強化と不死と呪いと
ASMR(/・ω・)/
魔王様に呼び出された執務室。
にこやかに笑う我らが上司。
机の上に置かれた小瓶。
中で蠢く白い肉塊。
「……………………なんですか、コレ」
「君は知っているはずだけど?ホラ、君たちが崩壊させた迷宮の天辺にいた……………」
………あのクソキモゲテモノ野郎か。
「はぁ?!いや、待て待て待て!!あのバケモノは俺が灰にして」
「その灰から再生したんだよ……………もっとも、流石にこれ以上は復元しないけどね」
そう言われても安心できない。
それに………
「そもそも、このバケモノはどういうモノなんですか?」
「神話の時代に封印されたヤバいヤツ。詳しく聞くかい?」
「聞きます」
「月棲獣、ムーンビースト、月の怪物。呼び方は色々あるけど、その意味するところは一つ。圧倒的かつ破滅的な戦闘力を持つケダモノ。狡猾で残虐な至高の狩人にして拷問官。手負いとはいえ、君たちはソレを討ち滅ぼしたんだ。誇っていいよ?」
「クトゥルフしてやがる」
想像の斜め上を来やがった。
そして、小瓶を俺に手渡す魔王様。
嫌な予感がする。
「………………まさか、コレを食べろとか言いませんよね?」
「その通りだけど?」
「今すぐに帰ります」
最高速度で席を立ち、回れ右して逃げ出し。
「遠距離攻撃手段が出来るかもよ?」
「喜んで平らげます」
最高速度で席に座り、蓋を開けて飲み下し。
「最悪、灰になって滅びるかもよ?」
「溝に捨ててきます」
「辺り一帯が呪いに汚染されるよ?」
「……どうしたらいいんですか」
「飲むしかないね」
諦めて瓶を受け取り、帰路についた。
「お帰り~お兄ちゃん………って、どうしたの?やつれた顔して?」
「コレ喰えって言われた」
「……………マジ?」
「マジ」
小瓶の中身をアヤメに見せる。
ドン引きするアヤメ。
「あの~、レンさん?ソレは何ですか?」
「ヤバイ奴のヤバイモン」
「……………レンさん。死ぬ前に私の奴隷解放だけ、お願いしますね?」
「レン。サヨナラ」
「あ~あ……………やっぱりこうなったか………レン君?いつかまた…………還ってきてね?」
「縁起でもねぇなぁ、オイ」
溜息を吐いて覚悟を決め───────────────飲み干す。
全身が蠕動し、骨が捻れ、肉が断ち切られた。
増殖しては破壊される筋細胞が弾け飛び、血が噴き出す。
風呂場でやればよかった。
喉奥から零れる獣のような咆哮。
皮膚と眼球が裏返り、肉体が無作為に複製される。
視界が黒く染まり、立っていられずに倒れ伏し、意識が反転して─────────────
銀色の海に、ゆっくりと、ゆっくりと沈んでいく。
銀色の泡に銀色の生物。
唯一白く輝く巨鯨。
≪汝≫≪眷属≫≪愚者≫≪捕食≫≪狂獣≫≪過負荷≫≪然≫≪進化≫
わけがわからないよ。
≪汝≫≪捕食≫≪上位眷属≫≪下剋上≫≪昇華≫≪強化≫
つまり強くなれると?
≪肯定≫≪但≫≪否≫
どういう事か説明してくれ。
≪不可≫≪理解不能≫
クソッタレが。
目が覚めた。
体調は万全。
カーテンの隙間から零れる朝日。
ベッドから起き上がって部屋の外に出る。
空腹感、倦怠感、眩暈、頭痛、腹痛等々、無し。
ついでに違和感も無し。
むしろ絶好調。
今なら何でもできる気がする。
「お兄ちゃん無事だった?!」
後ろからアヤメに激突された。
痛くも痒くもないが、理由が分からない。
「おいアヤメ、どうかしたのか?」
「っ、この馬鹿!」
アヤメにポカポカされながら、俺がぶっ倒れた原因を考える。
間違いなくアレが諸悪の根源だろうが、なんでこうなったのかが分からない。
……………………うん、分からん。
分からんものを考えても意味が無い。
「……………レン。起きたならまず、心配させた事を謝れ」
肩を叩かれた。
振り返ってみると背伸びをしたギンカ。
何となく、いつもよりギンカが小さいような気がする。
というか視界が広い。
ひょっとして俺の背が伸びたのか?
心なしか体も軽く感じる。
………そうだ。
「遠距離攻撃手段」
「え?」
「ちょっと訓練場に行ってくるわ」
啞然とするアヤメを置いて、訓練場に行った。
冷たい床に寝っ転がって、夕日を眺める。
…………………………結局、ほとんど何も得られなかった。
うん、何も。遠距離からの攻撃は、もはや槍投げと弓に頼るしかなさそうだ。
……………でも、まぁ。
「コレを覚えただけマシか ………………………」
右手の人差し指を見つめる。
自分の中を流れる黒く粘ついたタールが、一か所に集中するイメージ。
淀み固まったソレが、掌全体にばらけて───────────────腕が黒靄に覆われる。
皮膚がミイラの様に干乾び、骨が剥き出しになる。
【呪詛】と呼ばれる特異な技術、その初歩の初歩。
呪いを纏うだけの単純な自己強化。
………………………ハハッ。
「泣きたい」
「生きてるか、変態ゾンビ」
俺の顔に水を掛けるギンカ。
扱いが酷いな。
「…………………呪いの基礎だけ覚えた。遠距離はやっぱ無理みたいだな」
「ざーこ」
「誰がチリメンジャコだ」
限界を訴える体を動かし、起き上がる。
取り敢えず、収穫はあった。
そう自分に言い聞かせて、部屋に戻った。
アイスクリンうめぇうめぇ




