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46枚目

 

「うぅ……ラファああぁぁ…………」


「泣かないでよみ。よみが泣いたらボクも皆も泣きたくなる」


 ポロポロと零れる涙を止める方法が分からず、ただただ垂れ流しにする。


 岩陰地鶏を捕らえるため、走って滑って崖から落ちて。


 落ちた先の崖下で魔物化した大樹、それも水を吸い尽くして更に人間の魔力と体内水分を吸い上げることによる自立歩行型へと変化したスイジュ。


 打開策が見つからず、捕まった光耀を助ける事も、力を振り絞った菫を慮る事も出来なかった。


 そんな絶望の中、なんだかよく分からない力が作用し、間一髪的に命救われローズの助太刀により命の危機から脱した。


 事前に光耀と菫も泣いたんだ。オレにも泣かせろ!!!オレも怖かったんだぁぁあああああ!!!!!


「瞳!!!俺のせいで怖い思いをさせてしまった。本当にすまなかった!!!!」


 ラファと同じく、崖上で待機していた円城寺が思い切り声を張り上げ謝罪の言葉を吐き出す。


 誠意のこもった声色だとすぐに分かると同時にオレには円城寺が謝る必要は無いと思っていた。


「いいよぉ………ジャイアント系はオレには倒せないから、適材適所だったんだぁ!………運が悪かっただけ………円城寺は何も、悪くないよぉ……!ゴホッ」


 情けなくも、涙が止まらないまま崖上に居る円城寺に語りかける。


 もう何がなにやら。叫びすぎたのか、大きな声も出せなくなってきた。


 それよりも、肝心な光耀は無事なのかと思いローズの背に背負われた光耀を見る。


 若干頬がこけ、根に縛られ圧迫された痕があるもののそれ以外に目立った外傷は無かった。


 一先ず安心だ。


 そしてここから脱出する為に、崖上に居た円城寺は近くの幹に持ってきていたであろう昌苹の蔓を巻き付けこちらへと降りてくる。


 既に力を振り絞ってしまったオレと菫は順番に円城寺に担がれながら山間の谷底から脱出した。


「うぅ……ラファ………」

「あぁ、あぁ……こんなに泣いて……目が腫れちゃうよ」

「本当に死ぬかと思ったんだも〜ん……」


 今更訪れてきた恐怖感により腰が抜け、その場でへたり込めば、ラファは近くに光耀を横たわらせ菫もこちらへと座らせた。


 青白く発光した光の粒が舞い上がり、その光を吸収するかのごとく掌を前に出し、光耀、菫、と順番に額へと手を当てる。


 見る見るうちに顔色が良くなっていく光耀の様子を見るに、ラファがオレ達三人に一日一回しか使えない魔法を使い治療してくれているようだった。


 ラファの手が額に当たればなにやら暖かいものが流れ込み、あちこちにあった擦り傷の痛みが和らいだ。


「……ごめん、迷惑かけた……」

「いや。この森の危険性を予想できなかったボクが悪い。兎に角、無事で良かったよよみ……」


 こちら側へと手を差し伸べてきたラファの手を取り、少し軽くなった体を立ち上がらせる。


 未だ気絶したままの光耀を円城寺が担ぎ、貧血気味な菫にローズが肩を貸し下山する。


 サクサクと響く草木の音は、先程のスイジュが動く轟音とは全く違いそれが余計に魔物化したスイジュの異質さを際立たせていた。


 皆が待機していた集合場所へと辿り着くとそこには、近くの木を上手く利用し木材で屋根と外壁を作られた簡易的な小屋が立っていた。


