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第23話 父親という物

「……レオン。」


ガルドの震えた声が、静かなダンジョンへ響いた。

小さな人影は返事をしない。

ただ、ゆっくりと剣を握り直した。

その瞳に、昔の面影はなかった。


「……。」


ガルドは一歩踏み出す。


「帰ろう。」


返事はない。


「もう帰ろう……。」


ガルドが泣きながら言う。

その時残酷なことにも剣が振り下ろされた。


ガキィン!!


俺はとっさに《刃尾》で受け止める。


「ガルド!」


返事はない。

ガルドは立ち尽くしたままだ。

その隙を狙い、周囲の死霊兵たちが一斉に襲いかかる。


「チッ!」


俺は壁を蹴った。

《壁走り》。

天井近くまで駆け上がり、そのまま急降下。


「《刃尾》!」


黒い刃が死霊兵を薙ぎ払う。

しかし数が多い。

一体倒しても、また一体。

終わりが見えない。

その時。

ガルドがゆっくりとグレートソードを握った。


「……すまん。」


その一言だけだった。

次の瞬間。

ズドンッ!!

巨大な剣が地面を砕く。

衝撃だけで数体の死霊兵が吹き飛んだ。

それでもガルドの表情は苦しそうだった。

剣を振るたびに、昔の仲間を傷つけている。

そんな顔だった。

俺も横へ並ぶ。


「ガルド。」


「……。」


「終わらせよう。」


ガルドは静かに頷いた。

残っていた死霊兵を倒し終える頃には、二人とも肩で息をしていた。

静まり返った広間。

そこに残っているのは、小さな人影だけ。

剣を握ったまま、ゆっくりこちらを見る。

ガルドは武器を下ろした。


「レオン。」


一歩。

また一歩。

ゆっくり近付く。

レオンは剣を振り上げた。

ガルドは避けない。


ブシュッ


ガルドの方に鉄の剣が突き刺さり、

小さな体がまた切ろうとした時。

ガルドは構わずその体を抱きしめた。


「ごめんな……。」


震える声だった。


「クソみたいな……父ちゃんで、ごめんな……。」


「あの時怖くて…死んでいくお前をただ見ていることしかできなかった。」


「本当に本当に…ごめんなぁ」


ガルドの顔はぐちゃぐちゃになっていた。

大粒の涙が止まらない。

十年間。

一度も流せなかった涙だった。

俺は何も言えなかった。

マロンも静かに目を伏せていた。

しばらくの沈黙。

その時だった。

抱きしめられていたレオンの指が、ほんの少しだけ動き

一瞬レオンの目に光が灯る。

そして一滴の涙を流しながらガルドの服を、弱く握る。

そして、小さく口がほろほろと動いた。


「……ううん。」


ガルドの呼吸が止まる。


「……だいすき。」


そして俺は自分でも残酷だと思うことをガルドに言った。


「もう…終わらせてやれ。」


ガルドは何も言わず頷いた。

泣きながら。

笑いながら。


「レオン……!」


「こんなことしかできなくて…」


レオンの体に優しく武器が通る。

その瞬間レオンの体は少しずつチリになっていく。

それと同時に目の前に光がもう一つ現れた。

一人の女性だった。

穏やかな笑顔。

チリになっていくレオンを優しく抱き上げる。

ガルドは息を呑んだ。

女性は何も言わない。

ただ、ガルドの前まで歩いてくる。

そして、涙を流しながら微笑んだ。

ガルドも涙でぐしゃぐしゃになった顔のまま、微笑み返す。

女性はそっとガルドの頬へ口づけを落とした。

そして言った。


「あまり自分を責めないで。」


それだけを言い残すと、

ただ、最後にあの頃と変わらない笑顔を残していた。

レオンは母親の腕の中で安心したように目を閉じる。

二人の姿は淡い光となり、ゆっくりと天へ昇っていった。

やがて光は見えなくなる。


「うわああぁぁぁぁぁ!!」


レオンはそれからひたすら泣いた。

静かなダンジョンに残ったのは、俺たち三人だけだった。

ガルドはその場に膝をつき、長い間動かなかった。

俺は何も言わず、その隣に立つ。

マロンも静かに頭を下げる。

しばらくして、ガルドがゆっくり立ち上がった。


「……帰るか。」


その声はまだ震えていた。

俺たちは仲間たちが眠っていた場所に小さな墓を作った。

折れた剣を墓標に立て、花を供える。

ガルドは最後に深く頭を下げた。

洞窟を出る頃には、雨は止んでいた。

雲の切れ間から差し込んだ光が、森を静かに照らしていた。

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