地下牢②
その後、マルーシャはグレナの馬車でこっそり城内に戻ると、自分の部屋に戻り、湯あみも済ませ、食事をとり、自分の部屋でくつろいでいた。
夜になり、早めにベッドに入ったマルーシャだったが、疲れているにもかかわらずどうも寝付けなかった。
マルーシャは、部屋を抜け出し、南の塔にきたがやはり落ち着かなかった。
「三日も留守にしていたのに何もなかったかのようになってる。私が南の塔に現れても兵士の人達は何も言わず、私を塔の中へ入れてくれたし、まっいつも勝手にぬけ出していたから、なれっこかあ」
マルーシャは久しぶりの部屋をみわたしながら、じっと何か考え事をしていた。
「私は幸せ者なんだなあ、当たり前だと思っていたけど、色んな人達に守られていたんだ。私は何ができるんだろう。今の私じゃあ、一人じゃ何もできない」
マルーシャはしばらくベッドの上で横になっていたが、不意に起き上がると部屋を飛び出し、らせん階段を一気に駆け下りた。
ドンドン!
「ここを開けて、お父様に会いに行くから」
マルーシャの声に扉の前にいた兵士の1人が慌てて扉を開けた。
「姫様、今から行かれるのですか?」
「ええそうよ、今の時間ならお父様は食事中でしょ」
「はい、今宵は総帥と会食のご予定だとお聞きしております」
「そうありがとう」
マルーシャはそういうと、国王とスエル総帥が夕食を食べている部屋まで行くと、至急お話ししなければならないことがあることを扉の前の兵士に伝え、国王と面会したい旨を伝えてもらった。
しばらくして扉が開くと、マルーシャは中に入り一礼した。
「お父様、お食事中申し訳ありません。至急ご報告することがございます」
「マルーシャスではないか、しばらく見なかったが、元気であったか? なんだね報告とは?」
マルーシャは父のトルベル王の言葉で、自分が城をでて外泊していたことなど知りもしない様子に驚きながらも少し考えこんでから、意を決したかのように、背筋をピンと伸ばし、トルベル王に視線を移し、話し出した。
「お父様、申し訳ありません。私はお父様の言いつけを守らず、城を抜け出して、三泊も外泊をし、スシュル湖へも行きました。罰として今から地下牢へ行ってきます。報告は以上です。失礼しました」
マルーシャはそれだけ言うと、大きく一礼し、父王が何かを話し出そうとする前に、くるりと向きを変え、今入ってきた部屋を飛びだした。
マルーシャはそのまま、駆け足で地下牢のある塔へと向かった。
立ち止まってしまうと、止めてしまいたくなりそうだったからだ。
そんなマルーシャをトルベル王とスエル総帥は部屋の外まで出て見送った。
「陛下、よろしいのですか、マルーシャス様を地下牢になど」
「よいではないか、本人がそうしたいと申しておるのだからな。それに一人ではなさそうだしな。この経験もまた一つあの子を大きく成長させてくれるだろう」
「ご存知でしたか、先ほど、ランシェルド達三人も私の所に来ましてな。無断で王女様を連れ出し、城を3日も無断外泊したと自己申告してきましてな。自ら地下牢に行って反省してくると言ってきたところなんですよ」
「仲間とは良いものだな。まっ、結果的にはあの子らの活躍がなければ、スシュル湖の水がどうなっていたか、しいて言えば、このラールシアもあやうかったかもしれぬ、今回の危機はあの子らが救ったのだ。褒美をとらせてもよかったのだが」
「立派になられましたな。マルーシャス様はよい女王になられるでしょうな。すばらしい仲間と共に」
「そうだな、未来が楽しみだな。これからますます戦況は悪化しそうな気配だ。未来ある子どもたちに戦争などない世の中にしてあげたいものだな」
「そうでございますね」
その頃、地下牢の前まできたマルーシャは地下牢の前で立ち止まっていた。
「怖くない、怖くない、こんなの、ただの地下の部屋なだけだもの、私は平気!私は平気!」
マルーシャは、地下牢がある塔の前まできて、重い鉄の扉の前で立ち止まっていた。
この地下牢は今は誰も使用していないと知っていたマルーシャだったが、一人でいざ入るとなると手が微かに震え始めた。
「ろうそくもってくればよかったかしら、今夜は月がきれいだから大丈夫かと思っていたけど、地下だものね、真っ暗よね。引き返そうかしら」
怖い心を必死で追い出そうと、ブツブツ言っていると、聞き覚えのある声が扉の中から聞こえてくる気がして、慌てて扉を開け、地下におりていくと、ろうそくと毛布を持ったランドとアルとルカの三人が地下におりていこうとしている所だった。
「あなたたちこんな所で何しているの?」
「マルーシャこそ、王女様の来るところじゃないぜここは、寝ぼけて夢遊病にでもなったのか?」
ルカが笑顔を向けて、少し階段をのぼって真っ暗な地下牢に通じる階段をマルーシャの傍までのぼって手に持っているろうそくをマルーシャにかざした。
「わっ私は、地下牢へ探検にきただけよ。そっそんなことより、あなたたちはどうしてここにいるのよ、そんなものもって」
「俺達は、今夜はここで一晩明かすんだよ」
「どっどうして!」
「どうでもいいだろう。お前には関係ないことだ。早く自分の部屋に戻って寝ろ」
ランドは素気なく言うとスタスタと地下の階段をおり始めた。
「わっ私も、今夜はここで一晩を明かすのよ。あなたたちこそ、私の真似しないでよね」
そういうと、かけおりてランドの腕に強引に自分の腕を通した。
「おい、離せ! ここは王女様のくるとこじゃないだろ。こんなことが陛下の耳に入ったらどうするんだ」
「大丈夫よ、先に言ってきたから」
「おいマルーシャ、本気で地下牢なんかで一晩過ごすつもりか? 南の塔とは全然ちがうんだぜ。牢屋の中だぜ、冷たいし、真っ暗で、不気味な音が一晩中聞こえてくるらしいぜ」
ルカがゆっくりまた階段をおり言った。
「へっ平気よ、それより、あなたは大丈夫なの? 夜中にお腹がすいても何も食べるものないのよ」
「心配無用だ。この通り夜食用のパンはちゃんと持ってきてるからよ」
そういうと、毛布の下に隠れていた。小さなバスケットをみせながら言った。
「あらルカ、気が利くわね。私にもちょうだいよね」
「何言ってんだよ。これは俺様のだ」
「何よケチ!」
マルーシャはルカに向かって舌を出した。
「まったく、マルーシャもどうかしているね。本当に怖くないのかい?」
アルが優しくたずねた。
「みんなが一緒なら怖くないわ。これもけじめだから。私、頑張るって決めたんだから。この国に生きるみんなが幸せになれる国をつくれる王になるって」
「そっか、では未来の女王様、今宵は我々が御供致しますよ」
アルがマルーシャに向かって一礼してみせた。
「うむ、ではいざ参ろうか」
そういうとマルーシャは空いている左手を天井に向かってグーッと突き上げた。
そして四人は笑いながら地下牢の中へと入って行った。




