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変わり者マンタ②

やがて四人はスシュル湖につながっている森の入り口近くに到着した。


いつもは誰もいないはずの入り口に数人の兵士達によって封鎖されたスシュル湖の森の入り口に立って人々の往来を監視していた。

ランドはとっさに横を流れる川の土手沿いに体を滑り込ませた。


「ねえ、入れそうにないわね。どうしてあんなことをしているのかしら?」

「さあな、この中で異変が起きていることは確かだな」


「なあ、やばいんじゃないのか、俺達が勝手にはいってもし何かあったら・・・」

「そうだな」


ルカの言葉にランドも様子を伺いながら言った。


「ここまできて引き返すなんて私はいやよ、あの森は私達の神様がいる聖なる湖なのよ、何か大変な事が起きているのだとしたら、なんとかしなきゃ」

「だけどよ、俺達に何ができるっていうんだよ」


ランドの言葉に反論はできなかったが、マルーシャにはあきらめて帰るという選択肢は毛頭なかった。


「とにかく湖に行ってみましょうよ。あそこが駄目なら、何処か別の場所から」


マルーシャは茂みにかくれながらすぐ横の森の頂上付近に視線を向けた。


「そうだな、ここまできたんだから行ってみるか」

「そうこなくっちゃ」

「仕方ねえなぁ~お前らはあきらめるって事を知らないからな」

ルカはマルーシャとランドの二人を見ながら軽く溜息をついた。


「ルカ、というわけだ。がんばれよ」


ルカの肩にポンッと手をのせてアルがにやりとして言った。


「えっ? えええっ! また俺かよ! やだよ、やばい事は俺ばっかりじゃないかよお~」


ルカは思いっきり首を横に振った。


「あらルカ、それは違うわよ。あなたにしかできないからお願いしているんじゃない。想像してごらんなさいよ、ランドがもししたとしたら、あなたのように早く走れないわよ。ランドが捕まったらあなたたちは訓練をさぼっただけじゃなくて、王女を誘拐して城を抜けだした罪で地下牢行きよ。それでもいいの?」


マルーシャがルカに詰め寄り、そばに落ちていた小さな小石をルカの胸元につきつけながら首を横に振っているルカににじり寄った。


「わっわかったよ。ただし、捕まりそうになったら助けてくれよ」


「大丈夫だ。お前の運は山より大きいからな。助けるのは無理でもマルーシャだけは無事ばれずに城に送り返すから安心しろ」


「何だよ。やっぱりどう転んでもしんどい思いをするのは俺だけじゃないかよ」


「まったく、根性ないわね。わかったわ。じゃあ、あなたが前から言っていた今年行われる菓子職人の品評会でもらうお菓子は全部あなたにあげるわ」


「ほっ本当か? 約束だぞ、俺一度でいいから新作のお菓子をたらふく食べてみたかったんだよな。仕方ない、やってやるか!」


ルカは急に態度を変えると、背中に背負っていたリュックをおろすと、目の前にいたアルに手渡し、マルーシャに貸していた帽子をマルーシャの頭からとると、自分の頭にかぶせ、ポケットから白いハンカチを取り出し鼻から下を覆い隠し、後ろで結ぶとマルーシャから小石を受け取り、茂みに身を隠しながら兵士達が見張りをしているスシュル湖に通じる道の入り口に近づいて行った。


