14、幽霊議会
14、幽霊議会
しばらく迷路が続いた。
抜けると、チルトは階段を見つけた。
生徒の、誰も見たことのない階段だった。
一見出口のない迷路となってはいるが、この階層に立ち入ることを、これ以上上ることを、生徒は禁じられている。
チルトは学則を破ることに、未知の領域に足を踏み込むことに、胸を高鳴らせていた。
歩を進め、上の階へと達する。
床に一歩踏み出すと、ぴしと、石英が軋むような音がした。
床の硝子がさらに薄くなっているのだ。
体が小さい分、もともと体重の少なかったチルトではあるが、8.7kgという好成績でもこの床はギリギリといったところだ。
陽は暮れてはいったが、どこからともなく漏れ出して透き通ってくる灯りが、チルトを奥へといざなう。
一体誰がともしている灯りなのか、想像すると何か恐くも感じた。
しかし踏み出した先は、再びの迷路だった。
チルトは嘆息しつつも、気を入れて繰り出す。
抜けると、再びの階段。
上ると、迷路。
循環しているような錯覚に陥って、チルトはいい加減引き返しかけたが、もう一階と思って進んでみる。
頭の中に、ぐちゃぐちゃの迷路が構成される。
迷路を進むと、はっきりとした、今度は、硝子を何枚か透過して来たようなものではない、明瞭な灯りが見えた。
引き寄せられるように進むと、微かな話し声。
チルトは近付き、耳をそばだててみる。
声はこう言っていた。
「明日……うれいの抜け…たあ…の、選抜し…んを行……」
「選ばつ、しけん?」
チルトには、確かにそう聞こえたように思う。
それがどういう意味なのか、推し量ろうとする前に、角を曲がって自分の眼に飛び込んできた光景に、まず自分の眼を疑った。
迷路の中に部屋があった。
中央には円卓。
囲んで、羽織っているのはビロウド造りの夜空色。
長めにあしらわれたポンチョのフードを目深に被ったり、表情もない飾り仮面を表につけたヒトビトが、整然と等間隔に並んで座る。
しかし、等間隔というには、一つだけ穴があった。
彼らは怪しげに何か話し合っている。
円卓の真ん中には花瓶。
花の硝子細工が何輪かささっていた。
「候補は“私”か」
「どうだかね、“俺”」
「“ワシ”はどう思う」
チルトには何が何だか分からなかった。
しかし、噂の真相は突き止めたかもしれない。
チルトは上気する鼓動を抑え、こっそりと覗いてみる。
これが“幽霊”たちなのか。
この中にあの女の子はいるのか。
チルトは確かめようとする。
薄暗い上に、顔を隠すような衣服や装いでしかし全く窺えない。
よく見ると、先に見取った一つの穴には座席すらない。
どうにも硝子が抜け落ちていて、妙にそこばかりがチルトの眼を引いた。
チルトは気を取られて、手に提げていたバケツが、壁にぶつかる。
「誰だ!?」
幽霊たちが、一斉に振り向く。
一斉に血の気が引く感覚がチルトを刺し貫いた。
呼吸することも忘れて、チルトはすでに逃げ出していた。
足音だけが木霊する。
チルトはバケツを揺らして必死に走る。
捕まったらどうなるのだろう。
考えるが、チルトには全く分からない。
退学処分かもしれないが、未知の、存在が曖昧な幽霊が、学則何て用いるのだろうか。
無我夢中で駆け抜けるが、ここまでの道をすでに覚えていない。
迷路の構図が、焦りとともに、こんがらがって錯綜する。
後ろから追ってくる足音。
それにも関わらず、チルトはすぐに迷路の壁に行き止まった。
しまったと思ったチルトに、恐怖が押し寄せる。
額に汗が伝い、荒ぐ息を無理矢理潜めて呑み込むようにした。
「こっち。」
突然、暖かい感触を感じ取る。
気付いた時には、手を引っ張られていた。




