第29話 決戦開始
翌朝。
まだ日も昇りきらない時間。
村の門には、俺とガルド、そしてマロンの三人が集まっていた。
「忘れ物ない?」
マロンが心配そうに聞く。
「大丈夫。」
俺は腰に付けた小さな袋を軽く叩く。
回復薬。
干し肉。
必要最低限の荷物だけだ。
ガルドは相変わらず眠そうに欠伸をしている。
「行くぞ。」
その一言だけで歩き始めた。
俺たちも後を追う。
村を出ると、森の空気が一気に変わった。
静かだ。
鳥の鳴き声も少ない。
「……。」
俺は自然と周囲を警戒する。
ガルドが小さく頷いた。
「気付いたか。」
「はい。」
「昨日までとは違います。」
「森が静かすぎる。」
ガルドは前を向いたまま答える。
「森の主が近い。」
その言葉だけで十分だった。
俺は無意識に尻尾に手を伸ばす。
緊張してる。
心臓が少し速い。
「ヴァルディ。」
後ろからマロンが声を掛けてきた。
「大丈夫?」
「……正直。」
少し笑う。
「怖いね。」
マロンは一瞬驚き、それから優しく笑った。
「よかった。」
「え?」
「怖くないって言われた方が心配だったもん。」
「怖いから慎重になれる。」
「だから大丈夫。」
その言葉で少し肩の力が抜けた。
「ありがとう。マロン。」
三人はさらに森の奥へ進む。
折れた木。
砕けた岩。
巨大な爪痕。
以前見つけた痕跡より、さらに新しい。
「あいつだ。」
ガルドがしゃがみ込み、地面へ触れる。
「ついさっき通ってる。」
俺も足跡を見る。
大きい。
そして人型。
「追いますか?」
「あぁ。」
慎重に進む。
しばらく歩くと、見覚えのある場所へ着いた。
「ここ……。」
俺が初めてサブロークハントと戦った場所。
切り倒された木はそのまま。
俺の尻尾が切られた岩も残っている。
自然と拳へ力が入った。
「あの日の借り……返します。」
ガルドは何も言わない。
ただ俺の肩へ軽く手を置いた。
その時だった。
カラン。
どこかで金属が擦れる音。
俺たちは同時に振り向く。
誰もいない。
だが。
カラン。
カラン。
また音がする。
多分鎖の音だ。
「……。」
ガルドがゆっくり大剣を抜いた。
「来るぞ。」
その瞬間。
ゴォッ!!
黒い影が木の上から飛び降りる。
ドォン!!
地面が揺れ、砂煙が舞う。
煙が晴れる。
そこには、全身を黒い鎧で包んだサブロークハントが立っていた。
以前より傷は癒えている。
だが。
肩には俺が付けた傷跡。
鎧にはガルドの剣の跡。
確かに残っていた。
「……。」
サブロークハントは静かに俺を見る。
そして。
ガルドを見る。
最後にマロンへ視線を向ける。
ギリッ……
大剣を握り直した。
俺も《刃尾》を構える。
ガルドは低く呟く。
「覚えてやがる。」
俺も頷いた。
「あいつも。」
「決着をつける気ですね。」
サブロークハントはゆっくり腰へ手を伸ばす。
一本の大剣を抜く。
ギィィ……
重たい金属音が森へ響く。
空気が張り詰める。
風が止まった。
鳥も鳴かない。
俺はゆっくり息を吸う。
「行きますか。」
ガルドが口元だけ笑う。
「あぁ。」
「今度こそ終わらせるぞ。」
次の瞬間。
俺達とサブロークハントは、同時に地面を蹴った。
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