4.どうしましょう
今回でようやく導入部が終わります...
「ここに残るか...」
学は唐突な質問に戸惑いを隠せなかった。
ただでさえ、この場所が分からないことだらけなのに、そこで住んでいくなんて、全裸...は言い過ぎだが、上半身裸の状態で...ほら、あれだ、あのー...危険な場所に行くようなもんだろう。
この通り、表現もろくに思いつかないほどに困惑しているのだ。
「別に無理して残る必要は無いわ。でも...誰も人がいないとなると、そろそろこの場所も消えてしまうかもしれないの。」
そうか、やはりどこの場所でも必要無いものは消されていくんだな。
「でも、この場所には様々な人の気持ちが残っている、私にとってとても大切な場所なの。そこが無くなっちゃうとなると、どうにも寂しくてね...」
思い出の場所が消える...か。
俺も、昔通っていた駄菓子屋が潰れた時なんかは悲しかった記憶がある。どんな小さなことでも、思い出が残ったものには深い愛着が残るものだ。
それが消える悲しみ、それは誰にでも分かるだろう。
しかも、今回のは色々な人が暮らし、生活して、分かれていく場所と来たもんだ。それは愛着とかいう言葉だけでは絶対に足りないだろう。
俺も進んで住もうとは思っていない...
だが、この場所が消えてしまうというのも何だがスッキリしない。
それに...気がかりな人もいる。
「わかった。俺の待ち人が来るまでならここにいようと思う。」
条件付きではあったが、とても嬉しかったらしく、
「本当に!?ありがとう!!」
口調が一気に明るくなったのがわかった。
「でも、ここで暮らすと言っても何をすればいいのか全く分からないんだが。」
俺には個人的なやり残しみたいなものはあったが、ここに残る理由というのは無かった。だから何を目標に過ごせばいいのか見当がつかなかった。
「心配ご無用!何をしてもいいのよ!」
「何をしても?」
「ええ、かなり広い場所だし、誰もいないから何でもできるわよ!」
「そう...か...」
少し答えからズレているような気もしたが、何だか納得してしまった。
「取り敢えず、上に戻るか。」
こんな川の近くで話しているのも変な感じがしたから、場所を移した。
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「ところで。」
屋敷の中まで戻ってきた俺は、唐突に喋り始めた。
「ん?」
「あんたはいつまで光っている状態なんだ?」
「いつまでって...いつまでもよ。」
「お願いがあるんだが...人間の姿にはなれないのか?」
「人間の姿ね〜なれないことはないけど?」
「いい加減、光に話してると頭がおかしくなってきそうなんだ。」
そう、俺は仮にも人間だった。当たり前だが、人間は人間以外のものと話すことなんてまずない。
そんな俺が、今は謎の光に向かって話している。この状況が段々おかしく感じてきてしまっていた。
「ああー、なるほどね。じゃあしょうがない。少し目つぶってて。」
え、まさか、生着替...
「スケベなこと考えてないでさっさと目を閉じなさい。ぶん殴るよ。」
「あっ、はい。」
死んでいるが、取り敢えず命の危険を感じたので、大人しく目を閉じた。
その瞬間、花火が発射された瞬間のような音とともに、目を閉じててもわかるほど、目の前が光った。
「はーい、開けてもいいわよー。」
その言葉通り、俺は瞼をゆっくり開けた。
そこには、頭でパッと思い浮かべた時に出てきそうな白の巫女服のようなのを身につけた、黒髪の綺麗な女性が立っていた。
「もしかして、巫女?」
「いや、神様に近い方だから、巫女ではない。」
まじかい、アンタ神様なのかよ。本当にあっさりと答えるな、この人...いや、神様は。
「神様でも巫女服とかは着るもんなのか。」
「うーん、神様によっても違うけど、私は人間にも親しみやすい服かなと思って着ているわ。」
「確かに、その服は俺でも馴染めると思う。」
神だからといって、いきなり船に乗った7人組がようこそーとか言いながら突進してきたら、最悪気を失う可能性も捨てきれない。
それに比べたら、この服は自分達のような人間には大分馴染みやすいだろう。
「あ、あともう一つだけいいか?」
「何かしら?」
「名前を聞いていなかった。」
女は口と目をパッと開けていた。あっと言うような感じだ。
光が無くなったぶん、表情がかなり分かりやすくなった。
「確かに、割と重要だったかもね。」
「だろ?因みに俺の名前は学って言うんだ。別に勉強は好きじゃないがな。」
「ふふ、確かに合いそうにないわね。」
少し腹が立ったが、まあいいだろう。
「私の名は、あまのさかいめ。」
「天の境目?」
「うん、多分漢字違うね。天に、世界の界に、女よ。」
「天界女か...結構安直な名前なんだな。」
「悪かったわね!それは親に言ってくれない!?」
「あー、申し訳ない、口が滑った。」
神様も案外怒りっぽいというのは、嘘じゃないのかもしれない。
「でも、毎回毎回、天界女と言うのも面倒くさいなぁ。」
「人の名前を面倒くさいとは...そろそろ覚悟しなさいよ...」
今にも吹き出そうなオーラを感じ、俺は慌てて、
「いいいやー!そ、そうじゃなくってて!いいつも正式名称で呼ぶのも、か、堅苦しいんじゃないかなーーーと思って!」
焦りすぎて噛み噛みだったが、なんとか伝わったようだ。
「ふーん、確かにそうねー。でも、人間と違って苗字も名前も別れてないしなー。」
「それなら、天さんでいいか?」
咄嗟にそれが思い浮かんだ。
「それって...あの海に潜る人のことじゃない?」
「細かいことは良いんだよ。その名前に不満はあるか?」
「え?べ、別にないけど...」
「よぅし!それなら決まりだな!」
「何だか、あんたに決められるのが腑に落ちないわね...」
何か聞こえた気がするが、気にしないことにしよう。
「よし、それじゃあ天さん、よろしくお願いしますよ!」
「ふん、まあサポートは任せなさい。」
こうして、死んだ人間と神様、奇妙な編成の不思議な死後生活がスタートした。
死後の世界の人々
学→学生だった人。トラックに轢かれてこっちへ来た。
勉強は好きではない。あと厨二病も抜けきれてない。
天界女→こっちの世界の管理人さん。一応神様。大人っぽいが、おっちょこちょい。