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第35話 取り戻した平穏

森を抜ける頃には、空は夕焼けに染まっていた。


「もう少しだ。」


ガルドが前を歩く。

俺とマロンはその後ろを並んで歩いていた。


「疲れたね〜。」


マロンは両手を頭の後ろで組みながら笑う。


「でも、勝ててよかった!」


「そうだね。」


「みんな安心してくれると思う。」


「うん!」


マロンは嬉しそうに頷いた。

しばらく歩くと、木々の向こうから見慣れた柵が見えてくる。


村だ。


その瞬間だった。


「あっ!」


見張りをしていた青年がこちらへ気付く。


「帰ってきたぞーー!!」


その声が村中へ響いた。

次々と家の扉が開く。


「本当だ!」


「ガルドさんだ!」


「マロンちゃんもいる!」


「ヴァルディも!」


気付けば村人たちが一斉に集まってきていた。


「無事だったか!」


「森の主はどうなった!?」


口々に声が飛ぶ。

ガルドは短く答えた。


「倒した。」


その一言だけだった。

しかし十分だった。


「おぉぉぉぉ!!」


村中が歓声に包まれる。


「本当に!?」


「森の主を!?」


「やったぞ!」


子どもたちは飛び跳ね、大人たちは顔を見合わせて笑う。


「あっ!」


一人のおばあさんが俺を見つけた。


「ヴァルディちゃんも無事だったんだねぇ。」


「これで村を荒らされることもないねぇ。」


頭を優しく撫でられる。


「わっ。」


少し照れくさい。


「本当に助かったよ。」


「ありがとう。」


次々と声を掛けられる。


「ヴァルディ!」


「よく頑張った!」


「今日はごちそうだぞ!」


以前なら少し離れたところから見ていた人たちも、今では普通に俺へ話しかけてくれる。

気付けば。

この村はもう、俺にとって帰る場所になっていた。


「フォッフォッフォ。」


聞き慣れた笑い声が聞こえる。

人混みをかき分け、村長がゆっくり歩いてきた。


「皆、少し落ち着くんじゃ。」


村人たちは道を開ける。

村長は俺たちの前まで来ると、ゆっくり頷いた。


「無事で何よりじゃ。」


「ヴァルディ。」


「ガルド。」


「マロン。」


「本当にありがとう。」


深く頭を下げる。


「ちょ、村長!」


マロンが慌てる。


「頭上げてよ!」


「フォッフォッフォ。」


「これは村長としてではない。」


「一人の老人として礼を言っとるんじゃ。」


ガルドは困ったように頭を掻いた。


「そんな柄じゃねぇよ。」


「照れるじゃろ?」


「照れねーよ!」


村長は笑う。

その様子に村人たちも笑い出した。

村には久しぶりに穏やかな空気が流れていた。

その夜。

広場では討伐祝いが開かれた。

焼いた肉の香りが漂い、子どもたちは走り回る。


「ヴァルディ!」


「こっちこっち!」


マロンが手を振る。


「これ美味しいよ!」


差し出された焼き肉を受け取り、一口かじる。


「……美味しい!」


「でしょ!」


マロンは満足そうに笑った。

ガルドは少し離れた場所で酒を飲んでいる。

珍しく表情が柔らかかった。

村人たちも次々と話しかけてくる。


「ヴァルディ!」


「今度また荷物運ぶの手伝ってくれ!」


「もちろん。」


「任せて。」


戦いなんて嘘だったような、穏やかな夜だった。

そんな時。


「ヴァルディさん。」


一人の青年が近付いてくる。


「村長がお呼びです。」


「今ですか?」


「はい。」


「家で待っておられます。」


「分かりました。」


俺は立ち上がる。


「マロン。」


「ちょっと村長のところへ行ってくるね。」


「うん!」


「いってらっしゃい!」


元気よく手を振るマロン。

俺は軽く笑って手を振り返した。

村長の家の前まで来る。


コンコン。


扉を叩く。


「フォッフォッフォ。」


「開いておる。」


ゆっくり扉を開ける。

村長は椅子へ座り、お茶を飲んでいた。


「よく来たの。」


「まぁ、座るんじゃ。」


俺は静かに腰を下ろす。

村長は湯飲みを机へ置く。

その表情は、昼間の穏やかな笑顔とは少し違っていた。


「ヴァルディ。」


「今日は礼を言いたかったのもある。」


「じゃが……。」


一呼吸置く。


「お前さんには、一つ話しておかねばならんことがある。」


部屋の空気が静かに張り詰めた。

俺は黙って村長を見つめる。

村長はゆっくりと目を閉じ、小さく息を吐く。


「……あの森の主のことじゃ。」


その言葉に、俺の表情も自然と引き締まった。

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