番外編 マロンの日常②
「ずっと『トカゲさん』って呼んでるけど……。」
「名前、ないよね。」
「……あ。」
トカゲさんは呆然としていた。
「そういえば。」
「別に困ってないけど。」
「私は困る!」
マロンはぴしっと俺を指差した。
「この村のみんなが家族みたいになってるのに!」
「いつまでも『トカゲさん』じゃ変だもん!」
「そうかな?」
「そうだよ!」
すると近くにいたおばちゃんが話に入ってきた。
「確かにねぇ。」
「名前くらい付けてあげなきゃ。」
「そうそう!」
「あの子、もう村の子みたいなもんだし。」
「決まり!」
マロンが手を叩く。
「名前会議を開きます!」
「おー!」
村人たちが次々と集まってきた。
「何だ?」
「またマロンが何か始めたぞ。」
「今日は何だ?」
「今日は!」
マロンは胸を張る。
「トカゲさんの名前を決めます!」
「なるほど!」
「確かに必要だ!」
「じゃあ俺から!」
大工のおじさんが真っ先に手を挙げた。
「ガブ!」
「理由は?」
「噛みつきそうな見た目じゃねえか!」
「それだけですか!」
笑いが起こる。
「じゃあ俺はクロ!」
「トカゲ、体黒いじゃねえか!」
「安直だねぇ。」
広場は大笑いだった。
「ガルド!あんたも何かだしな!」
おばちゃんが聞いた。
木陰で酒を飲んでいたガルドが顔だけ上げる。
「興味ねぇ。」
「一個くらい考えな!」
「……。」
少しだけ考える。
「トカ…」
言わないと思っていたので皆一瞬呆然となった。
「あんた可愛いとこもあるんだねえ!」
「て、てめえ!人様が…」
また笑いが起こる。
そんな中、マロンだけは腕を組んで考え込んでいた。
魔物なのに優しくて。
誰よりも真っ直ぐで。
困っている人を放っておけない。
そんな名前。
ふと、一つの名前が頭に浮かんだ。
「……あ。」
「思いついた。」
広場が静かになる。
マロンは少し照れながら俺を見た。
「ヴァルディ。」
「どうかな?」
俺はその名前を口の中で転がす。
「ヴァルディ……。」
もう一度。
「ヴァルディ。」
不思議としっくりきた。
「いい名前だな」
「俺、気に入った」
マロンの表情がぱっと明るくなる。
「ほんと!?」
「うん」
「みんな!今日から、その名前でよろしく!」
一瞬の静寂。
次の瞬間だった。
「決まりだー!」
「よろしくな、ヴァルディ!」
「おーい、ヴァルディ!」
「荷物運ぶの頼むぞー!」
「ヴァルディお兄ちゃん!」
あちこちから新しい名前で呼ばれる。
「はいはい!」
思わず笑いながら返事をすると、村人たちも笑い出した。
「もう慣れてるじゃない!」
「呼びやすい名前でよかったねぇ。」
その様子を見ていたガルドは、小さく鼻で笑う。
「……悪くねぇ。」
その一言だけだった。
でも、それで十分だった。
「ヴァルディ!」
また誰かが呼ぶ。
「今行きます!」
俺は笑って駆け出した。
その日から村のみんなは、「トカゲさん」ではなく――
ヴァルディと呼ぶようになった。
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