第27話 鬼の猛特訓
「ここだ。」
ガルドが立ち止まる。俺たちは村から少し離れた森の奥まで来ていた。
周囲には大木が何本も立ち並び、ところどころに大岩や崖がある。
修行にはちょうど良さそうだ。
「今日はここでやる。」
ガルドは肩に担いでいたボロボロのグレートソードをゆっくりと地面へ突き立てた。
その一瞬だけで空気が変わる。
やっぱりこの人……強い。
「じゃあ、よろしくお願いします!」
俺は頭を下げる。
ガルドは面倒そうに頭をかきながら酒瓶を取り出した。
「あ。」
やっぱり飲むんだ。
そう思ったが、ガルドは酒瓶を眺めるだけ眺めると、そのまま近くの岩へ置いた。
「今日は飲まないんですか?」
「修行中だ。」
「酒飲んで戦うほど落ちぶれちゃいねぇ。」
少しだけ見直した。
「……何だその目。」
「い、いや。」
「ちゃんとしてるんだなって。」
「殴るぞ。」
「すみません。」
後ろでマロンが吹き出した。
「ふふっ。」
「二人ともやっぱり面白いね。」
ガルドは大剣を肩へ担ぐ。
「笑ってる暇があったら始めるぞ。」
「まず一発。」
「俺に当てろ。」
「……はい?」
「当てれば今日は終わりだ。」
「それだけ。」
簡単そうに聞こえる。だけど相手はガルドだ。
今まで何度挑んでも、一度もまともに当てられていない。
俺は深呼吸をした。
「行きます!」
《壁走り》
木を蹴る。
そのまま真横へ走り、一気に頭上を取る。
「《刃尾》!」
黒い刃がガルドへ振り下ろされる。
ガキィン!!
止められた。
しかも片手。
「軽い。」
次の瞬間。
ドンッ!!
剣の腹で軽く弾かれただけで、俺の体は何メートルも吹き飛ぶ。
「ぐっ!」
地面を転がり、何とか受け身を取る。
「もう一回。」
「はい!」
今度は真正面。フェイントを入れる。
右へ踏み込む。
すぐ左へ切り返す。
さらに壁を蹴る。
三方向から連続攻撃。
ガキン!
ガキン!
ガキィン!
全部止められた。
「遅い。」
「ぐっ……!」
「次。」
「はい!」
何度も挑む。何度も弾かれる。
木を使い。岩を使い。壁走りで死角へ入り込む。
それでも当たらない。一時間ほど経った頃。
「はぁ…はぁ…」
俺は肩で息をしていた。全身汗だく。
腕も足も重い。対するガルドは。
息一つ乱れていない。
「壁走り。」
「便利なスキルだ。」
「だが。」
ガルドが俺を見る。
「頼りすぎだ。」
「え?」
「壁を走る。そのあとは?」
答えられない。
「避けられたら?」
「考えてねぇ。」
その通りだった。
壁走りを覚えてから。
外した後なんて考えたこともない。
「強いやつほど。」
「一発じゃ終わらねぇ。」
「外した後。」
「そこからが勝負だ。」
その言葉が俺の胸に刺さった。
「もう一回。」
「はい!」
俺はもう一度走り出した。
夕方になるまで。
何十回。
何百回。
挑み続ける。
一歩。
また一歩。
少しずつ。
ほんの少しずつ。
ガルドの剣へ対応できるようになっていった。
そして日が沈み始めた頃。
「《刃尾》!」
今までとは逆方向へ跳ぶ。
ガルドが受ける。
そう思わせて。
空中で尻尾をひねる。
刃の軌道が変わる。
「……。」
スッ。
ガルドが半歩だけ避ける。
その瞬間。
布が一枚。
ひらりと宙を舞った。
俺は息を呑む。
「……当たった。」
正確には服をかすめただけ。それでも。
初めて届いた。ガルドは自分の服を見下ろし、小さく鼻を鳴らした。
「一発。」
「約束だ。」
大剣を肩へ担ぎ直す。
「今日は終わり。」
「やったー!」
マロンが嬉しそうに駆け寄ってきた。
「すごいよヴァルディ!」
「ガルドさんに当てた!」
「かすっただけだけどね。」
思わず笑う。でも。
嬉しかった。
ガルドが背中を向けたまま歩き出す。
「喜ぶのはまだ早ぇ。」
「え?」
「サブロークハントは。」
「俺より速い。」
その一言で。
さっきまで浮かれていた気持ちは、一気に引き締まった。
森の主との決戦まで。
残された時間は、もう多くなかった。
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