地底人③
洞窟の中は想像以上に広く、足元は平らでゴツゴツした岩ではなく、歩きやすくなっていた。ただ、不思議なことに、足元を照らし出すと、あきらかに洞窟の中から流れでてきたかのような水がチョロチョロと小さな水の流れが起きはじめていた。
「急がなきゃランドに先を越されちゃうわ」
マルーシャは洞窟の中を急ぎ足でさらに奥へと足を運んだ。
「マルーシャ待ってくれよ、俺自慢じゃねえけど、暗いところ苦手なんだよ」
「じゃあ、あなたは外で待っていればいいでしょ」
「そんなわけに行くかよ」
ルカは怒った顔でいいながらも、キョロキョロと落ちつかない様子で洞窟の中を見ながらマルーシャから離れないようについてきていた。
「それにしてもランドは怖くないのかしら? 前が暗いという事はろうそくも持っていなさそうだし」
マルーシャはそんなに離れていないであろうランドとの距離にも関わらず、目の前にランドがいるという存在感がまったく感じられないのが不思議でならなかった。マルーシャ自身、ランドが先に歩いているだろうと思うからこそ、真っ暗な洞窟の中を怯えることなく進んでいけているのもあった。
「あいつは化け者だからな、夜目もきくんじゃねえのか」
「そうかもしれないわね、でも最近無性に腹が立つのよね、ランドの弱点を探そうとこの間から観察してるんだけど、なかなかみつからないのよね。新しく習うこともすぐこなしちゃうし、嫌いな食べ物もなさそうだし、いつも顔色変えないから、なかなかわからないのよね」
「俺なんか、ずーと一緒にいるけど、あいつの欠点があったらとっくにギャフンといわせているってんだよ。あいつに弱点なんかないんじゃねえのか」
「はああっ! それもそうかもしれないわね。でも見てなさい。必ずいつかランドに勝てる何かを捜してみせるんだから」
マルーシャは暗がりの中、怖いのも忘れて、生き生きとした目をしながら進んで行った。暫く暗がりが続いていたが、突然ろうそくが照らし出した視界が開け、2つに別れた横穴が現れた。
「おっおいランドはどっちに行ったんだ。もうここで待っているか引き返したほうがいいんじゃないのか? もし俺達が別の方に行っちまったら入れ違いになるか、もしかしたらどっちかはもっと下の地下迷路に引き込まれるかもしれないじゃないか、水も両方から流れてる気がするしよ」
「もう心配性ね、大丈夫よ、私達には必ず明日がくるわ。まだまだ、神様のとこになんかいかないから安心しなさいよ」
そう言ったマルーシャは真剣な顔で2つの横穴を覗き込んだ。
「問題なのは、どっちに聖水があるかってことよね。もし、ランドが違う道を選んでいたとしたら、私達もチャンスがあるってことだもんね。ランドを出し抜けるチャンスかもしれないわ」
「こんなのどっちも同じみたいで変らないよ。なあ本当に戻ろうぜ、俺本当に苦手なんだよ」
「ああもう、うっとうしいわね。あなた男でしょ。こんな暗闇ぐらいどうってことないじゃない。よし、決めたわ。こっちにする!」
マルーシャが指差したのは明らかに道が細くなっていそうな方だった。
「ちょっとまてよ、どっちかっていったら絶対こっちだろう」
ルカは横幅も天井も高いほうを指差しながらいった。
「私もそう思うわよ。だからこっちに行くのよ」
「はあ? わけわかんねよ。おっおいマルーシャ待てよ」
ルカの反対にも聞く耳を持たずマルーシャはすでに細くなっている横穴の奥をどんどん進んでしまっていた。ルカはブツブツ言いながらもあわててマルーシャの後を追った。二人はだんだん横幅が細くなっている洞窟の中を進んでいた。心なしか天井も低くなってきていた。
どれだけの時が流れたのかずいぶん時間がたったように感じられた。
「おいマルーシャ、やっぱりこっちははずれなんじゃないのか」
「なあマルーシャこういったらなんだけどよ、俺達引き返せなくなってるんじゃねえのか?」
「そうかもしれないわね」
「わかってるんだったらなんで引き返さないんだよ。このままあがったりくだったり曲がったり進んでて行き止まりだったら俺達、後ろから海水が迫ってきたらそれこそ、こんな地下であの世行きだぜ」
「ああっうるさいわね。こんなに上がったりさがったりしてるんだから、海水なんてとっくにここまで入ってこないわよ。この地面見なさいよ、濡れたところなんて全然ないじゃない」
