解毒薬と薬師堂と百薬の長と
ちょっと期待していいかもしれん。紳士諸君は特に。
「息ッ、出来な」
呼吸困難で目が覚めた。
息ができない。
震える手で用意していた解毒ポーションを取り、呷る。
一気に楽になる呼吸。
肺に空気を取り込み、吐き出す。
………………そうだ、リリアナは、あいつは生きているのか?
「ヒューーッ、ヒュー―ッ」
隣から聞こえてくる笛の音のような異音。
目をやれば、さっきまでの俺と同じように呼吸困難に陥るリリアナの姿。
心なしかヤバい感じに痙攣して………って見てる場合じゃ無さそうだな。
「オイ大丈夫か!しっかりしろ!!」
青紫色に鬱血しだしたリリアナに、解毒ポーションを振りかける。
息を吹き返すリリアナ。
危うく死なせるところだった。
「ハァ………ハァ…………お母さんが、手を振って、まだこっちに来ないで、って………」
青褪めた顔で語るリリアナ。
どうやら臨死的な体験をしてきたらしい。
「二人とも起きた~?急に倒れるからびっくりしちゃったよ」
何食わぬ顔で話しかけてくるアヤメ。
殺人未遂やらかしてそのセリフかよ。
イラついたので全力のデコピンをお見舞いする。
「アグッ!?」
「人殺しかけて、それだけで済んだんだ。ありがたいと思え」
「ちょっと痛いんだけど!?」
「すいませんアヤメさん、少し、黙っててください。殺意が止まらないので」
「ヒイッ」
背後に般若の幻影を発生させて、落ち着いた、しかしながら確かな憤怒を感じさせる声音で告げるリリアナ。
脳味噌が警鐘を鳴らす。
「そうだレンさん。今から市場に行きませんか?食材の在庫がそろそろ切れそうなので」
「あっはい」
圧が消えた。
般若とのギャップに気圧される俺。
ガクブルガクブルするアヤメ。
「アンナさんにもお礼を言わないとですね」
実にほんわかとした顔で外に出るリリアナの後を追って………今なんて?
「…………そういう訳で本当に有難うございました。お陰で一命を取り留めました」
「あらあら気にしなくてもいいのにぃ~。でもうれしいわぁん。ありがと、リリアナちゃん」
やってまいりました薬師堂。
アビスウォーカーと直接対談を試みる、うちの奴隷が勇敢すぎた。
「ほらほらお兄さんも、こっちに来て一緒にお話ししましょうよぉ」
這いよる混沌。
ただし銀髪でも美少女でもない。
見るな喋るなこっちに近づくな。
全身の筋肉をビクンビクンと脈動させ、くねくねしながら近づいてくる神話生物から距離を取る。
「酷いわねぇ~。そんなんじゃ女の子に嫌われるわよ?」
「ポーションはこれとこれ。あと解毒ポーションをあるだけください」
「そんなに使わないと思うけど?それにあまり毒系の攻撃はもらわない方がいいわよ。解毒しきれないことがあるから」
サラッと大人買いするリリアナと、サラッと恐ろしいことを言うアビスウォーカー。
「また妹さんもつれてきてねぇ~?」
謎のポージングをとるアビスウォーカーのいる危険地帯から急ぎ撤退し、市場に向かった。
「いつもありがとうねぇ。また来ておくれよ」
「こちらこそ、いつもありがとうございます。また来きますね」
顔なじみの八百屋のおばちゃんにお礼を言って家に帰る。
買ったのはピクルスやカボチャ(モドキ)といった日持ちのするものばかり。
………………いい加減、料理のレパートリーが尽きそうだ。
早急に何とかしなければ。
ドアを開けて、家の中に滑り込み。
「お帰り~お兄ちゃん、リリアナちゃん」
小脇に何かを抱えて、とたたたっと走ってくるアヤメ。
そっぽを向くリリアナ。
「ゴメン!リリアナちゃん。これお詫びだから、よかったら飲んで!」
そういってアヤメが差し出したのは…………………一本の赤茶けた酒瓶。
中に凸凹の茶色い木の実が付け込まれているが一体…………?
「木天蓼酒、市場で探してきたんだ。リリアナちゃんが飲むかと思って」
…………マタタビ?YES木天蓼。
………馬鹿なのかコイツ。
そんなものを差し出しても余計に怒らせるだ。
「ありがとうございます!大事に飲みますね!!」
コイツはヒデェや。
軽やかにスキップを踏みながら奥に行くリリアナ。
獅子族とはいえやはり猫科、マタタビはうれしいんだろうな。
「あとお兄ちゃん、これ」
ちょいちょいと服の袖を引っ張られる。
見ればワイン瓶を掲げるアヤメの姿。
ワイン瓶!?
「ついでに買って来たんだ。よかったら一緒に飲む?」
「お酒は二十歳になってからだろ」
「残念!こっちだと15歳から飲めるらしいよ」
ドヤ顔で告げるアヤメ。
流石異世界というか、そこら辺は緩いんだな。
溜息を吐きテーブルにコップを3つのせる。
それぞれがコップに酒を注ぎ──────────
「あはははははは!お酒美味しーーーーーーーー!!」
「にゃははははははははは!!」
「お前らもっと静かに飲め」
「ねえお兄ちゃん飲んでる!?私はっ、飲んでるぞーーーーーーー!!」
ドッタンバッタン暴れ回るアヤメと、グルングルン回るリリアナ。
何でこうなったかわからないが、取り敢えず。
「お前は飲み過ぎだ」
「うにゅうぅぅ……………ありがたいありがたい」
「ああもうホントに可愛いなぁ、リリアナちゃんは……食べちゃおっか?」
「カニバリズムはやめてくれ。精神的にきつい」
「違う、そっちじゃないから。別の意味だから」
「そうか、なら問題ないな。……………ん?」
今なにか、聞いてはいけないものを聞いたような……………別にいいか。
「にゃあぁぁ………?」
「私、リリアナちゃん寝かせてくるね」
「しょんにゃぁ……別にいいれすよぉ…‥ひっく……‥もうしわけらいれすし……」
「お前ら仲いいよな」
2階にリリアナをドナドナしていくアヤメ。
一人酒を飲む俺。
カオスの中、夜は明けていく。
「嗚呼ッ、頭痛ええぇッッ」
二日酔いの頭痛という名の天罰に悶える俺。
脳味噌が掻き混ぜられるように痛む。
「フフッ、昨日は楽しかったな」
妙に艶々というか、テカテカとした顔のアヤメ。
「何故でしょう、朝起きたらアヤメさんと同衾していたのですが………」
少しやつれたようにも見えるリリアナ。
…………うん、昨日何があったかは知らない方がいいな。
俺の心の健康のために。
諦めと疼痛を溜息とともに吐き、台所に向かった。
頓珍〇の宴聴きながら書いた。




