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「逢坂さん!」焦りを滲ませた聞き慣れた声がして、飛びそうになる意識を慌てて引き戻す。
……最悪。なんで、よりによって神谷くんがここに。弱ってるところに、来ないでほしい。
「神谷くん、お疲れさま」
必死に取り繕って口角を上げる。いつもの顔を無理やり作る。残念ながら、ベンチで少し休んでいこうと思って公園に入ったものの、ベンチに腰掛けようと思った瞬間にめまいがして、しゃがみ込んでいるという、なんとも滑稽な姿ではあるが。
「あはは、ちょっと立ちくらみしちゃって。」
……だめだ。思ったより、声が出ない。
「大丈夫、……じゃないですね」
固く冷たい声が聞こえる。表情ははっきり見えないけれど、美しい眉が歪んでいるようだ。
「ちょっと休めば大丈夫。もうさ、体調管理ちゃんとしないとねー、社会人なのにさー。」
正直、笑えているかは、分からない。立ち上がろうとして、やめる。ああ、これはもう無理だ。視界がぐるぐる回っている。あーもう、早く行ってくれないかな。話すのもきつい。
「ちょっとここで休んだら帰るから、神谷くんは先に…」
「家、どこですか」
「やだなー、個人情報だし——教えるわけ」
「タクシー、今、呼びました。家まで送ります」
「え、いいよ、いいって。自分で帰れる…」
「送ります」
いちいち被せて話してくる。逃げ道を、塞ぐみたいに。……なんなの、この人。ていうか、なんで神谷君に家まで送ってもらうことになってるんだろう。回らない頭で考えてみるけど、全くわからない。というか、もう考えることすら億劫になってきた。
ふらつく体をほんの少しだけ支えられる。強くもないのに、離れられない距離。ゆっくり、大通りまで戻って神谷君が呼んでくれたタクシーに乗り込む。神谷くんもなぜか一緒に乗り込んでくるが、もう、思考がグラグラしていて、しっかりと考えることができない。なんなんだろう、この人。という気持ちだけがぐるぐるしている。
「朝から体調が悪いなら、早退すべきです。体調管理とは本来——。」
「そもそも夕方に女性1人で薄暗い公園に行くなんてありえない。普段のあなたならしないでしょう。大きな駅の近くとはいえ、油断しすぎです。」
タクシーに乗ってから、神谷くんがずっとぐちぐち何か言っているけれど。……なんか。「お母さんみたい」思わず、口からこぼれる。
—―ああ。お母さん。会いたいな。隣にいる、神谷くんの温もりがとても暖かくて。母のように、ずっと小言を言っているのが、なんだか嬉しくもあるのはなんでなんだろうか。私のことを気遣ってくれているのがわかるからかな。なんだか、すごく心地良い。




