変わり者マンタ⑤
「ご無沙汰しております。その節はお世話になりました」
「少しは成長したようじゃな。軍に入隊したとは聞いておったが、今日はサボりか?」
「・・・」
「まあよい、人間誰休息は必要だ」
ランナはランド達がここにきていることにさほど驚いた様子を見せないで、ランド達の横をぬけて中央にあるバラに近寄った。それをみていたランドが話しかけた。
「お婆の家は東側のはず、どうしてここにいるのですか?」
「湖の水を調べていたら声が聞こえたのでな」
「ではもしかして湖を元に戻す方法をご存じなのですか?」
「私を誰だと思っておる? 原因も犯人もおおよその検討はついておるわ。わかっておるが、ちと問題が生じていての、その方法を考えておったところじゃ」
「問題?」
「今の湖の水は二つの神の水が混ざった状態じゃ。だからそれをきれいにするには、後二つの神の水が必要になってくる。まっ残りの二つの内、一つの湖の水の存在は不明じゃから汲んでくるのは不可能だが、残りの一カ所だけは何とかなるかもしれん。三つだけでもそろうと、完全とはいかないまでも、毒性は抜けるだろうから、そうなると何とかできるかもしれぬが、問題は汲みにいく人間に問題があっての、それを考えておったところだ」
「その三番目の湖ってカルタスにあるからですか?」
「何をいうか、この水の原因はそもそもカルタスの水を入れたことで起きたことだ、少し前、カルタスに侵入者騒ぎが起きたと報告があったばかりで、今回の騒ぎだ。あそこの湖の水とここの水を混ぜると毒水となるのをこの時代にも知っている者がまだいたようじゃ」
「そんなばかな、カルタスは聖なる土地よ。そんなわけないわ」
マルーシャはランナを睨みつけながら叫んだ。
「ふん! スーリアは何も話していないようだね。まあ、こんな子どもじゃまだ真実を話すのは無理かのう」
「子どもって何よ! 真実ってどういうことかしら? あなた失礼だわ。私はこれでももう14歳よ! ばかにしないで」
「おや、まだ14歳かえ、そうかい、14歳…大人でなく子でもない…」
ランナはマルーシャの年齢を聞いて何か考え込むようにブツブツと独り言をいいはじめた。
「ちょっと私の話聞いているの? 何とか言いなさいよ!」
「ランシェルド、ちと、その口をふさいでいてくれるかい」
ランナはそういうと、マルーシャの方に視線を向けてランドに向かって言った。
「それ、私の事を言っているの? しっしつれ! うっううう」
そこまで言い返そうとした時、ランドの手がマルーシャの口をふさいだ。
「黙ってろ!」
ランドに後ろから抑え込まれたマルーシャは何とかその手をはがそうと暴れたがまったく身動きがとれなかった。
マルーシャはいらだつ頭で、今までは同じように多くの時間を共に過ごしてきて、これからも同じように成長できると思っていたマルーシャにとって、この時、自分が女であると実感させられた瞬間だった。しばらくしてマルーシャは暴れるのを止めて、大人しくランドの横でランナがブツブツ言い終わるのを待った。
「ランシェルド、お前さんはいくつになった?」
「15歳です。いえ、正確には後十日後ですが」
「そうかい、まだ14歳かい、それなら何とかなるかもしれないね。いいかい、お前さんたち、一度しか言わないからよーくお聞き、ラダ岬の近くに三番目の湖があったという言い伝えが残っておる。今は小さな泉しか残ってはおらぬらしいが、その泉から湧き出る水ならもしかしたら、神の湖の代用ができるかもしれん。だがそれより問題なのはそれを取りにいく人間なのだ」
「取りに行く人間? 三番目の湖の水を混ぜれば元の色に戻るのでしょう。何をためらうことがあるというの? ねえランドこの人何者なの? ただの森の番人?」
マルーシャが聞き返すと、ランナは一瞬マルーシャに視線を向け、微かに笑みを浮かべたかと思うと、小さい声で呟いた。
「噂どおりのじゃじゃ馬のようじゃな。こんな子供がのう」
「えっ何かおっしゃいましたか?」
