雨乞いの儀式④
儀式が無事終わると、人々は水が湧き出ている泉の前に一列の長い行列ができた。
人々は自分が受け取った天のしずくの入った容器を大切そうに両手で持ち、マルーシャのもつ水瓶に自ら注ぎ入れ始めた。
マルーシャからの急な依頼にも関わらず、多くの人々が雨のしずくをお椀に受けとることができたのは、村中の人間が実はマルーシャ王女が来ているということを知っていたのだ。
そして彼らが、危険をかえりみず聖水を汲みにいったことも知っていた。だから、村長が何も言わなくても、マルーシャス王女からの依頼だということは皆知っていたのだ。
村人たちは自分たちができる感謝のしるしとして、喜んで家の中のありったけのお椀の提供と、そして、雨乞いの儀式の後に大鍋で参加者全員で食べられるシチューの材料をかき集め、手の空いている者たちで急いで準備をしていたのだ。
実はルカが受けとったのは、木箱一つではなかった。
城で今は使われなくなった大鍋を三つも同時に受け取っていたのだ。
そこには手紙が添えられていた。
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〈 ロタ村村長様
先日古い書物を読んでおりましたら、ロタ村の記述がございました。
そこには雨乞いの記述と共に、その後、食事祭りの様子が描かれておりました。
広場の中央にはこうこうと火が焚かれ、その横では三つの大鍋を囲んで人々が同じ食事をとる様子でございました。
もし可能であれば、ぜひ今年の雨乞い祭りには参加されました皆さまにロタ村の名産をふんだんに使ったシチューをふるまわれてはいかがでしょうか。
きっとその様子を天の神様方がご覧になられましたならば、ロタ村の大地にほど良き雨の恵がもたらされることでしょう。
この鍋は城の倉庫に眠っていた使わない鍋ですので、そちらの村で保管して頂けるとありがたいです。こちらで調達できる具材は鍋の中に入れてありますのでご使用ください。では雨乞いの儀式が無事成功しますようにお祈りしております。 スーリア・ロウェン・ラールシア 〉
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この手紙を読んだ村長は、この手紙を村人一人一人に読んで聞かせて、協力をあおったのだ。その甲斐があって、なんとか夕暮れまでには準備を終えることができたのだ。
人々は、マルーシャの雨乞いの儀式の姿を間近で拝見し、歳をとった者たちは涙する者までいた。
マルーシャはそんな人々、一人一人に礼をいい、言葉を交わしながら、天からもたらされた雨のしずくを受け取っていった。
人々はその後、すぐに横の方で準備されていた大鍋いっぱいに用意されたシチューを受け取りにまた長い行列に並びなおした。
人々が受け取った雨のしずくは水瓶いっぱいに満たされていた。
マルーシャは水瓶に蓋をすると、大切そうにそれを幌馬車に運び入れると、マルーシャも行列の最後尾に三人と一緒に並び参加者と共に同じシチューを食べた。
この日、マルーシャが祈りを捧げた言葉は村長達がその場でメモをとり、同じ言葉を雨乞いの儀式の言葉としてよく年から毎年儀式の前に言うようになり、その後には必ず大鍋でシチューを食べる習慣になった。
このロタ村で提供されたシチューはのちにロタ村の名物となり、ロタ村には多くの店ができ、観光客も訪れるようになった。
そしていつの頃からか、水の神の舞い降りしビーダの泉に白い小石を入れ願いをかけると、その願いが叶うといううわさが広まり、祈りを捧げに訪れる者が後をたたなかった。
そのこともあり、その泉の側には村経営で食堂が建設され、訪れた人々に村で収穫した旬の野菜がふんだんに入ったロタ村特製シチューを振る舞うようになったことにより、村の野菜が有名になり、村を出て行った若者たちが続々と戻り、親の後を継いで農業や酪農をする者や、店を出す者など、多くの若者が村に戻ってきた。
そしてよく年からは、マルーシャが自分の着た衣装とティアラを村に提供したことにより、その衣装をきたいという14歳の少女たちが雨乞いの儀式に参加することが憧れにかわったのだ。
それから不思議なことに、どんなに雨が少ない年でも、ビーダの泉は枯れることはなく、泉の底からは聖水がこんこんとわき続け、人々の苦しみを癒し続けた。
マルーシャ達は、雨乞いの儀式の後、にぎやかな踊りや屋台の食事を大いに堪能し、その夜は再びラバンナお婆さんの家に戻り、早朝というより真夜中の時間帯にロタ村を後にした。
後日、マルーシャは城の調理場裏でラバンナから、あの祭りの後、噂を聞いた息子家族が家に戻ってきて、家の前にパンの店を建てようという申し出を受けたと嬉しそうにマルーシャに語ってくれたのだ。やがてその店はおいしいと評判になり、ラバンナは来てくれた人達の為に、シチューでもてなしたこともあり、その場でパンとシチューを食べていきたいという客が都からもわざわざくるようになり、毎日大忙しだと嬉しそうに語ってくれたのだ。マルーシャはその話を聞いて心から喜ぶのだった。そして、いつか必ず、そのお店にパンとシチューを食べに行くことを約束した。
ロタ村をでたマルーシャ達はそのままスシュル湖に向かった。
不思議なことに、森の入り口にはもう兵士は立ってはいなかった。
四人はそのまま、スシュル湖につくと、汲んできた聖水と、大勢で集めた神の涙、それに、地底で謎の少年にもらった小瓶の水全てをスシュル湖に注ぎ入れた。
すると、その注ぎ込んだ場所から少しずつ湖の水の色が変わり出し、やがて透明度の高いいつもの湖の水の色にかわっていった。
その時、うっすらと東の空が明るくなり始め、朝の一筋の光が澄み渡るスシュル湖水に差し込んだ。
「ねえランド、これでイクーリア様も喜んでくださるかしら?」
「ああ、そうだといいな」
「大丈夫だよ。しばらくは臭いが残るかもしれないからイクーリア様もお辛いかもしれないけれど、必ず元に戻るよ」
アルがいうと、ルカが地面にしゃがみ込み、湖水の臭いを嗅いだ。
「そうだな、まだ少し臭いがするような気がするけど、もうほぼ大丈夫みたいだぜ。さすがに飲んで確かめる勇気はないけどな」
「そうね、まだ死ぬわけにはいかないものね。私たち」
マルーシャはそういうと、湖に向かって祈りを捧げた。そして三人も同様にイクーリア神に向かって祈りを捧げた。その様子を森の木陰から見守る影が二つあった。
「スーリアよ、そなたの娘も立派になったではないか」
「そうですね。知らぬ間に子どもは大人へと成長してゆくのですね、でもこの国はきっと大丈夫ですわよランナフィア様。あの子たちがいる限り、この国の未来は光輝くはずですわ」
「そう願いたいものだな。では、もう少しあ奴らの行く末を大人しく見守ろうかのう。未来とは、今を生きる者たちで幾重にも変わっていくもののようだからな。たとえ先の未来に暗雲が立ち込めていようとも」
ランナはそういうと、そっとスーリアと共に、どこかに姿を隠してしまった。
〈光の子らよ、この先の暗雲は決して果てしなく続く闇ではないはずだ。どんなにつらく苦しい未来が押し寄せてきたとしても諦めるではないぞ、その仲間との絆が必ず未来に光をもたらすはずだ。こうして未来を変えたお主たちの力を信じるのだぞ〉




