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アンル館①

シアフィスの森をでた二人は一路北に向かって馬を走らせ続けた。

そして夕刻がせまった頃北の都市ニリアに着いた。念の為マルーシャは早めにかつらをかぶりランドのマントをはおり変装していた。ようやくニリアの中心街を抜けようとした時ランドが突然止まった。


「ランド、どうしたの? 誰かいたの?」

突然止まってしまったランドにマルーシャが近づいた。

「どうやら、お迎えが来たようだぞ」

ランドの視線の先を追ったがマルーシャには何も見えなかった。


「よく見てみろ、何かこっちに近づいてくるのがみえるだろう」


マルーシャが意識を集中させながらよくよく見詰めていると、目の前の道の向こうから熊のような大きさの黒い毛で全身覆われた動物が近づいてくるのが見えた。


「ラッランド何あれ? なんだか黒くて大きいのが近づいてくるわよ」

「安心しろ、あれは犬だよ。俺達が来ると知らせがいっていたようだ」


ランドの言う通り近づいてきたのは熊ぐらいの大きさはあろうかという大きい真っ黒な犬だった。首輪をしているところをみると野良犬ではなさそうだった。


「やあグルール久しぶりだな、ご主人は元気か?」

「ワン!」

その犬は大きな声を上げしっぽをふりながらうれしそうにランドに近づいてきた。

「お前、俺達を迎えに来てくれたのか?」


ランドが言うとグルールはくるりと向きを変え、ついて来いといわんばかりに二人の方を何度も振り向きながらニリアの中心街とは反対方向の方角へと進んで行った。


「マルーシャ遅れるな、グルールを見失うと今夜も野宿になるぞ」

ランドはそう言うと先にグルールの後を追いかけはじめた。


「ランド待ってよー!」

マルーシャも慌てて後を追いかけた。どれだけ走っただろうか。辺りはすっかり暗くなり今夜は月明かりのせいか周囲の様子がかろうじて把握できた。


だがマルーシャは次第に気味が悪くなってきた。というのもニリアはイレド山脈のふもとの都市で、中心部から離れると次第に森林が広がり人家がなくなってきた。

グルールは何度も振り返りながらどんどん森林の中に入って行った。


しばらく行くと、マルーシャの目の前にどこかで見たことのあるような建物が目に飛び込んできた。

「ランドこっここって、ラ…ランナ館? うそ! そんなはずは…」


口をあんぐり開けてツタの生えた古く大きな館を見上げながら半分パニックになっているマルーシャを横目で見ながらランドは馬からおり、扉にぶらさがっている紐を引っ張った。暫くすると扉が開いて中から老紳士の執事が出てきた。


「こっこの人! ラッランド? ねえどうなってるの? ここはランナ館じゃないわよね」

マルーシャも馬からおりてランドの後ろから覗きながら小声で聞き返した。

「ここはアンル館だ」

「アンル館?」


マルーシャはわけがわからないというかのように、周囲をキョロキョロ見回していると、出迎えた執事が二人の顔をみるなり一礼してから言葉をはっした。


「マルーシャス王女様、ランシェエルド様お待ちしておりました。ご主人様がお待ちでございます。どうぞ中にお入りくださいませ。馬についてあるにお荷物はランシェルド様が以前使われていたお部屋にお運びしておきますのでどうぞおはいりくださいませ。馬は馬屋の方に移動してお世話させていただきますのでご安心くださいませ」

そう言うと執事は二人を玄関に残したまま外に出て、二頭の馬の手綱を持つとどこかに馬を連れて行ってしまった。


「マルーシャ説明はここの主人に会ってからだ。中に入るぞ」

ランドは完全にパニックになってしまっているマルーシャの手を掴むと、スタスタと館の奥に入って行った。そして玄関から真っ直ぐに進んだ突き当りの部屋の扉をノックした。


「お入り」

部屋の奥から声が聞こえてきた。ランドは扉を開けて中に入って行った。

「ご無沙汰しております。アンル女史」


ランドの後ろからマルーシャも中に入ると、そこにはランナとよく似た女性が窓辺の椅子に腰掛け本を手にくつろいでいた。


「久しぶりだねランシェルド。まったく…お前さんという男は、また来るといったきりまったく寄り付かないんだからね。お前さんがシアフィスの森の墓参りに向かったとランナから聞いたもんだから、その後に私のところにくるだろうと思ってグルールを迎えに行かせていたんだよ。探し物は思ったより早く見つかったようだね」


