煌という離人、上(櫻)
「おい。お前らさっさと出ろ」
夜が明けないうちにそう言われて、無理やり立たされて外に連れ出される。
煌の助言通りにうつむいて目を細めてなるべく目の色を隠しながらなので歩きずらいが、耐えるしかない。
「どこに行くんだ」
煌ははじめから反抗気味だったので話しかけて気を引く役割だ。
「黙って歩け。つけばわかる」
手は後ろ手に縛られてしまっているし、前にも後ろにも人買いがいる。
でもそれは、あたしにとってなにも不利な要素ではない。
しばらく歩いていると、遠くに町が見え始めた。
あそこに入ってしまってから抜け出すのがいいか……
「櫻」
煌に名前を呼ばれて顔を上げる。
煌がにやりと笑っている。
あたしも微笑み返す。
「おいお前ら……っつ?!
その目と爪……さては、玉の姫?!」
早々に気が付かれてしまったか。
「玉を奪え!持っているはずだ!」
すぐに後ろに立っていた人にがっちりと抑えられてしまった。
「どこだ、どこに持っている。言え」
言うわけがない。
ぎろりとにらみ返していると刃物を突き付けられた。
「さあ、言え!こいつも巻き込むことになるぞ!」
そう言って、煌が取り囲まれる。
そいつらの体に触ってしまいたい怒りを何とか抑え込んで、一言だけ放つ。
「やれるものならどうぞ」
にこりと微笑んでやると、相手は少しひるんだらしい。
この程度でひるむのであれば、初めから人身売買などやらなければいい。
ひるんでそのままやめてもらえれば助かったのだけれど、そこは止まってくれないようだ。
「さあ!さあ!」
そんなに叫ばなくても聞こえている。
唾をまき散らして目をギラギラさせて叫ぶ男たちを気持ち悪いと思った。
「煌、できるでしょう?」
ほんのちょっとの間をおいて、あたりが静かになった。
いや、真逆だ。
ズドンという大きな音がして、爆風が吹き付けてきた。
男たちは音にひるんで耳を抑えている。
しばらく音がやむのを待っていると、やけにはっきりとあきれたような声が聞こえた。
「俺ができない奴だったらどうしたんだ」
煌だ。
「できるだろ?」
伊達に武道をやっていたわけではない。
そんなあたしが気配を感じ取れないのは明らかにできない人ではない。
できなかったとしても何とかするまでだ。
「今のうちに行こうぜ。こっちだ」
煌のあとについて町とは反対方向に走りだした。
「煌。あんなに大きな音を出してもいいのか?それとも煌の能力か?」
煌は少し悔し気な顔をしてからうなずいた。
「俺の能力だ」
見破られて悔しいのだろうか。
「助かった。ありがとう」
煌はへへっと鼻をかいた。
「そんなことないぜ」
褒められてうれしいのだろう。
煌は結構わかりやすい。
「ここからどこに行くんだ?」
「まずはあいつらと十分に距離を取って、なるべく早く町へ行こう。
櫻の服は目立ちすぎるぞ」
そういえば、みんなあたしとは違う着物に似た服を着ていた。
そんななか洋服でいては確かに目立つだろう。
「すまない」
「いいってことよ」
入りきらなかったので下に続きます




