雨乞いの儀式②
家の中に入ったマルーシャはラバンナに進められるまま素直に椅子に座った。
ランドは椅子に座るのを断りマルーシャの後ろに立った。
村長含め、村人5人はマルーシャの前にひざまずいていた。
「さて、時間がないから本題に入らせてもらうわね。実は、スシュル湖が今、何者かによって毒性の強い黒い水に変わってしまっているのを元に戻すためにこの地方にあったとされる湖の聖水を探していたの。それで、聖水は手にいれたんだけど、それでは効果がないことがわかったの」
「といいますと?」
「あなたたちが雨乞いの儀式に必要とされている泉の水と同じ成分の聖水は二つ必要じゃないかしら」
「はい、その通りです。泉の水が湧きでている年はそこに酒を注ぎ入れるだけでいいのですが、枯れてしまうと、海底の洞窟に湧き出ている聖水と地下に流れる聖水の二つが必要とされているのです。昔は地上から地下に通じている入り口があって、そこから簡単に行けたのですが、ここ数十年の間にその入り口もふさがってしまい。それゆえ、大人でもあの地下空間までたどり着くのは困難でして諦めていたところなんです」
「そうだったの、ここに二つの聖水があるわ」
そういうと、マルーシャは自分が汲んできた地下水をリュックから取り出すと、ランドも自分が汲んだ聖水が入った小瓶を取り出し、マルーシャの置いた横に置いた。それをみた村長が言った。
「あっあの確認させてもらってもよろしいでしょうか?」
「ええ、どうぞ」
マルーシャがそういうと、村長が立ち上がり、テーブルの上に置かれた小瓶を一つ一つ手に取ると、色を確認し、こばさないように蓋を開け、臭いを確認した。そして大きく頷くと、小瓶を元の場所に戻した。
「確かに、この二つが合わされば泉の水と同じになると思います」
村長の言葉を聞いてマルーシャとランドは胸をなでおろすかのようにホッとした。
「そう、よかったわ。実は、私たちが必要なのは、この二つの聖水と儀式の後に空から降る雨のしずくなの」
「雨のしずくでございますか?」
「ええそうなの、だからこの小瓶の聖水は全部はあげられないんだけれど、半分ずつ提供する代わりに、儀式に集まっているみんなにも雨のしずくを集める協力をしてもらいたいのよ」
「あの、我々の泉に必要なのは一滴ずつですから分けて頂けるのでしたら我々にできることでしたら何でも協力いたします」
「そう、よかったわ。じゃあ、夜の雨乞いの儀式の時に参加者には家からお椀なんかを各家から持って集まってくれるよう伝えてくれないかしら?」
「はい、そのようなことでよろしければ手分けして伝えます」
「じゃあよろしくね」
マルーシャがそう言った後、村長はまだ何か言いたげに、その場から動こうとしなかった。不思議に思っていると、言いにくそうにソワソワしていた村長をみてマルーシャがたずねた。
「何か他にもあるなら今のうちに言っていいわよ」
その言葉を聞いた村長は唾をゴクリと飲み込むと、顔を上げてマルーシャにむかって言った。
「あっあの申しにくいことなのですが、姫様、実はもう一つお願いがありまして」
「あら何、もうこの際だからなんでも聞くわよ」
「実は、雨乞いの儀式を行う予定になっていた少女が昨日、足をくじいてしまい、幸いたいしたケガではないのですが、足をひねってしまったようで、今夜の儀式には参加できそうにないと申してきまして、代役を探してはいたのですが、なかなか該当する人物が見当たらず、あの…申しにくいことなんですが、姫様にやっていただけませんでしょうか?」
「えっ? 私? えええええ! それはちょっと無理よ。顔がばれてしまうわ」
「あの、儀式をする少女は頭に白いベールをかぶりますので、誰がやっているかは遠目ではわかりませんが、一応昔から儀式を行えるのは14歳の少女と決まっておりまして、今年14歳になる少女がこの村には10人ほどいるにはいるのですが、大勢の前で聖水やら酒を泉に注ぎ入れる大役を引き受けてくれる者がなかなかおりませんで、何とか一人頼み込んで引き受けてもらうことになっていたのですが、けがをしてしまったとのことでして」
「なんで嫌がるの? 楽しそうなのに」
「マルーシャ、お前は人前にでることに慣れているから何ともないだろうが、実際、普通は嫌がるんじゃないのか」
「そんなものなの? どうしようかしら」
マルーシャはそういいながら、後ろのランドに視線を向けると、かなり険しい顔つきになっていた。マルーシャはしばらく頭をかきながら答えた。
「引き受けてもいいんだけど私、着る服がないのよね」
マルーシャは海岸で着替えた自分が今きている服を見ながら言った。
「そうですね、儀式に着る少女の服は姫様には少しサイズがお小さいかと思いますし、今から準備をするには時間がございませんし、この際、その服の上から白い布を巻きつけるというのはいかがでしょう」
「でもねえ…やるならきちんとしたドレスでやりたいわね。神様に捧げる儀式でしょ、今から城に取りにいけば間に合わないこともないかもしれないけど、戻るのは…」
マルーシャも引き受けるのなら妥協はしたくなかった。
打つ手なしで沈黙が続いていると、扉が勢いよく開いて、大きな木箱を抱えたルカが家の中に入ってきた。
「ルカどうしたのよ、その荷物?」
「聞いてくれよ、焦ったぜ! 今城からティーチが馬車できてよ、俺達の前で止まるんだぜ」
「ティ―チってあなたたちと同期で軍に入った?」
「そうそう、てっきりばれたと思って観念したらよ、グレナの使いで来たっていうんだぜ」
「グレナ?」
マルーシャは首を傾けながらルカがテーブルの上にのせた木箱を不思議そうにこじ開けた。
すると中にはマルーシャ用の正装時に着る白のロングドレスとティアラと靴、それに白の男物の正装用服一式が3着分入っていた。
「こっこれ、私のよ、あなたたちの分もあるじゃない。なぜ必要だってわかったのかしら?」
「おそらく、王妃様じゃないか?」
「お母様?」
ランドの言葉にマルーシャはわけがわからない様子だったが、時間がないので、考えるのは後回しにすることにした。
「村長さん、その大役引き受けるわ。でも、儀式のやり方は私流でいいかしら?」
「はい、酒を泉に注いでから聖水を泉に入れるだけですので、もともと、セリフもありませんので、姫様の思うようにしていただいてかまいません」
「わかったわ。じゃあ引き受けるわ、雨のしずくのこと村の人たちにお願いできるかしら。そうねえ、もし大量にお椀なんか用意できるようなら、村の外から見に来ている見物客の人たちにも手伝ってもらえるとありがたいわ。雨はどれだけの量がどこにふるのかわからないから」
「はい、何とかいたします。では姫様、至急手配いたしますので失礼いたします。夕方、泉の広場に着ていただけますでしょうか?」
「わかったわ。私たちも手伝いたいけど、パニックになるといけないから、変装して村の出店をみてまわっているわ。時間になったら、幌馬車で泉のある祭壇に向かうわ」
マルーシャの言葉で村長はもう一度頭を下げると、村人たちと家を出て行った。