 待機していた皆が直ぐ様駆け寄りそれぞれが心配そうに声をかけてくれた。


 特にジェニーは謝り倒すようにオレ達三人の前に姿を表してきたのでそれを宥める。


「ぁ……そう言えば水……どうしよ」


「その事なんだけど……さ、」

「うん?」


 ローズに体を預けながていた菫がポツリと語りかける。


「思ったより水源地が遠いみたいでね。これだけ人数が居るからそれだけの水を汲んで往復するのはキツイ、と思うの」

「まぁ、確かに」


「それで、こんな状況になって言うのもあれかと思ったんだけど………」


 少しを気まずそうに目を泳がせ、他所にチラチラと視線を逸らしながらモジモジとする。


「近くを流れる川の水でも煮沸消毒すれば飲めるには飲めるから、その方がいいのかもしれない………と思いまして………」

「そうだね。この森、いやこの無人島全体。どうやら一筋縄では無いようだからね安全に越したことはないよ」

「そうですね。あくまで生き残れればいいのですから」


 菫の言葉にうんうんと一同が頷く。当の本人もまさかこんなにすんなりと肯定してくれるとは思ってもみなかったのだろう。


 オロオロとみんなの顔を見ながら「なぜ怒らないの??」と疑問を口にしていた。


「菫ちゃん達が無事だったのですから良いのですよ」

「それに菫達の罠のおかげで他の皆が大量に岩陰地鶏を捕獲しているしなオマケでジャイアントディアもだ」


 そう言って円城寺は、背後にある捕らえられた岩陰地鶏と討伐したジャイアントディアを指さす。


 恐らくラファ達がオレらを救出している間手分けをしてこの場まで運んできていたのだろう。


 臨機応変が完璧な級友達だ。


「やってダメだったことなんて何も無かったんだよ」

「レナ〜ト君〜……!!!」


 諭すような声色でラファが励ます形で菫に声をかけるとそれを見たジェニーや桧達により揉みくちゃになりながらわしゃわしゃと撫でくりまわされる。


 その言葉は直接オレに言われてないにしろ、オレにも刺さった。


「さて、じゃあよみ達の窮地も脱したことだ。幸い、今晩及び何回かの主食の食材は海岸チームと山チームのお陰で揃ってる」

「となれば、これから行うは火起こしをしてディナー作り、ですわね」


「建築チームは雨風凌げる小屋が必要ということで、一先ず最後の調整に入ってくれるかい?」

「おっけい」

「残りの手の空いた人達は手分けして夕食の準備をしよう」


 テキパキとラファが指示を出し、準じて皆が一斉に動き出す。


 ラファに治療してもらったことで、体もピンピンとしていたため早速夕ご飯作りの一員に加えてもらい共に調理に取り掛かる。


 まな板替わりの薄い岩の上で、香り付けの香草をすり潰し、隣ではナイフを使って円城寺が岩陰地鶏を捌く。


 リリィは持ち前の包丁捌きで華麗に取ってきた魚達をどんどんと捌いていく。


 お肉もあって、魚もあって野草という名の野菜もある。


 主食が無いのがあれだが、贅沢は言ってられない。何よりこの調理中だけでも美味しそうなのだがら。


 地面に作られた岩で囲い薪を焚べれるよう下側に空間が作られている特製の竈。既に桧とローズによって火を起こし、熱々に熱された鉄板替わりの岩の上へと香草たちによって下味をつけ終えた岩陰地鶏を置く。


