いつもの日常②
「じゃあわたくしも本気をださなくてはなりませんね。竹刀の試合をするのは久しぶりだわ。ワクワクするわね」
スーリア王妃は笑顔をランドに向けたが、ランドは険しい表情は崩さなかった。ランドは自分の足元に放りなげている竹刀を拾い上げると、数歩さがって、スーリア王妃の正面に歩いて行くと、少し距離をおいて竹刀を構えた。
スーリアは右手に持っていた竹刀を両手で持ち直すと、すぐ横にいるマルーシャに言った。
「マルーシャ、あなたは下がっていなさい」
「は~い」
マルーシャは素直にスーリア王妃から離れると、二人が向き合うのを真横で見える場所まで移動した。その隣にはルカがいた。
そして、ランドとスーリア王妃のさらに向う側にいるアルに向かってスーリア王妃が言った。
「アルセンド、あなたが審判をしてちょうだい。合図で試合開始よ。よ~い始めの合図をかけてちょうだい。ランシェルド、一本とった方の勝ちよ」
「わかりました」
「じゃあいくよ。よ~い始め!」
アルの合図で真っ先に仕掛けたのはランドだった。
ランドは勢いよくスーリア王妃めがけて竹刀を振り上げてスーリア王妃に向かってきた。
だがスーリアはまるで赤子をあやすかのように軽やかにランドの攻撃を巧みにかわしながら、笑顔さえ浮かべていた。
「まだまだ、この程度なのですか? あなたの攻撃は」
「くそ~!」
ランドは必至になってスーリアから一本取ろうとするのだが、ランドの攻撃はことごとくスーリアの竹刀によって阻止されていた。
しばらく竹刀がぶつかる音が響いた。
ランドが少し距離を置いて、スーリア王妃の隙を狙っている様子だった。
そしてランドが走りだし、スーリア王妃の脇腹の辺りをつこうした瞬間、それよりも早く、スーリア王妃の竹刀がランドの頭に振りおろされた。
「一本それまで!」
アルの言葉にランドは呆然となり、その場にしゃがみこんでしまった。
ランドは荒い息遣いで悔しそうに地面を向いたまま動こうとしなかった。
スーリア王妃は持っていた竹刀をルカに返すと、ランドに近づき、ひざまずいてランドの顔をのぞき込んだ。
「はあ、負けました」
ランドが小さく囁くような声で言った。
「あら、いさぎいいわね」
スーリア王妃はランドに比べて、全く息が乱れていなかった。
「お母様すご~い、ランドに勝つなんて!」
マルーシャは興奮しながら叫んだ。
「ランシェルド、あなたはなんでも器用にできてしまう。それがあなたの欠点ね。努力というものを昔からしたことがないんじゃないかしら? でもね、人間は天才だろうと、凡人だろうと、努力をしなくてはその先の自分には出会えないものですよ。努力をしたものにだけ達成感とさらなるたかみへとたどりつくことができるのですよ。総帥があなた方に基礎訓練をさせるのは、あなた方はまだ体も心も成長段階だからですよ。今の時期は体を基礎から鍛える必要があるのですよ。今の努力が未来のあなた方の肉体を作り、技術も養われていくものなのですよ。今努力しないでどうするのですか?」
「今の努力が未来の自分を作る…」
スーリア王妃の言葉を何度もつぶやきながら、ランドはスーリア王妃の言葉を繰り返した。
「わかりました。訓練に戻りますので失礼します。ありがとうございました」
そういうなり、スーリア王妃に向かって大きく頭をさげると立ち上がり、走りだした。
アルとルカの二人もスーリア王妃に頭をさげると、自分たちの竹刀をもち、後を追いかけた。
一番後ろを行くルカにマルーシャは叫んだ。
「ルカ~! 訓練の後、私の部屋に来なさいよ。約束のお母様特製のフルーツたっぷりのケーキ作ってもらったから!」
ルカは、マルーシャの声に一瞬後ろを振り向き、満面の笑顔で右手を上げてマルーシャに向かって手を振り、二人の後を追いかけ去って行った。
「あの三人は才能があるんだから、少しでもやる気になってくれればいいんだけど」
走り去っていく後ろ姿を見送りながらスーリア王妃がつぶやいた。




