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地底人②

やがて、目の前の水平線の彼方がかなり明るくなり始めてきた。


「ちょうど、時間のようだな」


「なあ、これからどうするんだ。場所の特定はできているのか? 目の前の景色を見た限りじゃなんの特徴もなさそうだし、洞窟がありそうな岩なんてかなりの距離があるんじゃないか? 水が湧き出る岩穴をさがすのなんかすぐにできるのか? 日の出まですぐだぜ」


「場所の予測はでているから時間的には十分間に合うはずだ」

「そんなのいつ聞いたんだよ?」

「いつでもいいだろ」


「ねえ、そんなことより、洞窟って海水がいつもつかっている場所なんでしょ。湧き水と海水が混ざっちゃっているってことないのかな?」


「もしかしたら入り口だけが海水につかっているだけかもしれないよ」

「まっ行ってなめてみればわかることだ。問題なのは本当にその場所の水が俺達が探している聖水かどうかってことだ。泉とはまったく関係なさそうな場所だしな」


アルの言葉にランドが平然と言い切った


「そうね、でももし違ったらまた探せばいいじゃない。もしかしたら、あのおばあさんが、別の湖の場所を探してくれているかもしれないじゃない。その場所がわかったら聖水を手に入れるのは簡単でしょ。それにもしかしたら、泉の水が湧き出てきているかもしれないし」


マルーシャもランドの意見に賛成のように頷いた。


「僕の考えでは、あの聖水はただの湧き水なんじゃないかな。聖水とされ、毎年天の神に祈りを捧げてきた。いわば形だけのまがい物なんじゃないかな」


アルがいうと、マルーシャは納得がいかないといった様子で首を傾げた。


「どうして、みんな本物の聖水だって信じているんでしょ」


「考えてごらんよ、神に雨乞いをするのに聖水が必要ならスシュル湖の水で十分じゃないか? 雨乞い用の水ぐらい陛下に頼めば、簡単に手に入る。神の湖とされているスシュル湖の水のほうが断然、天にいる神様に人々の声が届きそうだろ」


アルの説明でなるほどと納得したマルーシャだったが、疑問はまだまだあった。


「そうかもしれないけど、私は本当にあの泉から湧き出ているのは神の水だと思うわ。その方がロマンがあるもの。天にはたくさんの神様がいらっしゃるんでしょ。だったら、いろんな神様がこの地上にかかわりをもってくださっていてもおかしくないと思うわ。ラダ岬の聖水はえーと誰だったかしら。そう、水の神ラグーナ様の水だからイクーリア様の水ではだめなのよきっと」


「うーん、そういう考え方もあるのか。僕は重要なのはそこじゃないと思ったんだけど間違っていたのかもしれないな」


「どういうこと?」


「ここらは、雨乞いをしなくても、毎年決まった時期に雨が降っているし、ネルーミ川から枝分かれしたビルダ川の水は今まで枯れたなんて聞いたこともないしね」


「アルずいぶん詳しいわね」


「授業で一通り習うからね。僕は剣術よりそういう歴史や地理の方が興味があるんだ。僕は将来、このラ―ルシアに生きる人々が快適に生活できるようにどう自然と折り合いをつけたらいいのか、自然と共存できる国造りをする仕事に尽きたいんだ。それにはまず、今までのこの国の歴史を知る必要があるからね。確か、1000年ぐらい前にこの辺りは川の氾濫で壊滅状態に陥ったことがあるらしいよ」


「ネルーミ川が氾濫なんて起こしたことがあるの?」


「そう、原因はわかっていないらしいけどね。もし氾濫が本当だとしたら、集中豪雨みたいな局地的に大量の雨が降らない限り川に濁流が流れるなんて考えられないだろ」


「そうね。あっわかったわ、雨乞いのお祭りって、雨を降らしてくださいってお祭りじゃなくて、まんべんなく大地が乾かない感覚で雨を降らせてくださいっていう雨乞いなんじゃないかしら」


「ああ、それだったら、聖水じゃなくただの湧き水の雨乞いでも納得がいくね。大地を通って湧き出た水を神に捧げることで、天にいらっしゃる雨の神様もどの場所の雨乞いなのかわかるだろうしね」


「そうね、きっとそうよ。ああっ、でも、この場所の水が本物の聖水でありますように」


マルーシャは明るくなり始めた東の空に向かって祈りを捧げた。そうこうしているうちに、既に目的地付近まできているようだった。



長く続いていた真っ直ぐな道はそこで左右にわかれていて、突き当りはもう目の前が海だった。目の前の突き当りは一面背丈ほどある草木が両側に広がっており、雑草にまみれ、雑草が伸びてきているところをみると、人が頻繁に訪れる場所ではなさそうだ。ランドは馬を止めると、先に自分が幌馬車からおり、道のすぐ横にある、まだそんなに大きくなっていない小さな木に馬の手綱をひっかけると先に道なき道を雑草の中、先に歩き始めた。


マルーシャはアルに手伝ってもらい幌馬車から何とかおりると、ランドの後を歩き始めた。

ランドは一度マルーシャがついてきているかチラッと振り向いただけで、すぐ草をかき分けながら進んで行った。


いつの間にか、アルがマルーシャのすぐ前にきてマルーシャが歩きやすいように草を足で踏みながらマルーシャのすぐ前を歩いていた。

そしてマルーシャのすぐ後ろをルカも無言のままついてきていた。


ルカはルカで背後や雑草から蛇や獣など襲ってこないか、気にかけながら歩いているようだった。しばらくしてランドの動きが止まった。ランスは急に地面に腹ばいになった。後ろを歩いていたアルも立ち止まり前をみるとランドのすぐ前は崖になっていた。


