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リビングの電気は、ついたままだった。ソファにもたれるようにして、彼女が眠っている。
娘は寝室でぐっすりだ。
きっと、今日も一日、何度も「ママ」と呼ばれて、
何度も走って娘を追いかけて、何度も、自分のことを後回しにしたのだろう。乾かす時間も惜しかったのか、まだほんのり濡れている髪と、力の抜けたその横顔。
うっすらと残る涙の跡に気づいて、わずかに眉をひそめる。小さく息を吐いて、そっと頬に触れた。起こさないように、静かに抱き上げて、寝室へ運ぶ。
布団をかけると、彼女はほんの少しだけ、眉を動かした。それでも、起きない。今日も、限界までやっていたのだろう。
ベッドの脇に腰をおろして、少しだけ見つめる。
——本当は、知っている。
仕事の話を聞かれるとき、少しだけ遠くを見ること。「こうなりたかった」という自分を、まだ、手放しきれていないこと。それでも、何も言わずにここにいること。
娘に向けるあの優しい目も、たまに見せる、不器用な怒り方も、全部。
彼女の頬に触れ、そっとキスを落とす。
「今日も、おつかれさま」
返事はない。でも、それでいい。あなたは、気づかなくていい。この、どうしようもなく離れられない感情を。理由もなく惹かれて、抗うことすらできない、この感覚を。
執着に近いそれを、外には見せず静かに抱えたまま。壊さないように、触れすぎないように、それでも確実に守れる距離で。静かに、囲い続ける。
彼女が、何も知らないまま笑っていられるように。
電気を消して、寝室を出る。
——あなたがここにいる限り、俺はずっと、味方でいる。
「まぁ、手放すつもりなど、あるはずもないが。」
夜だけが、知っている。この、抗いようのない愛のことを——。