マルーシャは手に持っているろうそくを地面のほうに照らしながら後ろのルカにむかって言った。
「はああっこんなことなら、ラバンナさんにもっとパンを貰っておけばよかったぜ、アルの奴心配しているだろうな。もしかしたらランドの奴がとっくに聖水を見つけて俺達のことを捜して俺達の後を追って海水の中を溺れているかもしれないぜ」
ルカの言葉で一瞬その映像を思い浮かべてしまったマルーシャは大きく首を横に振った。
「縁起でもないこと言わないでルカ、ランドだったら絶対もう洞窟をでて、アルと合流しているはずよ。そしたら私達が戻っていなくてこの洞窟にもう一度入ろうとするランドをアルは止めてくれるはずよ。私達は進むしかないのよ、大丈夫よ私達は助かるわ」
「なんだよ、その根拠のない自信はどこからくるんだよ」
「なんとなくよ、私の予感が外れたことあった?」
「ないけどよ。本当に助かるんだろうな」
「大丈夫よ、今度、お母様にお願いしてお母様のフルーツたっぷりのケーキ作ってもらってあげるから」
「ほっ本当だな、あれは冗談だったなんてなしだぜ」
「わかったわよ、もしだめならあなたの願いは私が出来るかぎりなんでも聞いてあげるわよ」
「あっそっちのほうがいいかもな」
「駄目よ、約束したんだから、ブツブツいわないで先に進むわよ。みて、なんだか風が出てきたみたいなのよね」
マルーシャは自分が持っているろうそくの炎が手前にゆれているのに気が付いた。
「もしかしたら、広い空間に出るのかもしれないわ」
マルーシャは疲れている足をよりいっそう速めた。二人は暫く進むと先のほうに光のようなものが見えてきた。
「マルーシャ、俺達どこか異国にでもついたんじゃねえのか?」
「ばかね、こんなに早く異国に着くわけないじゃない。とにかく行ってみましょう」
はやる気持ちのせいか、今まで体全体が疲れきっているのも忘れて、狭い洞窟の通路を駆け出した。
やがて、マルーシャが光が見える場所まで辿りつくと、目の前に川が流れていて天井はかなりの高さがあるようだったが左右もかなり大きな空間がずっと先まで広がっているようだった。
どこから光がもれているのか、それとも周囲の壁自体がまるで光を放っているかのようだった。
マルーシャは手に持っていたろうそくたてをその場に置くと、その空間を眺めながら言った。
「みてルカ、あの川の水白いわ。もしかしたらアレが聖水なんじゃないかしら?」
「うわー! すげえーなあ、まるで地上にあがったみたいに明るいな。なんだここ、それにしてもなんだかいい匂いがするな。もしかしたらこの水飲めるんじゃねえのか? 俺喉がカラカラなんだよな」
「ちょっと待ちなさいよ、毒だったらどうするのよ」
マルーシャの静止も聞かず、ルカが流れている川岸までかけだすと、しゃがみ込み、その白い水を手でくみ口に入れようとしたその瞬間、突然どこからかルカの手に石のようなものがあたってルカの手の中から白い水をはじいた。
「だっ誰だ! 誰かそこにいるのか?」
ルカは飛んできた方向に視線を向け立ち上がると腰の短剣を構えた。
マルーシャもルカのそばまでかけよった。
「命の恩人に対して凄い反応だね」
二人が横を向くと、ほんのすぐそばに小石を数個手して、それを上に放りなげたり掴んだりしている少年がたっていた。
目の前に立っている少年は、二人と同じぐらいの年恰好だったがラールシア人とはすこし肌の色が違っているようにも思えた。全身黒の服に黒のマントといういでたちだったが腰には短剣がさしてあり、右目には眼帯が付けられ、髪にもまた黒い布でまかれ髪の色はわからなかった。
「何者だ? どこから来たんだ! 命の恩人ってどういうことだ?」
「やれやれ、ラールシア人は質問が多いな、何者かを聞きたいならまず、君達のほうから名乗るのが礼儀なんじゃないのか?」
少年は剣を構える様子もなく腕をくんでかすかに笑みを浮かべていた。ルカは返事の代わりにその少年を睨んだまま暫く様子をうかがっているようだった。
そんなルカの代わりに反応したのはマルーシャだった。
マルーシャはルカを押しのけ、目を輝かせながらその少年に近づこうと歩き出した。




