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あの道と、この道のあいだで  作者: あんばたみや
夜だけが知っている
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2

 リビングの電気は、ついたままだった。ソファにもたれるようにして、彼女が眠っている。


 娘は寝室でぐっすりだ。


 きっと、今日も一日、何度も「ママ」と呼ばれて、

何度も走って娘を追いかけて、何度も、自分のことを後回しにしたのだろう。乾かす時間も惜しかったのか、まだほんのり濡れている髪と、力の抜けたその横顔。


 うっすらと残る涙の跡に気づいて、わずかに眉をひそめる。小さく息を吐いて、そっと頬に触れた。起こさないように、静かに抱き上げて、寝室へ運ぶ。


 布団をかけると、彼女はほんの少しだけ、眉を動かした。それでも、起きない。今日も、限界までやっていたのだろう。

 ベッドの脇に腰をおろして、少しだけ見つめる。


 ——本当は、知っている。

 仕事の話を聞かれるとき、少しだけ遠くを見ること。「こうなりたかった」という自分を、まだ、手放しきれていないこと。それでも、何も言わずにここにいること。


 娘に向けるあの優しい目も、たまに見せる、不器用な怒り方も、全部。 

 彼女の頬に触れ、そっとキスを落とす。


 「今日も、おつかれさま」


 返事はない。でも、それでいい。あなたは、気づかなくていい。この、どうしようもなく離れられない感情を。理由もなく惹かれて、抗うことすらできない、この感覚を。


 執着に近いそれを、外には見せず静かに抱えたまま。壊さないように、触れすぎないように、それでも確実に守れる距離で。静かに、囲い続ける。


 彼女が、何も知らないまま笑っていられるように。


 電気を消して、寝室を出る。

 ——あなたがここにいる限り、俺はずっと、味方でいる。


 「まぁ、手放すつもりなど、あるはずもないが。」

 夜だけが、知っている。この、抗いようのない愛のことを——。


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