そしてしばらくの間茂みから様子をうかがった。

すると、交代のために一人になるタイミングを見計らって手に持っていた小石を兵士の胸の辺りめがけて投げ付けた。


「誰だ!」


兵士が投げられた小石が飛んできた方向に向って怒鳴った。

するとルカは急に立ち上がり、マルーシャ達がいる方向とは九十度違う方向に向かって走り出した。兵士は剣に手をかけ、すごい形相でルカを追いかけ始めた。


「さすがルカね。逃げ足だけは速いわね」


まったく距離が縮まらず、既に建物の角をまがり姿が見えなくなったルカと兵士を確認しながら、マルーシャは感心した様子で言った。


「おい行くぞ」


ランドはマルーシャの手を掴むと周囲に人がいないのを確認してから急ぎ足で森の中に入って行った。


二人の後からアルも森の中に入って行った。三人は森に入って暫く進んだ道が二手に分かれているところでルカのくるのを待っていた。


「お~い、待ってくれよ~」


ルカは声を低くしながら荒い息遣いで走ってきていた。ただ足取りはかなりふらついていた。


「ルカ、あなたの正体がバレないでまいてきたんでしょうね」


「はぁはぁ…あっ当たり前だろ、おっ俺を誰だと思っているんだ? これでも走りではラールシア軍一なんだからな。この俺様が捕まるわけがないだろ、はぁはぁ」


ルカはようやく三人に追いつくと、ひざに手を付きながら荒い息遣いを整えた。


「よし、じゃあ行くか」


ルカが追いついたのを確認すると、ランドはすぐにスタスタと二つにわかれている道の左側の道を先に歩き始めた。ルカはアルから自分が持ってきていたリュックを受け取ると、背中に背負い追いかけた。


「おい、ちょっとぐらい待ってくれてもいいだろう~。俺今ついたところなんだぜ」

「ぼやぼやしていたら偵察に入ってこられたらやばいだろうが」


それだけいうとランドはいったん立ち止まったが、またすぐ歩きだした。

マルーシャもアルもがんばって! というかのようにルカに視線を向けただけで、緩やかなのぼりの道をランドに続いて歩き始めた。


「くそ~! 覚えていろよお前ら、お菓子は全部俺のものだからな!」


ルカはそう叫ぶと、スタスタと歩きだしている三人に向かってもう一度駆け寄った。



 森の中は以前来た時と変わりなく神聖な空気で満ちていた。木々が生い茂る頭上では太陽の光が差し込み、鳥のさえずるなき声が辺りで聞こえている。マルーシャ達は幾度となく通ったなだらかな山道を迷うことなく歩き続けていた。


「まだ着かないの? はあはあ、この道こんなに遠かったかしら?」


先頭をいくランドに向って荒い息遣いのマルーシャがその場に立ち止まり息を整えながら独り言のようにいった。


「まだ半分ぐらいだよマルーシャ。少し休憩するかい? いつも馬に乗ってきていたからわからないだろうけど、この道は少しずつ登り坂になっているからね」

「はあはあ、そっそうよねえ。スシュル湖から見える眺めは最高だものね。だっ大丈夫よ、これくらいでへばっていたら私も兵士に志願した時困るもの」


「兵士になるつもりなのかマルーシャ? お前王女だってこと忘れているんじゃないか?」


マルーシャの後ろを歩いていたルカがマルーシャに追いつき驚いた様子で聞き返した。


「知っているわよ。でも王女が兵士になっちゃいけないって決まりはないはずよ。私はね、人の殺し合いなんて大嫌いよ。でも、兵士になって早く戦争を終らせたいのよ。戦争なんて何もいいことないじゃない。私がお父様だったら、直接、フィスノダ国の国王に会いに行って戦争を止めるようにいうのに」


「マルーシャ、戦争を止めるようにっていう通告なら何度も陛下はなさっているよ。今フィスノダ国に陛下みずから行ったりしたら、それこそ、陛下の身があぶないよ。それに戦いといっても、勝っているのはラールシアの方で戦地になっているのはフィスノダ国の荒野で、ラールシア軍もけっしてフィスノダ国の人々が住む村や町には攻め入ったりはしていないし」


「でもこの間、シアフィスの森を通過されて、シアの町に火が放たれたって」

「ああ、それで今、軍の内部でもピリピリしていて新しい砦の建設を急いでいるんだよ。あそこが完成すればシアフィスの森の監視がスムーズに行くからな」


「あああっ、どうしてフィスノダ国はラールシアに戦争を仕掛けてくるのかしら、まるで戦争を楽しんでいるみたいじゃない、攻めたり引いたり」


「そうだな、この森ももしかしたら俺達人間の醜い争いを嘆いているのかもしれないな。もし、湖が大変なことになっていても変な気をおこすなよマルーシャ」


「何よそれ、あそこはイクーリア様がいらっしゃる神聖な湖なのよ。どうにかなるわけないじゃない」

「そうだといいんだが・・・」

「ランド?」


ランドがいつのまにかマルーシャのところまで戻ってきていた。

ランドはそれ以上は何もいわなかったが道の先の方角を見つめた。


「なあ、湖で食べるつもりだったけど、この辺でお弁当食べねえか? あそこら辺でさ、この調子だと頂上につくのがいつになるかわからないし、この荷物けっこう重いんだよな」


