第25話 地獄の始まり
翌朝。
まだ空が薄暗い。
太陽は山の向こうから顔を出していない。
「ふぁ……眠い。」
昨日は興奮してなかなか寝られなかった。
それでも約束は約束だ。
俺は約束の時間の少し前に村の門へ向かう。
すると…
「遅い。」
ガルドはすでに腕を組んで立っていた。
どれだけ前からいたんだろうか。
「いつからいたんですか…」
俺が目をこすりながらそういうと
予想外の回答が返ってきた。
「俺は一時間前からいる。」
「なんかすいません…」
この人は絶対怒っている。
どうしたものか。
「まずまずな。お前が自分から言ったんだから
少し前からいることぐらい…」
「すいません…」
そして俺が怒られているのが面白かったのか
マロンが後ろでクスクス笑っていた。
「じゃあ始めるぞ。」
ガルドは近くにあった大きな酒樽を軽々担いで
俺の近くにおいた。
「まずはこれを持て。」
「は。」
「持てるわけないですよ!」
無理だ酒も入っている自分の2倍ぐらいの大きさの樽を
持てだなんて無茶すぎる。
「持て。」
「無茶言わないでくださいよ…」
だが仕方なく柄を握る。
「ふんっ……!」
ビクッ。
浮いた4cmだけ。
「重っ!!」
「その程度か。」
ガルドは片手で軽々と持ち上げた。
「何なんですかその筋肉…」
「毎日振ればこうなる。」
マロンは笑いを堪えている。
そんなに面白いか?
「もう一回持ち上げてみろ」
「無理ですよ…」
「もう一回。」
「……。」
絶対に折れないな、この人。
俺は深呼吸する。
「ふん!」
全身に力を込める。
今度は12cmぐらい浮いた。
「そのまま。」
「グゥ」
その瞬間。
ドスン!!
落ちた。
「はぁ……はぁ……。」
腕が震える。
「終わりか?」
「終わりません…」
悔しくてもう一度握る。
何度も。
何度も。
何度も。
気付けば日が昇っていた。
汗で鱗がびっしょりになる。
腕も足もガクガクだった。
「……今日はここまでだ。」
「ありがとうございました……」
簡単なことだがものすごくきつかった。
「これじゃサブロークハント以前の問題だぞ」
確かにその通りだった。
悔しい。が、反論できない。
ガルドは村の外へ歩き出した。
「休憩は十分。」
「次だ。」
「へ!?」
「当たり前だ。」
「午前中は準備運動だ。」
「今のがですか!?」
俺は思わず叫ぶ。
ガルドはニヤリと笑った。
「本番はここからだ。」
村の外へ出ると、小高い崖が見えてきた。
高さは三十メートルほど。
「まさか……。」
嫌な予感しかしない。
ガルドは崖を指差した。
「登れ。」
「《壁走り》を使って。」
「落ちたら?」
「もう一回。」
「何回落ちても?」
「登れるまでだ。」
俺は空を見上げた。
「これ本当に修行ですか…」
ガルドは即答する。
「違う。」
「地獄だ。」
マロンは少し引きつった笑顔で俺を見送った。
「が、頑張ってね……。」
その後
俺の叫びが、朝の森へ響き渡った。
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