「足場がかなりもろくなっているようだ。だが、探し物は予想通りこの近くだ。俺が先に飛びおりるから、アル達は縄を頑丈そうな木に縛って、俺が合図したら引っ張ってくれ」


ランドはそっと起き上がると、その場に座り込み、背中のリュックから縄を取り出し端を自分の腰にくくりつけると、残りをアルに手渡した。


アルはランドから縄を受け取ると、少し離れた大きな木に縄を頑丈にくくりつけてからそっとランドの所に戻ってきた。


「なあランド、お前一人で大丈夫か? なんかかなり高そうじゃないか」


ルカも近くまでくると崖の下を覗き込んだ。


「一人だけなら大丈夫だろう。もし崖が崩れたら引っ張りあげてくれ」

「ねえ、もっと簡単におりられる場所はないの?私もここまできたら湧き水の場所を見てみたいわ」

「女のお前にはこの崖をおりるのは無理だ」


「あら縄があるなら大丈夫よ。それに、この下砂みたいじゃない、もし落ちても大丈夫よ」


「よく見てみろ、あれは砂じゃない、あれはこの崖が海の水で削られた土が積もっているだけの泥じゃないか、向こうをみてみろ、砂浜が続いているというより、岩だらけだろうが、この下の泥の下も岩に違いないだろうが、ここから落ちたらケガだけじゃすまないかもしれないんだぞ。もたもたしていたら洞窟が海にまた沈んでしまうんだ。お前はここで待っていろ」


「嫌よ、私がこの手で聖水を汲むんだから、崩れやすいんだったらランドが上で待ってればいいでしょ、この中で一番背が高くて体重が重いんだから」


「いい加減にしろ‼ もしお前に何かあったらこんな場所じゃあどうにもできないんだぞ」


「大丈夫よ」


マルーシャの決意は固そうだった。

こんな時、こうと決断したマルーシャはたとえランドであっても説得するのは時間が必要だった。


「しょうがないな、今は議論している時間がない。俺が駄目だといってもお前のことだ勝手におりてくるんだろう。俺が先におりたら、綱を一旦上に戻して、マルーシャも腰に綱をくくっておりて来い、二人同時は崩落の危険があるから」


「わかったわ」


ランドはそれだけいうと、それ以上は何もいわず先に体を反転させ、足から崖をおり始めた。ランドは軽々ともろい岩場をおりきった。ランドは下につくと、すぐ縄を解き、上にいるアルに合図を送った。


アルはすぐ縄を引っ張り上げると、マルーシャに手渡し今度はマルーシャがゆっくりおりはじめた。ランドは下からマルーシャが足をのせる岩場の場所を指示したかいもあって、マルーシャも無事おりきった。


「アルとルカはそこで待っていてくれ」

「わかった。気をつけろよ」


アルは顔だけだしてランドに合図を送った。

下におりたマルーシャはさっそく綱を腰からはずすと、洞窟がある岩場に向ってぬかるんだ足場を歩きはじめた。


「マルーシャ、待てよ!泥が深かったらどうするんだ?」

「もうランドは心配性ね、平気よこんなの。あっあら、ぬっ抜けないわ、どっどうして」


マルーシャは後ろを振り向きながらランドに向って言った瞬間右足が泥に埋まってしまって脱け出せなくなってしまった。


「まったく、いったそばからこれだ、はあ…仕方ない、ルカ! お前もおりて来い、こいつの見張りを頼む」


「もうランド‼ 見張りって何よ。私は囚人じゃないわよ」

「これは失礼しました。王女様」


ランドはプンプン怒っているマルーシャの埋まってしまっている右足を両手で掴み足をひきあげながら言った。


「せっかく、昼寝が出来ると思ったのによ、マルーシャのおかげでとんだとばっちりだ」


ランドの指示で、ルカも下におりてきた。


「何よルカまで、私が悪いみたいにいっちゃって。だいたいね、あの聖水は王女様である私が汲まなきゃ意味がないんですからね」


「なんだよ、誰がそんなこと言ったんだよ」


「私が決めたのよ」


「はあ? また私の言うことに間違いはないわが始まった」


「ちょっとルカ、そればかにしているの?」


「いいえ王女様、さっ急ぎましょ。最初に汲む大役がランシェルド様に先をこされますよ」


ルカは無言のまま先に洞窟の中に入っていこうとしているランドを指差しながらマルーシャにウインクしながら言った。


「あー、ランド待ちなさい‼」


マルーシャはルカを押しのけ、ぬかるんだ地面をランドの足跡を辿りながら急ぎ足でランドの後を追いかけた。


マルーシャがようやく洞窟のそばまでくると、おりてきた場所のような茶色の土質ではなくごつごつしたねずみ色をした大きな岩がごろごろころがっており、その先はすでに地面がなく深い海が広がっていた。洞窟はその海のすぐそばにぽっかり大きな穴が開いているような感じになっていた。


洞窟の岩がまだ濡れて海藻で滑りやすくなっているところをみると、確かに時間によってはこの場所は海の中に水没する場所であることがみてわかった。マルーシャは背中のリュックの中からろうそくと小さなろうそく立てにそのろうそくをさし、火打石でろうそくに火をつけた。


「準備万端だな、そんなもの城から持ってきていたのか?」


「昨日、洞窟の話を聞いてから寝る前にこれを借りていれておいたのよ。こんなに早くくるとは思わなかったけどね」


、マルーシャはそう言うと、そのろうそくを持ってランドが先に入って行った洞窟にゆっくり入って行った。ルカもマルーシャのすぐ後ろをついてきていた。





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