47枚目 怪しい商人①
無人島に来てから五日目。
初っ端から紆余曲折ありながらも、何とか一日を終え二日目にして拠点となる小屋回りの簡易的な建築と必要最低限の小道具の制作が完了した。
三日目である一昨日から、建築チームは解散しそれぞれ山チーム海岸チームのメンバーをローテション式に変え日々の食料を調達していた。
いつか見た異界の闘牛の様な巨体が特徴のジャイアントカウ。
勿論これは円城寺とローズが打ち倒し、もれなくオレ達の胃袋に収まるべく直ぐ様解体され煌めくステーキブロックとなった。
あまりの巨体ゆえ、これ以上食料は要らないかと思わなくもないが、何せこの大人数。
油断していれば直ぐに食料など尽きてしまうかもしれない。
慢心せず、常に余りがあると思っていれば心にも余裕ができるというもの。
食糧などいくらあってもいい。オマケにどうやら氷室の洞窟には舞闊の食堂にあるバイキング用ボックスと同じ時間停止、保冷魔法が掛けられているらしい。
これ勝ち確。
そして山へ山菜狩りやら初めて経験する素潜りやジェニー達とともに釣りをしたり。
初日ほどの過酷さはないにしろ、どっちにしても普段生活していれば自ら動かない限り体験することの無い経験を積んでいた。
一同、この無人島サバイバル合宿にある程度の慣れを会得し始めていた。
「萌餅達は今日海岸チームね!」
「いっぱい取ってくるからね〜!」
「じゃあ、ラファ、桧、円城寺!大物期待してる!」
「あぁ、素潜り頑張ってくるよ」
「よみも気を付けてね」
五日目の本日は、ラファ、円城寺、萌餅、桧を中心とした海岸チーム。
オレ、菫、ローズ、ジェニーを中心とした山チームに別れて食料の調達に出る。
それぞれが収穫物を入れるため作られた特製の籠を持ち海岸と山へと歩き出す。
この数日間何度か足を踏み入れている山。
油断大敵なのはそうだが、実際拠点近くの山道は既に殆ど覚えてしまった。
今日は、少し奥に入り込み桧特製の弓矢を携えたジェニーとローズ達の狩の手伝いと共に、調味料の元となる植物を探すのが目的だ。
正直なところ、現在の料理の味付けが山で取れたハーブ等の香り付けの香草や、殆ど素材その物の味付けで食している。
食べる分には問題ないのだが、やはり普通に生活し舌が肥えたオレ達にとってはそれが少し苦痛に感じてきていたのだ。
その為、オレ達の国で一般的な調味料である辛味料の元となるいくつかの素材を探し、劣化版辛味料を製作することが満場一致で決まった。
これに関しては植物に詳しい菫に一任しつつ、その補助を行う。
腕の見せ所だと張り切る菫を横目に、ローズ達は既に意識を集中させながら獲物を探していた。
かく言うオレも野草やきのこ類を刈り取る為、菫達と共に足元を眺めながらサクサクと歩いて行けば、少し離れた場所に見える一つの色彩を見つける。
「お、おぉ〜!シンプルにシュノハ見っけ!」
即座にその場に向かい駆け出せば、そこにあったのは自然の緑色に紛れることの無い朱色をしたシュノハ。
見た目はとてつもなく怪しく見えるこの野草は、家庭でも天ぷらにして食べると普通に美味い代物。
野草独特の苦味が少しあるものの、簡単に下茹して辛味料を振りかけて白ごまを散らせばシュノハのお浸しが出来る。これも美味い。
まぁ、今は小麦粉も卵も油も、ましてや白ごまも無いのでこの二つの料理が出来ることはない。
しかし確実に食べれる食材を無事ゲット。
手に持っていた籠にここいら一帯に生えているシュノハを摘み取り次々と入れて行く。
ザワっと風が吹き荒むと、一つ空気が変わったような感覚がし立ち上がる。
「……………オレ、またやったか?」
来た方向を振り返れば、一緒に来ていた菫達の姿が見当たらなかった。
しかし幸いにもここは先日山間にあるスイジュが聳え立っていた谷底の近く。
あの日谷底から拠点地に帰るまでに通った道筋が近くにある。
最悪その道を辿り拠点地に帰ればいいかと思い、そのまま探索を再開する。
拠点地に帰る道筋が何処にあるか分かるように、先程摘み取ったシュノハを近くにあった石ころと小枝の下敷きにし目印として地面に置く。
まだ不十分な収穫な為、更なる食材を求め来た方向とは反対方向へと歩き出す。
崖方面へ歩いて行けば、段々と森が開け木々の間から降り注ぐ太陽の光が増してくる。
と、思った瞬間。
木々が生え揃わない草原が広がる崖淵に、一つの人影が自身の瞳に映った。
息を飲んだと同時に目を凝らせば、その人影はオレと共に来ている級友の誰でも無い容姿をした人物だった。
(………!? 誰々、誰!?)
警戒し、相手に気付かれないよう気配を殺す為身を強ばらせ一歩一歩と方向を変えないまま後ろへと後退する。
オレだって少し抜けているところはあるものの、考え無しの馬鹿では無い。
この状況で呑気に正体不明の人物の元に何の警戒もなしに飛び出す程肝は座ってないし、やろうとも思わない。
それにオレは初日にやらかした張本人だ。これ以上皆に迷惑は掛けられない。
無駄な事をしてオレ諸共、皆を危険に晒すのは非常にまずい。
こういう時定番にありがちな何かを踏み音を立て相手に気づかれる等と言う最悪な状況にならないよう、横向きになり自身の足元と怪しい人影の動向を確認しながら歩く。
「………なんや、水臭いやないですか」
(!?!)
ドッキンと心臓が飛び跳ね、声を出さないように唇を必死に噛み締める。
謎の人影から発せられたその声はやはりどの級友の声にも当てはまらない人物のものだった。
ただの独り言だと信じて、何も言い返さず近くにあった木の影へと隠れる。
何が起こって、これからどうしようかと打開策を考えながら人の気配を探れば何か気配が近づいてきているのが何となくわかった。
「何かお困りなのやろ?」
「わぁあああ!?」
木の幹に背を向け息を殺していれば、視界の右側から正体不明な人物だと思われる人がにゅっと顔を覗かせてきた。
驚きに、素っ頓狂な声を上げ全力で反対方面へと体を移動させた。
「あぁ、驚かせてえらいすんません。そりゃあ誰でも山で知らん人に会うたら警戒するんは当然ですね」
正体不明のその人物は右手を項付近に回し首を傾げれば、瞳を隠すように長く伸びた赤銅色の髪がサラサラと流れる。
前髪の隙間から覗く優しそうに目を細めるその瞳は、赤から黒へ濁っていくような不思議な色だった。




