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49枚目 怪しい商人③

 

『煌爛華の群生地はあの谷底の近くにある岩穴の洞窟。あ、そうそう今指さしてるあそこ。あの中に群生地がある。暗い中やからきっと光り輝く煌爛華があったらすぐ分かると思うわ』

『じゃあ、僕は他の商品集めもせなあかんから一旦さよならや』


 そう言い残し身軽そうに他の場所へと移動して行った商人を見送った後すぐ。


 共に場所を確認し、教えて貰った岩穴の洞窟目掛けて自身も歩き出す。


 教えて貰った煌爛華の群生地があるとされる洞窟は、幸いにも、スイジュが生えていた谷底近くの崖上。


 ここからでも少し目視できた為、脳内でマッピングし道筋を立てながら目的地まで向かう。


 崖淵まで来れば、自然と視線は谷底へと落ちるもので、本能に従い視線を落としてみればその光景に思わず目を疑った。


 その谷底はスイジュが聳え立っていた場所であり、それは先日ローズによって見事切り倒されていたはずだったのに。


 今目の前にある光景は、まるでそんな事が無かったかと言うように切り倒されたスイジュの姿は無く、代わりに元の地面から聳える大樹がそこに鎮座していた。


「…………魔物化したら切り倒しても治るのか………」


 元の動植物であれば、切り落とされた部位など治癒術を施さなければ完全に元通りになることなど断じてない。


 しかしそれもこのような短期間で行われること無く多くの時間を要する。


 これはきっと、魔物化による単純な基礎能力値の底上げと意思の芽生え。


 そしてその動植物に開花した超再生能力の影響だろう。


 実際のところ、魔物化した動植物の中で一番知名度のあるジャイアント系の魔物はその最たる例である。


 普通にオレ達が食すために飼い慣らしている牛や豚。


 それらが魔力濃度の高い場所で野放しになっていれば、そこで暮らす時間が長ければ長い程、体内に蓄積された処理しきれない魔力を処理しようと体の構造が変化する。


 所謂、人類が地上で生きて行く為適応する姿に進化して行った進化形態の動植物バージョンという訳だ。


 歩きながらスイジュを眺めていれば、谷底に広がる水面に波紋が広がるのが瞳に捉えられた。


「………まさか、バレてないよな??」


 風も吹いていないこの瞬間にスイジュを中心に波立つ水面を見れば、自然と魔物化したスイジュが動き始めているのかもと身構える。


 スイジュの第六感が働き仮にオレの気配に気がついたとすれば厄介なことになりかねない。


 ここは数歩足を引き、視界にスイジュが入らないよう崖淵から距離を離す。


 それに今の本題は、商人から課せられた煌爛華を数本取ってくるという条件を満たす為洞窟を目指している。


 変な所で問題を起こしている暇などないのだ。


 日も徐々に南の空へと昇っていき、お昼時が近づいているのが目に見えて分かる。


 それ迄に何とかして拠点に帰り、皆にパンを分け与えたい。


 後、単純にこれ以上無駄な心配は掛けたくないと思い、早足に洞窟の方面へと向かう。


 少し隆起した丘の様な場所周辺に生える、木々に囲まれた根元。


 そこに洞窟は存在した。


 先程商人と遠目で確認した場所と一致していた為、目的地の洞窟はここで間違いないだろう。


「…………いや、意外と暗くね??」


 人一人が通れそうな洞窟の入口を前に、周りの太陽の明るさの影響もあってか、閉鎖された空間である洞窟の中が極端に暗く見えた。


 明るみから暗がりに行くのは、目が眩み慣れてない視界の状態でもしもの事があってはならないと思い、一先ず岩穴の入口を凝視し暗がりに目を慣らす。


 何度か瞬きをし、瞳に残る明るい靄が無くなり暗がりが見え始めたのを実感する。


 手に持つシュノハが入った籠をもう一度握り直し、洞窟へと一歩足を踏み出す。


 薄暗い空間の壁に遮られ先程迄聞こえていた木々の囁きが途端に聞こえなくなるような錯覚に陥る。


