明華という半人(椿)
「玉の姫の持つ玉は二種類あると言われています。
生と死の玉と、再生と成長の玉の二つです」
わたしは腰に吊るすためにキーホルダーのような金具を付けられた赤い玉を見つめる。
「どちらでしょうか」
「わかりません」
美和さんにお世話になってわたしはいろいろお手伝いをして生活するためのことを覚えて、玉の姫についても教えてもらった。
水で洗濯をするのもこの世界の服を着るのもはじめは手間取ったが、少しは上達したと思う。
もちろん、隣で黙々とこなしている明華のほうが圧倒的にわたしよりも何もかも上手だけれど。
「お気を付けください。玉を狙う人たちが次から次へと襲い掛かってまいります。
もう一人の姫と出会うまで、決して逃れることはできません。」
美和さんに警告されたが、わたしは武術の経験などない一般的な高校生だ。
いちおう最低限の手ほどきは受けたが、到底できると言えるレベルではない。
手合わせをしたときは明華に一瞬で倒されてしまった。
それに、地名なんかもほとんど覚えられなかった。
文字を習得するのにさほど困らなかったのはありがたかったが、数字が10進数ではない地域があると聞いて気が遠くなった。
そんなこんなで、この世界にやってきてからひと月が経過した。
「そろそろ行こうと思います。お世話になりっぱなしなのも申し訳ありませんし」
そう伝えて、その三日後に出発することにした。
「わかりました。十分に、お気をつけて。
まずは町に出て物を買ってください。それから、決して爪に薬を塗るのを忘れないようになさってください。それから、」
いろいろと言いつけられたが、半分ぐらいは聞き流した。
ここひと月でさんざん言われたことだったから。
「おばあさま、椿が行くの?」
ちょうど外から明華が帰ってきた。
「ああ。三日後だそうだ」
明華は荷物を置いてからこちらにやってきて椅子に座った。
「なら、私もついていくね」
「え?!」
しっかりと美和さんを見つめる明華の目に迷いはなく、前々から決めていたのであろうことが察せられた。
「父様と母様を探したいから」
明華の父様と母様?
明華がちらりとこちらを向いて説明をしてくれる。
「私の父様と母様は、私がちいさいころに私をここに預けていなくなったの」
そうだったのか……
「おばあさま、いいでしょう?」
美和さんはやれりやれと頭を振った。
「行ってきなさい」
あっさりと許可が出たので、二人での旅になった。
「椿、ほおっておいたら野垂れ死にそうだし」
確かに、明華にいてもらった方が助かる。
わたしではここから先わからないことが多すぎる。
「ありがとうね、明華」
明華はちょっとだけ笑ってどこかに行ってしまった。
残された美和さんは、わたしの方を見て頭を下げた。
「椿様。明華のことを頼みます」
「はい。どちらかというと、わたしのほうがお世話になるでしょうけれど」
美和さんはクスリと笑った。
「あの子は私が育てたからかこの世界の常識を持ちながら少しずれたところがございます。きっと一緒に行かれると楽しいことでしょう。
それに、あの子はああ見えてとても強いのです」
初めて聞く孫自慢。
これが聞けるのももう数日しかないのかと残念に思いつつ、喜んで話を聞いた。
出発の日はきれいに晴れてくれた。
ここから町までは半日と少し。しばらくは雨の心配はなさそうだ。
「行ってきます」
「お気をつけて。いつでも、帰ってきてくださいませ」
美和さんはずっと遠くになってもまだそこに立っていた。
腰に吊るした玉にそっと触れる。
もう一つの玉を持つ玉の姫は、一体どんな人なのだろう。
「明華」
「ん?」
声をかけると先を歩く明華が振り向いてくれる。
だからきっと、これからの旅は寂しくない。
「これからよろしくね」
明華はふいっとまえを向いてしまった。
それが照れ隠しだと、わたしはもう知っている。




