story No.8
次の日の朝。
今日は雨だったので、ゴミ当番はなかった。
藤崎君の部屋へ向かった。
インターホンを押してみたが誰も出てこなかった。
いないのかな…
少しがっかりしたが、そういえばこんなにも親しいのに私は藤崎君の電話番号もメールアドレスも知らない。
紙に、ケー番とメアド「話があります。電話してください。白石梨子」と書いてポストに入れた。
そして、職場へ向かった。
会社で愛美に会うと
「朝、会えた?」
と聞いてきた。
『ううん。いなかったの』
「そう。あっ、今日はあたし友達と飲みだから。藤崎君、部屋に誘ってもいいわよ」
嬉しそうにニヤニヤしながら言った。
『分かった。…別に、何もないからね』
「もーっ、照れちゃって」
私の肩を人差し指でつつくと、
「じゃあね」と行ってしまった。
仕事が終わり、帰ろうとした時だった。
フロントから、ロータリーに出るところに傘置き場がある。
自分の傘を探した。
が、ない。
誰かが間違えて持って帰ったか、意図的に盗んだか…
気に入ってたのに…
って、そんな問題じゃない。
駅までどうしよう。
この雨じゃびしょびしょになっちゃう。
と、その時ケータイが鳴った。
着信画面には見知らぬ番号が書いてあった。
『…もしもし』
「梨子ちゃん?」
この声は…
『藤崎君!?』
「うん。ポスト見た。あのさ、俺今、フェアリーの本社ビルの前のカフェにいるんだよね。まだ会社にいる?」
『今、ちょうど帰るところ。ロータリーにいる。藤崎君は?』
「俺もちょうどドラマの打ち合わせ終わったし、一緒に帰らない?それに…話あるんだろ?」
『うん。いいよ。あっ、私傘取られちゃって。』
「マジか。今から迎え行く」
『えっ、ちょっと』
と言おうとしたが、切られた。
どこで待てばいいか分からなかったが、その場で藤崎君を探した。
すぐにキャップをかぶってマスクをしている怪しげな人が現れた。
『ちょっと、それ変よ』私は笑いながら言った。
「しょうがねーだろ。バレたら大変なんだから」
『私といるところ写真に撮られたらどうするの?』
「大丈夫だよ。行こ」
『傘、一本しかないよね?』
「当たり前だろ。2本さしてるヤツみたことあるかよ」
『ない』
「入れよ」
『うん』
藤崎君との距離が近すぎて、胸が張り裂けそうなくらい緊張した。
たまに肩がぶつかって、愛美の「寿命が10年縮みそう」と言ったことを思い出した。
しだいに二人とも口数が少なくなった。
藤崎君もドキドキしてるのだろうか…
「梨子ちゃん」
『ん?』
左を見ると、藤崎君の横顔との距離が10センチくらいしかないことにまたドキドキして、すぐに前を見た。
「俺、梨子ちゃん好きだ」
こんなときに言わなくても…
なんて切り返せばいいか
分からなかったが、勝手に口が動いた。
『私も』
「えっ?」
『私も、藤崎君好き。大好き』
「…じゃあ、付き合ってくれるの?」
コクッと頷くと、藤崎君はとても嬉しそうに「やった!」と言って、小さなガッツポーズをした。
「梨子ちゃんのこと、大切にするから。絶対、付き合って良かったって思えるような男になるからっ!!」
『ありがとう』
泣きそうだった。
こんなにも私のことを思ってくれる人は初めてだった。
「梨子ちゃん」
『なに?』
藤崎君は私の手を取って、優しく繋いだ。
私は恥ずかしいやら嬉しいやらで、うつむいてしまった。
それから二人は無言だったが、ゆっくりと優しい時間が二人を包んだ。
駅のタクシー乗り場に着くと、空席のタクシーに乗って、家に帰った。
明るいところで改めて見ると、藤崎君の左半分はびしょびしょだった。私を傘の中に入れてくれたんだ。そんな優しさがとても嬉しかった。
『今日は愛美が飲みでいないの。久々にごはん食べない?』
「わー、食べるっ!その前に着替えてくる」
ロールキャベツを作って食べた。
「やっぱ、うまいっ!」
『良かった』
10時になると、藤崎君がテレビを付けた。
「俺のドラマ見ていい?」
『あー、見たことない。見よっ!』
悪役と戦う、ボクサーかつ探偵役の藤崎君はとてもカッコ良かった。
『目の前に藤崎君がいて、テレビの中にも藤崎君がいるって、変な感じ』
「確かに」
藤崎君は笑った。
ドラマが終わると藤崎君は帰った。
「じゃあ、おやすみ」
『おやすみ』
明日、藤崎君と付き合ったことを愛美に伝えよう。
ふと外を見ると、もう雨は止んでいた。
つづく。