「こーいう時に幸が居てくれたらなぁ……はぁ、どこ行ったんだろ」


 常に極彩色にキラキラと輝く幸は夜の間であれ、その周りは仄かに明るい。


 いわば光耀がカッと光る光石電灯であれば、幸はぼんやりと辺りを照らすランタンや火のついた蝋燭と表すのが最適だろう。


 この様に、少し灯りが欲しいと思うぐらいにはこの暗闇に怖気付いていた。


「まぁ、まぁ、まぁ………大丈夫。オレは強い子。皆のパンがかかってるんだ。ここで頑張らなきゃいつ頑張る」


 自分を鼓舞し、空いている左手で自らの頬をぺちぺちと叩く。


 よし、と一つ気合を入れ、足元に広がる砂利を踏みしめて洞窟の奥へと進む。


 そこまで複雑な洞窟でないことを祈りながら念の為、出口が分からなくなっては行けないと思い、道筋を覚えられるよう体を左側の壁に添わせる。


 そうする事で、帰る際は右手側に壁がある道筋で帰れば出口へと出られる。


 こう言う一人行動の時こそ慎重な行動が自身の身を守るのだ。



 …………いや、そもそも慎重に行動するならば一人でこんなことしない方が良かったのでは??




 まぁ、そんなのを考えても時、既に遅し。


 なってしまったものは仕方がない。ここまで来れば任務を遂行するまでだ。


 左手で壁を伝いながら背後の外の明かりを見れば、明かりが小さくなっていた。


 どうやらこの岩穴、一直線ではなく、少し道筋が曲がっているようだった。


 と言うことはさっきオレが見ていた暗闇の正体は、ただの岩肌だったのか。道理で真っ暗な訳だ。


 暗闇の正体に納得していれば、目の前の空間に温かみのある光が見えて来た。


 既に暗闇に慣れてきた瞳はその眩いまでの光に吸い寄せられる様に早足となる。


 洞窟内に足音が響き渡るのを耳で捉え前を見据えていれば、温かみのある光は徐々に洞窟内を支配して行った。


「おっ………わぁ、めちゃくちゃきれ〜〜」


 道筋を辿り曲がりきれば、そこにあったのは床一面にゴールデンイエローとファイヤーレッドが目を惹く煌爛華が咲き乱れていた。


 流石、暖房付きの明かりとして重宝していた煌爛華だ。


 これだけの数が咲き乱れていれば煌爛華から発せられる熱で少しクラクラとしてくる。


「あっつ、……早くとって帰ろ……」


 洞窟内は密閉され、さながらお風呂の湯気が空間内に篭もり人間を蒸し焼きにして食べる準備を整えているかのようだ。


 先日のスイジュ魔物化事件を経て、この煌爛華も魔力濃度の高い地域で生息する適性があるものの、間違って魔物化している個体がいるかもと警戒する。


 ここは、手っ取り早く採取し持ち帰る事が懸命だろう。


 その場にしゃがみ、手に持っていた籠を近くに置く。


 己の両手をゆっくりと近づけ煌爛華の茎に触る。


 やはり多少の温かさを感じるものの、焼き爛れるという感覚はやってこない。


「…………まぐれじゃなくて良かった……」


 もしかしたらあの水晶宮で不可抗力的に当たってしまった時は何かの奇跡で怪我をしなかっただけかと思ったが、どうやらそんなことは無いようだった。


 一輪摘み取った煌爛華を籠の空いている箇所に入れ、再び自身の両掌を煌爛華の明かりを頼りに凝視する。


 ぼんやりと見える限りでも焼き爛れている様子は確認されない。


 ほっと息をつき、体に籠る熱が増してくるのを感じ、いそいそと付近に自生する煌爛華を次々と採取していく。


 これくらいかなと良い感じに摘み終われば、こんな綺麗な景色自分だけ堪能するのはもったいないと思い、記念に一枚と首から下げていた魔導式カメラで一枚写真を撮る。


 この景色は小町さんと瑛人さんに喜んでもらえるかもとほくほくしながら右の壁伝いに洞窟を出るべく、煌爛華の群生地に背を向ける。


「あ〜!皆喜んでくれるかな〜!?てか煌爛華ってどんな味なんだろ!?オレ食べれるのかな?」


 籠の中で仄かに輝く煌爛華を眺めながら想像もできない煌爛華の味に思いを馳せるのだった。

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