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変わり者マンタ①

城を出ることに成功した四人はグーザ爺さんの幌馬車に揺られて、なんとも言えない腐った野菜の匂いに耐えながらじっと息を潜めていた。


城の裏手の従業員通用口の城の裏手には穏やかな水の流れが城に沿って流れており、城を取り囲むように林が広がっていた。

そしてその向こうには王族専用の牧草地があり、様々な動物が飼育されていた。


幌馬車は城門を抜けると城をぐるりと半周するように道沿いをはしりぬけ、高い城壁に囲まれたラミド城の南側に広がる都の表通りに進入すると、幌馬車は表通りを暫く南下すると、大きな通りを右にそれ、細い路地を何度か曲がると、表通りの華やかな建物が続く通りから貧しい者達が住む居住区へと入っていった。


幌馬車は荷馬車が多く止められている広場の空いている場所に馬を止めると、酒場の前に打ち付けている木の柵に馬の手綱をくくりつけると、グーザ爺さんはいそいそと酒場の中へと入って行った。


「おいどうだ? 人がいそうか?」

「いや、今は誰もいないようだぜ」

「よし、今のうちにここから出るぞ」


ランドの声で四人は全身を覆っていた布から顔を出し、幌馬車からでた。

そして急いで建物の影に身を隠すために走りだした。


「ねえ、私達脱走した囚人じゃないのよ、こそこそ隠れる必要ないじゃないの?」


「兵士達が巡回しているかもしれないからな、特にもし今、城の巡回中の兵士達にお前の姿をみられたら俺達牢獄行き間違いなしだろうな」


「そうだ、これ被っていたらいいんじゃないか?」


ルカは自分が被っていた帽子をマルーシャの頭に被せた。


「似合っているじゃないか」


「そうかしら? これじゃあまるで男の子みたいじゃない。まあいいわ、で? これからどうやってスシュル湖に行くの?」


「そうだな、いつものル―トだと、表通りを行くことになるしな」


「だけど草原から周りこむ行き方だと遠回りになるぜ、馬でもないと無理なんじゃないのか?」

「馬か…」


「ねえ、でも今スシュル湖の森自体立ち入り禁止になっているってお父様が言っていたわよ。馬で行っても入れないんじゃないかしら」


「立ち入り禁止かあ…なあなんでスシュル湖が立ち入り禁止なんだ? 今更立ち入り禁止にしなくてもあの森自体、王家所有の森なんだから誰も立ち入れないんじゃなかったか?」


「ええ、だけど、湖周辺以外は森の中は立ち入るのは自由だったはずよ、貧しい人達にとって森の中の山菜やまきなんかは必要なものだからって今まではお父様は立ち入りを制限していなかったらしいわ。でも、最近それすらも禁止したみたいだし、私もね、あなた達が兵士に志願してからスシュル湖に行く機会は少なくなっていたんだけど、時々御供を連れてだけど、行っていたのよ。なのに、最近急にスシュル湖に行くのをお母様も反対するようになったのよ。いつも反対しないお母様なのに、それからすぐだったわ、スシュル湖のことが城中でもさわぎになったのは」


「王妃様が反対なさるとは、ますます何かあるのかもしれないな。軍にはスシュル湖のことは立ち入り禁止のために兵士が巡回するようにと通知があったけど、巡回に行くのは決まって上官達だし、俺達が行ったことはないな」


「そうだな、それもおかしいんだよな。都の巡回なら下っ端にさせるのに、スシュル湖だけ上官達が行くんだぜ、確か今日も巡回に行ったはずだ」


「何か隠しているんじゃないかしら?」

「そうだな、じゃあ、やはり歩いて行くしかなさそうだな」


「裏通りを歩いていきましょうよ。この道なら昼間なら安全でしょ。私達それほど高そうな服は着ていないし、私達の正体はばれないんじゃないかしら?」


マルーシャは三人の服を見比べてから言った。


「そうだな、そうするか」


「私、裏通りを歩くのは初めてなのよね。おもしろーい。こんな場所があったなんて知らなかったわ。いろんな店があるのね。ねえ、あなた達お金持っていないの?」


マルーシャはそう言うと、酒場の路地を曲がり、表通りから平行に立ち並んでいる裏通りを軽やかな足取りで先に歩き出した。


裏通りには様々な露天がぎっしり立ち並び、お昼時というのもあって多くの人達が行きかっていた。だが、ここにいる少年が王女であるということは誰も気付いてはいないようだった。

人々はみな忙しそうにすれ違っていた。


「おい待てよ! お前状況がわかってないだろう。俺達より先に歩き出すなって!」


ランドはあわててマルーシャに追いつくと、マルーシャの腕を掴むと自分の後ろに彼女を引き戻した。


「なっ何よ、いいじゃない」


よろけそうになったマルーシャの肩を掴んで、やさしく支えたアルが苦笑いをしながらマルーシャの耳元にささやいた。


「マルーシャ、君は知らないだろうけど、この裏通りにはいろんな人が住んでいてね、人の命なんかなんとも思っていない人も潜んでいて、宝石や金品をもっていそうな人間をみかけたら殺してでも奪おうというやからもいるんだよ。人さらいなんかの事件もあるしね」


「え? この都にはそんな人達なんかいないんじゃないの? お父様に会いに来る人達はみんなお父様のおかげでみんな幸せだっていっているわよ」


「マルーシャはこの国の光の部分しかみていないんだよ。城に来て陛下に謁見できる人間はこの国でも限られた人間だけだよ。ほとんどの人たちはその日食べるものにも苦労する人達が多いんだよ。ほらごらん、あんな小さな子供でも、売り子をして家計を助けているんだよ。僕達は苦労をしなくてもほとんどの物は手に入るけど、僕達が毎日食べている食料も食べられてない人達が大勢いるんだよ」


アルは裏通りの通りにぎっしり立ち並ぶ様々な店で威勢よく掛け声をかけて呼子をしている幼い子供達に視線を向けながらマルーシャに言った。


「そんな…どうしてみんな幸せになれないの?」


いつも必ず数人の兵士を引き連れて表通りを走る王女の姿を貴族達が目にすることはあっても、貧しい貧困街で暮らす多くの人達にとって貴族や王族は雲の世界のことのようにすぐ隣あって立ち並んではいてもここはまったく遮断された空間だった。


「マルーシャ、この国に何人の人間が暮していると思っているんだい、全ての人間が平等に幸せに生きられる世の中になんて神様でもできっこないよ」


ルカの言葉にマルーシャは心が締め付けられる思いがした。

みんな自分と同じように幸せに暮らしているとばかり思っていた自分が情けないと思うマルーシャだった。


「そう…」


マルーシャは道の両側に立ち並ぶ多くの店で働く人達をじっと眺めていたが、それから無言でランドの後ろを歩き始めた。


それから四人はランシャン通りを南に進み、やがて通りの突き当たりに来ると、西に向って行き、大きなお屋敷が立ち並ぶギンレイ通りを足早に通過し、目の前に小高い丘のように見える森が姿を現した。王族の領地であるスシュル湖の森の周囲をぐるりと取り囲むかのように川が流れていた。




 


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