獣国と郷里と墓と
幾重にも轍の刻まれた街道を行く。
青く晴れ渡った空を、穏やかに流れていく白雲。
弧を描いて飛ぶ鳥の群れ。遥か遠く、地平線の辺りに垣間見える緑色の絨毯。
恐らくは稲田。
何処か郷愁を感じさせる光景が広がる中、地図を広げる。
今現在歩いている道の先にある街。
そこで竜車に乗って目的地を目指すのだが……………………………………
「あの、レンさん。地図のこの場所って磔ヶ丘ですよね?」
「そうなのか?」
リリアナが指し示した箇所を見る。
確かにそう書かれていた。
やたら物騒な地名だな。
「この丘がどうかしたのか?」
「いえ………………ただ、少し寄らせて貰いたいな、と」
おずおずと尋ねるリリアナ。
任務の途中という事を考えれば無理なのだろうが………………
「問題無い、か?」
「レン、断ったら殺す」
「空気読んでよね、お兄ちゃん」
チビッ子二人から同時に脅された。
元から断るつもりも無かったが、今更それを言っても藪蛇で終わりそうだ。
やたら重い背中の荷物を背負い直し、歩を進めた。
飄々と吹く風が、辺り一面に咲き乱れる白薊を揺らしていた。
所々、浮島のように顔を見せる廃墟。
斑に生えた雑草が、崩壊してからの年月を物語っている。
足元でパキリと音がした。
土に埋もれた誰かのしゃれこうべ。
人の気配が消えてから久しいことは、間違いないだろう。
「リリアナ、ここが………………」
「はい。私の故郷、です」
俯いたままのリリアナ。
陰に隠れた表情は、哀寂か、郷愁か。
漂う妙な沈黙。
かける言葉も見つからず、かと言って何もしないわけにもいかず、喉の奥から声を出そうとして。
「リリアナちゃん!!」
「ふぇあぁ?!」
俺の真横を通り過ぎた焦げ茶色の影が、リリアナを押し倒した。
と思ったらアヤメだった。
普通に目で追えなかった。
じゃなくて。
「おいアヤメ。何やって」
「ねぇリリアナちゃん!抱き締めていい?いいよね!!」
「ちょ、あの、アヤメさヒャウン?!やっ、そんな、手つき、イヤらし、んあぁっ?!」
黙って後ろを向いて、耳を塞ぐ。
心なしか艶を帯びた声なんか聞こえない。
何故か若干嬉しそうなリリアナの嬌声なんざ聞こえない。
僅かに顔を赤らめるギンカなんて見えない。
さっきまでのソレとは明らかに別の種類の沈黙が場に漂う中、時が過ぎた。
気まずい。
非常に気まずい。
「なんで助けてくれなかった」と問い詰める視線が痛い。
恐る恐るリリアナの方を見る。
「フシャ―!」という猫丸出しの威嚇。
弁明はきっと逆効果だろう。
「アヤメちゃん?流石にアレはやり過ぎだと思うよ?」
「だって抱き締めたかったんだもん」
「だもん、じゃねぇよ」
……………まぁ、良くも悪くもアヤメがうやむやにしてくれて助けられたことは認めるが。
アヤメを見る。
不思議そうな顔で見つめ返してくるアヤメ。
…………まさかコイツに限って、狙ってやるなんてことは無いだろう。
ないよな?
「……………レンさん、少し手伝って貰えますか?」
リリアナが話しかけてきた。
頬が若干赤く染まって見えるが気のせいだろう。
その手に握られた支給品の折り畳みスコップ。
「墓掘りか」
「そう………ですね。私一人の手に負えないので」
「わかった」
リリアナに指示された場所に穴を掘り始める。
崖のようになった高台の上、一際大きな瓦礫の傍に空いた大穴。
その中に骨を埋めていく。
見つかった限りの骨片を納め、土を被せて瓦礫を突き刺す。
かなり雑だが、野晒しよりかはマシだと思いたい。
「……………レンさん。私は、この崖から投げ落とされたんですよ」
こちらを振り向いて、泣き出しそうな顔で言うリリアナ。
「そうか」
「…………可笑しい、ですよね。『獅子は仔を千尋の崖に叩き落とす』とは聞きますけど、本当に落されるとは思っていなかったので……………ムクロお爺ちゃんが留守だったから、防衛も出来なくて。『生きて』って、泣きながら私を落としたお母さんが喰い千切られて、それで!!」
「わかった、もういい」
ぽろぽろと大粒の涙を零すリリアナの肩を軽く叩く。
こんな時に気の利いたセリフの一つ二つでも言えればいいのだが、俺には無理だ。
だからこそ…………………
「気が済んだら呼んでくれ。暫く待つから」
それだけ言って、場を後にした。
廃墟をひたすらぶらぶらする。
何もないが、あの場所にいるよりマシだろう。
軍服の裾を引っ張られる感触。
「レン、あれは少し雑過ぎた。男なら気の利いた慰めぐらいしろ」
「お前にしたみたいに首を絞めれば良かったのか?」
「…………………アレはまだ赦していないから。………………ねぇ、お金は持ってきた?」
唐突な質問。
腑に落ちないし理由も分からないが。
「ある程度はな。獣国でしか買えないモノも多いだろうし……………」
「………前に、全員にご飯を奢るよう、約束したよね?」
「……………君のような勘のいいガキは嫌いだよ」
「うるさい。出来るだけ高い飯を奢らせてやる」
「やめてくれ」
財布の中身が空になる。
割と笑えない会話を交わしつつ、アヤメと合流した。
向こうの方で手を振るオネットさん。
赤く腫れた目元を拭い、駆け寄ってくるリリアナ。
どうやら気が済んだらしい。
重い荷物を背負い、歩き出した。
明日一日で過去投稿分の改稿をするので、多分投稿できません。