アンル女史とランドが言ったその女性は、二人が部屋に入ってくると、読みかけていた本を横の机の上に置き立ち上がると、二人に近付いてきた。ランドはアンル女史と呼んだその女性に近づくと、握手しながら親しげに話しだした。


「俺はランナ婆さんに一言もここに寄るとは言わなかったはずですが」

「ほっほっほ! お前さんがスーリアの持っていた古い地図を手にして一人ではなく二人で旅にでたと聞いた時点で、だいたいの行動の予想はつくからね。それで輪の剣は手に入れたのかい?」


「俺達の行動は全てお見通しってわけですか。まっいずれ時間を作って見せにこようとは思ってはいましたけどね…これがその現物です」


そう言うとランドは腰から剣を鞘ごと二本抜き取ると、それをアンルに差し出した。


「なんと、もう一つの剣の鞘もみつけたのかい? たいしたもんだ。これが輪の剣…私もみるのは初めてだよ。確かに言い伝えどおりだね。ちょっと腰をおろさせてもらうよ、歳をとるといかんな…」


アンルは驚いた顔をしたかと思うと、少し震える手でその剣を受け取ると、二つの剣を手に持ちながらさっきまで座っていた椅子まで戻ると腰掛けてからランドの剣を二本受け取った。


アンルはそれを膝の上にのせ、一本ずつ両手に持ち、剣の鞘の部分に視線を向け剣の鞘に刻まれている文様らしきものを右手で辿りながらもう一つの剣にも持ち替え同じように念入りに調べはじめた。


「さすがは光の子らだね。これは正真正銘の本物だ…よく輪の剣の二本完全な形で探し当てたもんだ。片方の鞘は長年行方不明だったはずだが…これが出てきたということはいよいよ歴史が動きだしてきたってことかもしれないね。かざせ我らの証、セルビイムリムール…光を刻みし三つの誓いのしるしが揃いし時…いまいちピンとこないね、やはり肝心の部分は光の剣に記されているようだね。全ての剣が揃わないと誓いの呪文は完成しないようだね…」


アンルが二本の剣を真剣な表情で眺めながらまるでそこに刻まれている文字を読んでいるかのようにブツブツ独り言を言っているのをみて、マルーシャは驚いたような顔をし、剣とアンルの顔を交互に見ながら、マルーシャは思わず口をはさんだ。


「それはラールノダ文字ですよね。あなたはその文字が読めるのですか?」

アンルはマルーシャの言葉に顔をあげニヤリとさせたが、その問いには何も答えず剣をランドに返した。

その態度にマルーシャは今度はランドの服の袖を引っ張りながら小声でランドに尋ねた。


「ねえ、この人はいったい何者なの? ランナさんによく似ているようだけど、雰囲気がまったく違う気がするわ」


「この王女様は少しは人を見る目はあるようだね。では自己紹介しようかね。私はアンルフィア・リルハーンだ。ようこそアンル館へ。お客なんて久しぶりだよ。お前様たちなら歓迎するよ。お前様はスーリアの娘のマルーシャス王女だね。お前様が知っているランナフィアは私の双子の妹だよ。この館も全て同じ造りになっているから驚いたんだろう。あの執事も双子なんだよ」


アンルはランドの後ろにいたマルーシャに向って座ったまま、右手を差し出した。

マルーシャはランドから離れるとアンルに近付き握手をかわすと、一歩さがって笑顔をつくると、頭をさげた。


「アンルフィアさん、突然の訪問にも関わらず招き入れてくださり感謝いたします。ですが…私達が来ることをどうしてそんなに早く知ることができたのですか? 私達は今日ここに来ることを決めたばかりですのに。ランナフィアさんも不思議な方だと感じましたけれど…あなた方はもしかして双子の魔女なのですか?」


「あははははっ! 面白いことを言う子だねえ。本当にランナが言っていた通りの王女様のようだね」

アンルは豪快に笑いながら立ち上がると、マル―シャに近づきマル―シャを抱き寄せた。

「よく来たね、歓迎するよ」



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