砂と船と魚影と
ノルマ達成
何処までも、何処までも。
気が狂いそうな程に白く続く砂の海。
異常なまでの熱量を孕んだ瓢風を目一杯に受け止めて膨らんだ、真白の帆。
国を出てから約三日。
原住民の領域に辿り着いた俺達は、砂上船に乗って砂漠を進んでいた。
砂飛沫を撒き散らしながら行く、双胴の箱舟。
こんがり日に焼けた肌色とターバンローブのおっさん達が雄叫びを上げる地獄のような光景が、体感温度を倍以上に跳ね上げる。
…………………まぁ、熱くもなんともないんだが。
忌々しい太陽光線から身を隠すように、深くローブを被った。
それより問題なのは………………
「アヤメ、大丈夫そうか?」
「うっぷ………おえぇぇえぇぇぇ………………」
「大丈夫じゃなさそうだな」
砂漠を疾走する甲板の上で盛大にリバースするアヤメ。
戦闘すら始まっていないのに、既に瀕死の重傷を負っている。
甲斐甲斐しくその背中をさするリリアナ。
ふと、野太い大声の中に混じる、聴き慣れた声。
気になって目をやると、おっさんの群れのど真ん中で、ギンカとオネットさんが雄叫びを上げていた。
楽しそうだな。
そして全員、いつもの服装とは少しばかり違っていた。
金銀宝石の類で彩られた、アラビアンナイトに出てきそうな露出度高めの衣装。
白く煌めくレースのような素材で出来た、手足のみを覆う構造のドレス。
庇護面積的に下着と大差ないような服装。
種々の宝石があしらわれたティアラと銀のイヤリング。
布が少ないため、かなり際どい胸元や腰回り。
剥き出しの臍やチラリと覗く太腿が、かなりアレな事になっている。
なんでも、数百年ほど前に生まれた異世界からの渡り人────────転生者───────が考案した伝統的な装束らしいが……………………いい仕事をしやがる。
後ろから肩を叩かれて振り返る。
とてもいい笑顔でサムズアップするオッサン。
同じようにサムズアップで返す。
背後からの衝撃に吹き飛ばされた。
転がる俺の頭部を踏み付ける細足。
「なぁ、ギンカ。なんで殴った?」
「………………黙れ。変態ゾンビ」
ギリギリと音を立てて、俺の後頭部にヒールが突き刺さる。
俺が不死者だからか、特に痛くも痒くもないがそれよりも……………………………
「黒か」
「ッ?!」
勢いよく振り下ろされた足を転がって躱す。
殺意マックスでこちらを睨んでくるギンカ。
相変わらず叫ぶオネットさん。
ぐったりと項垂れたアヤメに、困惑顔のリリアナ。
場が混沌とする中、妙な沈黙が漂って……………………………砂が吹き上がった。
祝砲のような轟音と共に砂柱が乱立する、異様な光景。
降り注ぐ砂の雨を切り裂いて現れた、マンタの群れ。
途轍もなく巨大な外套が、胸鰭を広げて空を飛ぶ。
恐らくはこの船を超えているであろう砂色の巨体が宙を泳ぐ、バカみたいな景色。
ドタバタと慌ただしく、2メートル程の長さの銛を担ぎ、舷側に並ぶオッサン達。
「おい、アンタら!早く室内に入れ!!」
「待て何があった」
オッサンに船の中に入るように言われたが、それよりも………………………
「アレはなんだ?」
「砂原飛翼魚だチクショウ!!あいつらを追い払うからちょっと待ってろ!!」
「アヤメ、撃てそうか?」
おっさんの台詞を無視してアヤメに話しかける。
「…………………ゴメン、無理……………」
「そうか、なら休んでろ………ギンカ、アヤメとリリアナの護衛頼む」
「サボるなゾンビ」
「いや、違うからな?」
ジト目のギンカに苦笑を返して歩み出す。
関節が拡張され、筋組織が発達する確かな感覚。
周りにいたオッサンが息を吞むが、正直どうでもいい。
「なぁ、オッサン。銛借りていいか?」
「あ、あぁ。………………いや待て。お前、何を」
銛を複数本纏めて手に取る。
異常発達させた顎で銛を咥え、長く伸びた指の間に銛を挟む。
体躯が数倍に膨れ上がり、脚の骨格が異形のソレになる。
滑空するように飛び続けるマンタ達。
その内の一匹に狙いをつけて───────────────
「ガッアァアァァァァッ!!!」
行呪。
急加速に目が眩むが問題無し。
マンタの眼前まで一気に飛び上がり、空中で身を翻して蹴る。
足の裏で命を踏み潰す感覚。
空歩を使って宙を舞い、猛然と飛行する一頭めがけて銛を撃つ。
撃墜成功。
咥えた銛を手近な一頭に叩きつけ、その背に飛び移る。
ジタバタ暴れるマンタの鰓を狙って刃先を突き刺し、捻り、抉りながら引き抜く。
甲高い汽笛のような悲鳴を上げるその背中から離脱し、別のマンタに投げつける。
嵐の祭〇場に帰りやがれ。
ありったけの殺意を込めて、胸鰭を撃ち抜く。
視界に捉えたもう一頭を撃とうとして…………手持ちの銛が尽きた。
仕方がないので虚空から槍を取り出し、腕を伸ばしながら繰り出す。
ずぶり、と柔肉を裂いて、穂先がマンタの脳天を穿つ。ざまあみろ。
ふと、影が落ちた。
日が陰り、頭上に立ち込める、渦巻く黒雲。
…………………黒雲。
砂漠のど真ん中で。
明らかな異常事態に逃げようとするが、時すでに遅し。
空一面を覆い尽くす雲海の狭間から紫電が走り、蠢き、寄り集って。
「ッ───────────────」
稲妻が降り注いだ。
四方八方に枝分かれしながら駆け巡る、金色の閃光。
雷電から逃れる術は無く。
捻じ曲がりながら迸った雷獣。
その一つの顎がこちらへ向いて。
ドアップのアヤメが視界に映った。
顔がやたらと近い。
体を起こし、辺りを見渡すも、マンタの姿は無し。
………………………何が起こった。
「あの~……レン君?ちょっと、話だけでも聞いてくれるかなって………………」
冷や汗を滝の様に流すオネットさん。
なるほど。
「………アンタが犯人か」
「違うから!ちょっとやり過ぎただけだから!!」
「レン、その辺りにしておいて。今は周辺の警戒が最優先」
ギンカが淡々と告げる。
だが…………………………………
「警戒ならいらないぞ?あの雷にビビって逃げたからな。連中も生きてるんだ。暫くの間は近付いて来ないだろうさ」
笑いながら言うオッサン。
………………そうか、なら。
「遠慮は要らねぇよなぁ……………!」
「待って!話せばわかっあぁああぁぁ?!」
悲鳴を上げるオネットさん。
不干渉を決め込むアヤメ。
ギンカが割って入ろうとし、リリアナが狼狽える。
先ほどまでの曇天が嘘の様に晴れ渡り、容赦ない太陽が砂を焼く。
文字通りの炎天下、ただ砂の尾を引いて船は進んだ。
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