ルカが道のすぐ両脇の少し開けた場所の草むらを指先ながら三人を順番にみた。


「そうね、よく考えたら私、朝もお父様とけんかして何も食べなかったんだったわ。どおりで力が入らないわけだわ。ルカ、その中に何か下にひくもの入ってないかしら、少し横になりたいし」


マルーシャは木々の隙間から木漏れ日が差し込んでいる草むらの辺りに先に足を踏み入れながらルカに向かって言った。


ルカはその場にリュックを置き中身を探りながら一番底に入れられていた藍色の大きな布を取り出すとマル―シャの後に続いてマルーシャが指差した場所にその布を敷いた。

四人はそこでグレナが用意した昼食を食べ始めた。


「ああっやっぱり外で食べるとおいしく感じるわね。お父様ったら、ここの森の入り口にあんな見張りまでたてて何を考えているのかしら? あそこまでする理由があるのかしら」


「マルーシャあの噂を知らないのか?」

「えっ、うわさって?」

「ルカ余計なことをいうんじゃねえよ」

「何よランド、何か知っているなら教えなさいよ。それ私だけ知らないことなの?」


三人は顔を見合わせながら何かを言うのをためらっていた。


「何よ三人して真剣な顔しちゃって、私達今日は湖を見に来ているんでしょ。この場所だって何も感じないじゃない、いつもと同じで空気もいいし、静かだし何があるっていうのよ」


「実は、僕達が今日ここにこようと思ったのはここの見張りに行っている上官達の話を聞いたからなんだ。本当は君を連れてくるつもりじゃなかったんだけど、この間からずっとスシュル湖にいきたがっていただろ、マルーシャも自分の目で見たほうが諦めがつくんじゃないかって思ってさ」


「あきらめる? それどういうことよアル?」

「言葉通りだ、スシュル湖は今死の湖になっているらしい」


ランドが湖の方角に視線を移しながら静かに言った。

マルーシャはランドが何を言っているのかわからなかった。


「何それ? 死の湖ってどういうことよ?」

「俺達三人が軍に入隊してからここにはきていなかっただろ」


「ええ、昔のように頻繁に来る事はなかったけど、私は時々来ていたわよ。でもそうね…そういわれたらお母様に止められてからはしばらく来ていなかったわ」


「最近、この湖の水質が急に悪くなって黒い水に変わって、ここの湖にいた魚も水面に浮かんできたらしい」


「魚が浮かんでって、もしかして毒ってこと?」


「ああ、まだ調査中らしいけどな。俺達、自分の目で確かめようと思って今日来ることにしたんだ」


「うそ、あの湖は底まで見えるほどの透明度の高い湖なのよ、イクーリア様の湖なのよ、黒い水なんてうそよ!」

マルーシャはそう言うと、急に立ち上がり走りだした。


「マルーシャ待て! 一人で行くと何があるかわからないんだぞ」


ランドがそう言うとマルーシャの後を追って行った。

残った二人は大きな溜息をつきながらその場を片付け始めた。


「おっおい、お昼はどうするんだよ! ああっ余計なこと言っちまったなぁ。なあアル、湖黒くなっていると思うか?」


「おそらくな。あの警戒の仕方は異常だしな。フィスノダ国との戦争が原因というのはただのうわさだろうけどな」


「だけどよ、本当によかったのかな、陛下がわざとマルーシャに見せないようにしていたのに俺達が連れてきちまって。知らないほうがよかったんじゃねえのか?」

「そうだな」


二人はそれから無言のままその場を片付け、マルーシャとランドの後を追って行った。

 




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