシェルド、緑の宝玉はあなたに受け取ってほしいのです。あなたはこれからもたくさんの試練に立ち向かわなくてはならない事が起きてくるでしょう。けれど…あなたは一人ではないのですよ…仲間と共に…ランシェルド…マルーシャスとラールシア国を頼みます…」


スーリア王妃は苦しそうな息遣いをしながらもランシェルドを見詰めたまま言った。

ランシェルドが大きく頷くのを見届けると、マルーシャに視線を移した。


スーリア王妃は右手でマルーシャの頬をさすりながら微笑みを浮かべて言った。


「マルーシャ…わたくしの宝…あなたはあなたの信じた通りに生きなさい。あなたには光を放つ力があるのですよ…どんな時も笑顔で…あなたの笑顔が光になるのです…マルーシャどうか幸せに…」


そう言うとスーリア王妃の右手がベッドの上に崩れ落ちた。

「おっお母様!」

マルーシャは手に持っていた箱を床に落とし、あわててスーリア王妃の右手を握り返し叫んだが、スーリア王妃はもう目を開くことはなかった。


それからのことはマルーシャには記憶がなかった。最後に記憶しているのは、大勢の悲しみの声がこだましているのを混乱している頭で聞き取ったのが最後だった。



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