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「均衡の上で、息をする」の私のお話し
逢坂葉月は、完璧だ。どれだけ無理をしても、周りに全く悟らせず、最後まで「整った顔」で立っている。そういう人だ。
だからこそ、分かる。今日のあれは、限界に近い。
ヒールの音が、ほんの少しだけ揺れていた。歩幅も、呼吸も、視線も。全部、わずかに乱れている。
それでも、仕事が終われば、まっすぐに帰ると思っていた。体調の回復を優先して、いつも通りに。
でも、……違った。
会社を出てすぐの、改札に向かうはずの足取りがどんどん乱れていく。大きくふらついたと思ったら、何を考えているのか、そのまま、駅近くの公園へ。
ありえない。あの人がそんな選択をするはずがない。確実に、判断が鈍っている。気づいた時には、追っていた。距離は取る。近づきすぎない。声はかけない。ただ、見失わない位置で。
……何をしているんだ、俺は。心の中で自嘲しながら。それでも、なぜか逸る気持ちを止められない。追いかけなくてはいけない。ほとんど本能でそう思った。
ベンチに辿り着いたところで、葉月の足が止まる。
一歩、踏み出そうとして、ふいにバランスを崩す。ベンチの前でしゃがみ込み、きれいに纏められた髪の毛がはらりと頬にかかる。顔色は明らかに悪かった。
……なんてことだ。いてもたってもいられず、声をかけた。




