猫じゃらしと二つ名と事故と
もうすぐ書き溜めが書き終わる。
あれから1週間がたった。
色々あった。
本当に。
酒は封印した。
アヤメが泣き喚いた。
穴埋めでコタツを買わされた。
魔術式だった。
たまに妙なところが発達しているこの世界。
リリアナが木天蓼を買ってきた。
アヤメがリリアナにセクハラを敢行して、普通に蹴り飛ばされていた。
猫じゃらしを買ってきて、許されていた。
朝飯を作り、皆で食べて、暇をつぶして、昼飯を作り、暇をつぶして、晩飯を食べて寝る。
どこまでも怠惰に、ゆっくりと時間が過ぎて。
「久しぶりだな、ボウズども」
久しぶりの探索者ギルド。
久しぶりに会うオッサン。
なんだか少し新鮮だな。
「お久しぶりです。〔斬り裂き〕さんに〔炎姫〕さん」
俺達の方を見て誰かを呼ぶヒョロメガネの職員さん。
後ろを見てみるが特段誰もいない。
呼ばれてますよ、〔斬り裂き〕さん?
「わざとらしく恍けるな、お前のことだボウズ」
分かっていたけど、分かっていたけども。
突きつけられるとかなりキツイ事実。
何もそんな、厨二病みたいな渾名を付けなくても。
「バジリスクに冠オーガにヒュドラにサンドワーム、短期間でこれだけ連戦したんだ。二つ名ぐらいつくさ」
「〔斬り裂き〕だってさ。お、に、い、ちゃ、ん!」
「お前もだ〔炎姫〕」
「ファッ!?」
驚くアヤメ。
まだ気づいていなかったのか。
「なぁお前、何の魔法を主に使っていた?」
「それは、火魔法、だけ、ど…………」
「急に現れた実力のある魔法使い、それも、見た目だけなら麗しい乙女。噂になって名前が付くには十分だ」
「ぅうぅぅ…………」
真っ赤になって俯くアヤメ。
珍しいものを見た気がする。
「取り敢えずお前らは軽めの依頼からこなせ。復帰初日なんだからな」
溜息を吐くオッサン。
渡された依頼書は…………コカトリス?
「Cランクモンスター、コカトリス。その肉は食材として高く売れる。石化ブレスには気を付けるように」
迷宮への移動中にそれは起きた。
ズドン、と下からの突き上げるような衝撃。
地震に似た、しかしそれとは明らかに違う振動。
断続的に襲ってくる揺れ。
「こ、ここここここ怖くなんか、なななないんだからねッ!!」
あからさまにビビるアヤメ。
ぜひとも揶揄いたいところではあるが俺も余裕がない。
ひときわ大きな衝撃の後、迷宮直上の地面が大きく隆起し、そして……………………派手に吹っ飛んだ。
分厚い岩盤が、撥ねられたように吹っ飛ぶ。
思わず呆気にとられる俺たち。
しかもその中に…………………………
「ねぇお兄ちゃん、アレって標的だよね?」
「だな」
無数の瓦礫に交じって、華麗にジタバタと宙を舞う、体高6メートルはある巨鳥。
本来飛べないはずのそれが空にあった。
圧倒的ニワトリムーブ。
コイツが件のコカトリスなのだろう。
しかしCランクモンスターにそこまでの力があるとは思えな………………………
モグリ。
そんな擬音が聞こえてきそうな勢いで、突如出現した顎に食われるコカトリス。
「喰われたな」
「喰われたね」
シンクロする俺たち。
ポキポキといい音を立てて咀嚼する顎。
真っ暗く開いた大穴から這い出てきたのは………
「なに、これ」
「……………流石にデカすぎるだろ」
黒曜の如く鈍く煌めく鱗。
岩盤のような甲殻。
鋭い大刃のような棘の並ぶ背中。
厳つい顔から生えた杭のような大角。
小山のような胴体と、そこから生えた3対の剛脚。
鈍く光る鉱石の塊のような巨爪。
─────────────地龍の迷宮。
ふと脳裏に浮かんだ、そんな言葉。
「もしかしなくても 地龍?」
肯定の様に咆哮が轟いた。
若干生臭いな。
服の袖を引っ張られる感触。
見れば涙目のアヤメ。
何故だ。
「にっ逃げるよお兄ちゃん!逃げよ!逃げたい!!」
アヤメ、頼むから落ち着いてくれ。
振り回された髪が目に刺さって地味に痛いんだ。
それに………
「いや、お前は後退して最大火力頼む」
「お兄ちゃん!鑑定!早く使えってば!!」
アヤメにせかされて鑑定を使う、が………
「…………硬すぎるだろコイツ」
地龍 LV157
体力:S 魔力:E
攻撃力:F 防御力:S
魔法防御力:S 魔法攻撃力:F
速度:E
技能 龍鱗 土系統無効
雷系統半減 超装甲:LV6
再生:LV3
説明………地を司る龍種の幼体。龍鱗による装甲と、持ち前の巨体による耐久力を以て、あらゆる障害を突破する。危険度AAAランク。
…………うし、まだ勝てるな。
「アヤメ、準備頼む」
「ねぇ、馬鹿なの?死ぬの?死ぬ気なの?死ねよ」
「おい」
「まじめに考えて15分ぐらいかかるけど?龍鱗を突破して致命傷を与えれる気もしないしやっぱりここは逃げた方が」
「お世話になった人を見捨てて、か?」
「うぐっ」
一番の問題はそこ。
町にはまだリリアナもいるし、宿屋のおばちゃんに中央のおっさんも居る。
八百屋のおばちゃんに薬師堂のアビスウォーカー………は、殺しても生き返るだろうからいいとして。
見捨てて逃げるのか?
それに…………………
「魔法に耐性を持つのは鱗、つまり俺が鱗を剥いで削ってお前が撃ち込んで完全勝利。な、簡単だろ?」
「ああもうわかったよ!やるよ!やればいいんでしょ!!」
「頼んだ!!」
走り去るアヤメに背を向けて俺は─────町に突き進む地龍の前に立ちふさがった。
事故は起きるさ。




