第28話 最終決断
朝。
森には冷たい風が吹いていた。
俺とガルドは、いつもの修行場で向かい合う。
マロンは少し離れた岩の上に座り、不安そうにこちらを見ていた。
「今日で終わりだ。」
ガルドが静かに言う。
「終わり……ですか?」
「あぁ。」
「今まで教えたもんを全部見せろ。」
「手加減はしねぇ。」
俺はゆっくり息を吸った。
「……はい!」
次の瞬間、地面を蹴る。
《壁走り》。
木を駆け上がり、一気に頭上へ。
だが、そのまま飛び込まない。
枝を蹴って軌道を変える。
さらに別の木へ。
右。
左。
上。
森の中を縦横無尽に駆け回る。
「……。」
ガルドは動かない。
俺の動きを見ている。
(まだだ。)
背後を取る。
いや。
それも読まれている。
俺は途中で向きを変え、そのまま岩へ飛び移る。
「ほぅ。」
初めてガルドが声を漏らした。
岩を蹴る。
木を蹴る。
壁走りを繋ぎ、何度も死角を作る。
以前の俺なら、一撃外した時点で終わっていた。
でも今は違う。
外したなら。
次。
その次。
攻撃は止めない。
「《刃尾》!」
黒い刃が横薙ぎに走る。
ガキィン!!
受け止められる。
その瞬間。
俺は尻尾を引かない。
そのまま体を回転させる。
「っ!」
ガルドの剣を滑らせ、その勢いで懐へ潜り込む。
「もう一発!」
前足の爪を振るう。
ガルドは半歩下がる。
空振り。
だが、それも想定内。
「《壁走り》!」
背後の木へ飛び移り、その反動で再び突っ込む。
連続攻撃。
ガルドの目が少しだけ細くなる。
「悪くねぇ!。」
その瞬間だった。
ドンッ!!
グレートソードが振り抜かれる。
風圧だけで木の葉が舞い上がる。
「くっ!」
俺は地面を転がって避ける。
立ち上がる暇もなく、二撃目。
三撃目。
重い。
速い。
それでも。
以前ほど恐くはない。
全部を見る。
全部避ける。
全部考える。
「……。」
ガルドの剣筋が、一瞬だけ鈍る。
(今だ!)
《壁走り》で真横の岩を駆け上がり、そのまま一直線に飛び込む。
「《刃尾》!!」
ガキィィン!!
火花が散る。
俺の刃は、グレートソードを弾き上げた。
そのままガルドの首元で止まる。
静寂。
森から鳥の鳴き声だけが聞こえる。
マロンは目を丸くしていた。
「え……。」
ガルドはゆっくり俺を見る。
そして。
「そこまでだ。」
剣を下ろした。
俺も《刃尾》を解く。
「……ありがとうございました。」
深く頭を下げる。
ガルドは少しだけ笑った。
「十分だ。」
「最初は一発も当てられなかった。」
「今じゃ俺の剣を弾く。」
「これ以上は俺も教えることはねぇ。」
その言葉に、胸が熱くなる。
「……でも。」
「まだサブロークハントには勝てませんよね。」
ガルドは即答した。
「あぁ。」
「今のお前一人じゃ勝てねぇ。」
やっぱりか。
そう思った、その時。
「だが。」
ガルドは大剣を肩へ担ぐ。
「一人じゃねぇ。」
「俺がいる。」
少し間を置き、
「それに。」
後ろを見た。
マロンが胸を張る。
「私もいるよ!」
思わず笑ってしまう。
「そうですね。」
「三人です。」
ガルドは鼻で笑う。
「強いやつは、一人で戦わねぇ。」
その一言が胸に残った。
夕日が森を赤く染める。
修行場を後にしようとした時、ガルドが立ち止まる。
「明日。」
短く言った。
「森の主を狩る。」
その言葉に、俺は力強く頷いた。
「はい。」
もう迷いはない
俺たちは、この森の脅威に終止符を打つため――
最後の戦いへ向かう。
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