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いつもの日常③

「ねえねえお母様、私にも剣術を教えて」


マルーシャは三人の姿が見えなくなると、スーリア王妃の腕に自分の腕をからませながらせがむように母の顔を見上げながら言った。


スーリアは可愛い娘を見ながら笑顔を向けていると、塔の影からグレナの声が聞こえてきた。


「姫様はまずレディとしての教育が先かと思いますけれどね。もうとっくに、休憩時間は過ぎていますよ。レイデン先生がお探しでしたよ」


「でもグレナ、今は戦争中なのよ、今はレディとしての教育よりも、女も剣術は身につけておくべきだと思うわ。だって敵が攻めてきた時、狙われるのは女も同じでしょ。なのに、私が王女で女だからって理由で何も訓練しないで私が弱いままだと、たくさんの人たちが私を守ろうと命を落としてしまうかもしれないでしょ」


グレナに挑むような視線を向けながらマルーシャが言った。

その言葉を聞きながらスーリア王妃は何かを考えるような視線で再びマルーシャに視線を落とし言った。


「そうねえ、マルーシャがいうのも一理あるわね」

「スーリア様、姫様はお勉強がしたくないだけですわよ」


「そんなことないわよ! 私だってやる時はやるわよ。もちろん勉強も頑張るわ」


「じゃあマルーシャ、こうしましょう。毎朝早朝にあなたが早起きできるというのであれば、城で働いている侍女たちにも希望者を募って、身を守る剣術の訓練をすることにしましょうか」


「ええ~、私は攻める剣術の方がいいわ」


「マルーシャ、剣術の基本はまず自分の身を守ることからですよ。攻めるばかりでは後ろから急に攻めてこられたらすぐ敵に殺されてしまうわよ」


「わかったわお母様、私頑張って早起きするわ。だから、勉強もきちんとするから、護身術をマスターしたら、さっきランドとしていたような剣術を私にも教えてね」


「いいですよ」

「約束よ」


スーリア王妃の言葉で急に笑顔になったマルーシャは、スーリア王妃から離れると、駆け出していった。その様子を見送りながら、グレナはため息をつきスーリア王妃に言った。


「スーリア様、あのような約束をしてよろしいのですか?」


「私も思っていたことなのよね。戦況はますます激しくなりそうだわ。先の未来であの子は自分の意思で戦場に向かうというかもしれないわ。その時の為に、自分の身を守る剣術は必要になってくるわ」


「姫様自らが戦場になど、言語道断ですよ。あの姫様なら言い出しかねないですけどね」


「私の娘ですもの、自分がこうすると決めたことは周りが何をいっても聞かないわ。それに自分の未来は自分で切り開くものでしょ」


「私が間違っていましたわ。スーリア様も姫様も私の意見などいつも聞く耳を持ってくださったことなどありませんでしたわね。こんなにお二人の心配をしているというのに、スーリア様も無理をなさってはお体にさわりますわよ」


「大丈夫よ、ねえ、覚えている? 私がここに嫁いできた時の事」

「はい覚えておりますわよ。わたくしがスーリア様の世話係にさせてくれと直談判した日ですもの」


「ふふふっあの時は驚いたわ。まさかあなたが故郷を捨ててわたくしの所まで追いかけてくるなんて思ってもいなかったんだもの」


「当たり前ではありませんか、わたくしはスーリア様に生涯ついて行こうと幼き頃に誓いをたてていたのですから。それなのにわたくしにあんな手紙一つ残してこちらに来るなんて信じられませんでしたわ」


「本当に頑固よねあなたは、でもね、わたくしは嬉しかったのよ、あなたが来てくれて、これからもあの子をずっと見守っていてあげてね。あの子ならわたくしたちの長年の夢を叶えてくれるかもしれないから」


「何をおっしゃいます。スーリア様も共に見守ってまいりましょう。あのお転婆姫様はわたくし一人では面倒みきれませんもの」


「そうね、でも約束してちょうだい。何があっても生きてね」

「今日は変なことばかりをいうスーリア様ですね」


「そうね、でもほら今は戦争中だもの。お隣のフィスノダ国でもラールシアとの開戦前のクーデターが起きた時、王妃様と王子様は城から逃げたって聞いたわ。その後の消息は聞こえてこないからどこかで生きてらしたらいいのだけれど、人生何が起こるかわからないものよ」


「はいはい、お約束いたします。このグレナ、決して何が起きても生きることを自ら止める選択はいたしません。ええ、おばあちゃんになってもスーリア様と姫様のお世話係を務めさせていただきますわ」


その言葉を聞いてスーリア王妃は嬉しそうにただほほえんだ。

そして嬉しそうにグレナに向かって言った。


「今日はいい日ねグレナ、何だかとてもワクワクしてきたわ。久しぶりに体を動かすことができる口実ができたんだもの。さて忙しくなりそうね。そうだわ。早速みんなに声をかけなきゃ。それにとっさの時、城の中にいつもあるようなもので、武器になりそうなものでの訓練も必要ね。何がいいかしら」


スーリア王妃は楽しそうにブツブツ言いながら歩きだした。

そして振り向きグレナに向かって言った。


「そうだわ。ビーデとメルデに相談しようかしら、グレナ、手紙を届けてくれるかしら?」


「はいはい、これは決定事項のようですね。まったく、ろくなことを考えつかないんですから。本当に似た者親子ですよ」


グレナは大きくため息をつくと、スーリア王妃の後を追って歩きだした。

 


それから数日後、スーリア王妃の発案で、早朝の女性だけの護身術の訓練が開始された。最初は若い侍女数人だけだった受講者の数が、十日後には城のほとんどの女性陣が参加するまでになっていた。


その一番前にはマルーシャがいた。マルーシャは約束通り、勉強もさぼることがなくなり、めきめきと上達していった。

マルーシャは密かに、自分一人の時にもトレーニングを欠かさずこなしていた。


そして別の場所でも、ランドとアルとルカの三人もその日以来、訓練をさぼることがなくなり、少しずつ、少年から青年へと変貌を遂げていった。



そして、時は流れ、フィスノダ国との戦況もますます激しさを増す中、やがて四年の月日が過ぎようとしていた。


                                           



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