ロタ村のラバンナお婆さん①
四人はそれからランナが用意していた馬にそれぞれ乗り込み、来た道とは反対側のイクパクが住む南側の森を抜け、都のはずれまで行き、それから都を回りこむような形で西に向ってひたすら馬を走らせた。
都を抜けると、そこはいくつかの村が点在し、牧草地が広がっていた。緑が豊かでちょうど多くの草花が芽吹き始めていた。
「この辺はいつきても気持ちいいわね。都も確かにいいけど、私はこんな風景のほうが好きだわ」
マルーシャはそよ風に乗って春の息吹を体全体で感じながら馬を走らせていた。
見渡す限りの草原の中をマルーシャは人の視線を感じることなくフードを取り気持ちよさそうに周りの景色を眺めていた。
「マルーシャ、フードはとらないほうがいいぞ、お前の金の髪は目立つからな、都をでたとはいえ、お前の悪行は国中に知れ渡っているからな、城に報告されかねないぞ」
「何よその言い方! 失礼じゃない。私は自分の気持に素直に生きているだけじゃない。それに金髪の女の子なんかこの国にはたくさんいるわよ。こんなに風が気持ちいいんだもの。あっ、そういえば、昔探していた泉ってどこだったかしら?」
マルーシャは先頭を走りながら後ろを振り向き言った。
「はあ? マルーシャ、お前知っていて先頭を走っていたんじゃなかったのか?」
「いいえ、気持ちよかったから」
「相変わらずだなマルーシャは、奇跡の泉は言い伝えでは大陸の西の端ラダ岬の森の入り口とされているんだよ」
「あらそうだったかしら? ラダ岬かあ、まだずいぶんあるわね。ねえ、今夜はどうするの? このままラダ岬に向ってもあの辺りには大きな町はなかったんじゃないかしら?」
「そうだな、今夜はどこかで野宿しかないだろうな。宿を探すにも難しいかもしれないな。夜通し馬を走らすには馬の体力がもたないだろうし」
「ランド、本当に野宿なの? 私野宿は始めてよ」
マルーシャは目を輝かせて横に並んだランドの方をみた。
その後ろからルカが声をかけてきた。
「おっおいランド、それやばいんじゃないか? 俺達だけならいざしらず、もし何かあったら」
「そうだよ、仮にも今は戦争中なんだし、もし盗賊なんかに囲まれたらどうするんだ?」
「そうだな、どこか宿を探すか。じゃあ少し方角は違ってくるがルーザの港まで行って宿を探すか」
「えぇ~どうしてそうなるのよ~。私は断然野宿がいいわ。あなた達、なんのために毎日剣の訓練をしているのよ。弱いっていやあねえ、戦う前から逃げるみたいで」
「…寄り道している時間もないし、このままラダ岬を目指すぞ」
「おいランド本当にいいのか?」
アルはあわててランドの顔を見たがランドは険しい顔でマルーシャを睨んだままだった。
当のマルーシャは鼻歌を歌いながら別の方向を向いていた。
こんな時は何をいってもランドの決定は覆らない事は昔からよくあることだった。
今回はマルーシャの勝ちということになったが、アルはやれやれと大きな溜息をつくことになった。
一番後ろをいくルカは仕切りに後ろを振り返ってばかりで二人のやりとりは聞いていないようだった。
「おいルカ、さっきからどうしたんだ? 何かいるのか?」
見晴らしのいい草原を見渡しながらアルがルカにたずねた。
「いや、気のせいかもしれないんだが」
「何者かにつけられているっていうのか?」
「いや、そんな嫌な気配じゃないんだが…俺の気のせいかもしれないしな」
「用心に越した事はないな。おいランド、やはり、今夜はどこか宿に泊まったほうがいいんじゃないか?」
アルはだめもとでランドに聞いてみた。だがランドからは返事はなかった。
「おい、今夜は野宿かよ…相変わらずだな、こいつらのけんかは。何もないことを祈るしかないな」
「ねえルカ、今日は晴天だから星がきれいよ、きっと」
「はいはい、きっときれいだろうな、俺は星よりお腹の虫のほうが心配だよ」
「もう、色気ないわね。でも、確かに野宿は魅力的だけど夕食も朝食もなしはきついわね、都で食糧を買っとくんだったわね。どこかに泊まれる宿があるといいのに」
「この先にラダ岬まで大きな町はなかったと思うから宿を探すのは難しいんじゃないかな。暗くなる前にどこかの家で何か食べ物をわけてもらうしかないな」
アルが遠くにぽつりぽつりと見えてきた家々を指差しいうと、マルーシャが周りを見渡して横にいたアルにたずねた。
「そうねえ…そのラダ岬まではまだ遠いの?」
「そうだな、もうずいぶんきたからそんなに遠くないと思うよ。日が沈むまでにはつくんじゃないかな」
「そう、そういえば、そのラダ岬の辺りってなんて地名なのアル」
「確かロタ村だったと思うけど、ロタ村は牛やヤギの放牧や農業が盛んな場所だよ、村ってなっているけど、かなり広いんだよ。もうこの辺もロタ村に入っているんじゃないかな」
「ロタ村…う~んとロタ村…どこかで聞いたわね。誰だったかしら…ロタロタ、あっそうだわラバンナおばあさんの村だわ」
「ラバンナ?」
「そうよ、城にたまに極上のチーズを持ってきてくれるおばあさんよ、ラバンナおばあさんのチーズはラールシアで一番なんだから」
「どうしてそんばあさんのこと、お前が知っているんだよ」
「地下食堂の厨房の裏でよく会うのよ」
「はあ? お前そんなところにも顔を出しているのか?」
「あら、王女だってお腹はすくのよ、間食するには厨房に行くのが一番早いじゃない」
「はいはい、で、そのばーさんの家はどの辺りなんだ」
「確か…ロタ村の端にあるから都までそんなに遠くないって言っていたから、そろそろなんじゃないかしら。確か緑のつたの家だって言っていたわ。ラバンナおばあさんに泊れる場所がないか聞きましょうよ」
「そうだな、もしかしたら何か分けてもらえるかもしれないしな。緑のつたの家っていったな」
「緑のつたが家全体をおおってしまっているってぼやいていたわ」
「緑のつた」
四人は、家がぽつりぽつり見えている場所まで馬を走らせると、つたに覆われている家を探しながらゆっくり馬をはしらせていた。暫く行くと、左側にマルーシャが言ったように緑のつたが屋根まで覆いつくしている小さな家が見えてきた木の垣根に囲まれた家の前には様々な果物の木が植えられていて、その周辺には色とりどりの花が庭一面に咲き乱れていた。その一角には野菜なども植えられており、全て手入れが行き届いた感じのいい家が見えてきた。
「きっとあれね」
マルーシャはその家が近づくと馬からおりて、敷地の中に何の躊躇もなく入っていった。ランドも慌ててマルーシャの後に続いた。
「おい、待てよマルーシャ、そんなに突然お前がたずねて行って、別人の家だったらどうするんだ。俺達が行くからお前は待っていろ!」
「いいじゃない」
マルーシャはそう言うと、ランドの手を振り払うと、家の木の扉を叩いた。