マルーシャの問いかけにランナは視線を戻すと、四人に視線を移して話し出した。
「昔からこの湖にはこんな言い伝えが残っておる。神の水は命の水、二つ混ざれば死の水となり黒き雨がふる。三つ混ざれば無の水となり、四つ混ざれば聖なる水となる。黒き雨の後、神の湖の水を集められし者は神の声を聞けし者、大人でなく子供でない者、その者の手によりのみ水を汲むべし」
「神の声を聞けし者、大人でなく子供でないもの? 神の声…そんな人間いるのかしら? あああ~!」
ランナの呟く声を繰り返しながらランデの言葉を聞いていたマルーシャが突然叫んだ。
「なんだよ、びっくりするじゃないか、何か思い出したのか?」
「お母様に聞いた唄を思い出したのよ」
「唄?」
「ほら、昔よく話してくれた神様の話の中に確かあったじゃない。神様の湖の話し、昔、神様がいて、神様はある時四箇所に大きなみずたまりをお造りになった。一つ一つは聖なる水でそれを飲むと人々の傷ついた体と心が癒えたという話」
「ああ、そういやあったな」
「だけど、あの話は確か、神の水を求めに集まった人間達の水の奪い合いで湖の水は枯れ、残った水も黒くよどんでしまったっておちじゃなかったかな」
アルも思い出した様子で話に加わってきた。
「そうそう、その昔話を聞いた後、四人でその湖を探しに行こうって盛り上がったけど、直前にグレナに見つかって辞めたんだったよな。ラダ岬かあ、行けねえ距離じゃないけど、その泉なんかすぐにみつかるのかあ?」
「そうだったかしら。ねえおばあさん? その泉ってあらおばあさんは?」
マルーシャが顔をあげてランナに声をかけようとした時は既にランナの姿はそこにはもうなかった。ただランナは去り際ランドの耳元に何かささやいて去って行っていた。
「ねえランドさっきのおばあさんは?」
「さあな、あのばあさんは別名魔女と呼ばれているらしいからな。何を考えているのか…まっ行きの心配は要らないようだ」
「行き? まっいいわ。それにしても魔女ねえ…変な人ね。でも、マンタもそうだけど、この森はいろんな人達が住んでいたのね、知らなかったわ」
マルーシャが何か考えているかのように森の奥に視線を向けて暫く考えていた。
「おい、マルーシャ、お前何考えているんだ? まさか、よからぬ事を考えているんじゃないだろうな? いいか、俺達もそろそろ城に戻らないとやばいんだぞ、今なら歩いて戻れば夕刻の使用人達の交代の時刻に間に合う、どさくさにまぎれて城の中に入れるんだぞ」
ルカがマルーシャに念を押すようにつめよったが、ルカの声はマルーシャの耳に入っていないようだった。
アルは横で諦めたように首を振っている。ランドは頭をかきながら大きな木々が青い空を覆い隠している頭上を見上げて何か考えているようだった。
「おっおい? 二人ともよ~く考えろよ、俺達士官学校に入ったばかりなんだぞ、それも特例で一年早く。早速、首になったらやばいだろう。首だけならいいけどよ、マルーシャを無断で連れ出しているんだぜ、無断外泊でもしてみろ、地下牢行きだぞ。なあ聞いているのか?」
「よし! 決めたわ」
マルーシャは突然、両手を大きく上に突き上げた。
「そうだな、答えはでた」
「お~いランド君? 何をいっているのかな~?」
ルカが不安そうにランドとマルーシャを交互にみた。だがその直後嫌な予感が的中した。
「いくわよ、泉を探しに!」
「そうだな、いくしかないな。婆さんが馬を貸してくれるってよ、この先をくだったところにつないであるらしいぜ」
ランドはそういうと、広げていた昼食を片付け始めた。
「おっおい、俺の話を聞いていたか二人共?」
ルカが二人を説得しようとした時、ルカの肩をアルが掴んだ。
「やめとけ、こんな時は何を言っても聞く二人じゃないよ、覚悟を決めようぜ」
「アルおっ俺…地下牢は始めてだぜ。きちんと飯食べられるかなあ」
ルカはアルの肩に顔をうずめた。アルはそんなルカを慰めるようにルカの頭を軽くなでた。