 ジュワワワワと弾ける音を立てながら湯気が上がる。


 その音に周りに居た級友達の視線が一気にこちらへと集まる。


 今日一日気を緩ませる事も、休む暇もなく動き続けた空腹の体は幸せの音による高揚感が脳内を突き抜ける。


「はぁああああ………うまそう………」

「まだ生肉だけどね?」


 ついつい焼きかけ生肉状態でもヨダレが垂れてきそうな程の誘惑に唸っていれば、リリィから本当にこのまま食べちゃダメだよ??と釘を刺される。


 時間短縮の為何個か設置してある他の竈では残った岩陰地鶏と魚達も焼き始める。


 黄金的な焼け目が目立ち始めると、香ばしい香りがフワフワと辺りを漂い始める。


「よぉおし!!皆ぁ!飯出来たよぉ!!」

「「「待ってましたぁあああ!!」」」


 残念ながら人数分の皿は無い為、焼きあがった全ての料理を取り敢えず大皿代わりの綺麗にした岩皿の上へと盛りつける。


 見た目に関しては、綺麗とは言えないが食べる分には何ら問題ない。


 要はお腹に入れば一緒だ。


 煮沸し終わり安全に飲めれるようなり氷室の洞窟で冷やしていた水をコップ替わりの竹筒へと入れる。


 大まかに今日の作業が終わった皆が竈の周りに集まり大きな円になるように座る。


 日は既にとっぷりと暮れ、薪の赤い炎と月明かりだけがオレ達を照らす。


「乾杯の音頭する??」


 一頻りコップが手に渡った所で菫がぽつりと呟いた。


 確かに。ここは景気づけと言うか、何とか無事(?)初日を生き残った記念としてあってもいいかもしれない。


「それならラファが適任じゃない?」

「ボク?」

「そーだね!首席!」

「俺達のリーダーだしな」


 納得した皆が口を揃えて強請れば、一つ咳払いしたラファが姿勢を整えた。


「では、初日皆お疲れ様。この無人島に来て半日ほどだと言うのにもう既に色んなことが起こったね」


 うんうんと大いに心当たりのあるオレと光耀、菫。そしてジェニーやリリィも同時に頷く。


「ボクの勘的にこの無人島はきっと一般人では無い狭間の守り人(チュトラリー)であるボク達でしか生き残れない場所だと思う」

「そんな中でも皆と一緒ならきっと乗り越えられると僕は思うよ。勿論何か怪我があったりしたらボクがサポートする。この二週間誰も欠けずに無事に終えられる事を心から願うよ」


 一度言葉を区切り、自身が持っているコップを宙に掲げれば月明かりに照らされた夜色に染まったエメラルドグリーンの髪が夜風に揺れる。


「今日一日、本当にお疲れ様でした。そしてまた、明日からも頑張ろう。乾杯」

「「「「「かんぱぁああああい!!!!」」」」」


 完璧なラファの音頭に一気に盛り上がり宴かのような今までにないような夕食の時間が始まり、記念に一枚と首からかけられた魔導式カメラでシャッターを切った。


 ◆


 一頻り夕食を食べ終わり、後片付けが終えたあと。


 夜も更けて残った作業を続行出来ないという点と、この怒涛の半日間の疲れから明日に備え眠る為、各々が小屋へと入る。


 当の本人であるオレは、美味しいものを食べたからなのか、少し目が冴えてしまい木々に邪魔されない場所へと移動し澄んだ夜空を見上げ星を眺める。


「今日はいっぱいいっぱいだったね」


 サクサクと音を立てながら歩いてきたのは宵闇に紛れそうな菫色の髪を持つ人物。


「あれ、菫。菫も眠れないの?」


 問いかければ、オレの隣に腰掛けた菫が一つ頷き同じく夜空を見上げる。


「お昼の事改めて思い出したら、ほんと、やばかったなぁって思って」

「うん。正直オレも死んだと思った」


 あの極限状態の最悪な状況の連鎖は、本当に心の底から本能的な恐怖に囚われ危うく行動不能になるところだった。


 是非ともあの時のオレにMVPの称号をあげたいような働きぶりだったと自負している。


 勿論、動き回るスイジュの猛攻を抑えるきっかけを作ってくれた菫にも。


「あれが、二週間も続くのかな……?」

「いやぁ、流石に今日がイレギュラーだっただけじゃないかな?」


 こんなものが毎日起こるなんてたまったもんじゃない。


 幾ら命があっても足りないというものだ。


「見てみて幸がキラキラしてる」


 どこからともなく飛んできた幸は月明かりに照らされ自身の最大の特徴である極彩色の羽をキラキラと輝かせていた。


 頭上を舞えばステンドグラスのように透けて夜空を見渡せた。


「あれ……?なんかあの星、菫色じゃない?」

「え!?どれどれ!?」

「ほらあの三日月の近くの」


 白く発光する星とは一際違う輝きを放っていた一つの星。


 菫と共有すれば必死に目を凝らし探すものの、どうやら彼女には見えないようだった。


 もしかしたらあれは、月夜見先輩から教えてもらった例の光緋蒼星なのかもしれない。それならば目の良いオレが見えて菫が見えなくとも納得できる事実だ。


 今まで見えること自体、知らなかったけども。


「あ〜綺麗だから菫も見えたら良かったのに」

「ふふ。他の星空だけでも十分綺麗だから大丈夫だよ」


 フワリと笑った菫は夜空の星々達と掛け合わされば、まるで人を魅了する天女の様だと漠然と思った。


 思わず草原に横ばいになり魔導式カメラに手をかければそれに気づいた菫がダブルピースをした可愛らしい写真が撮れた。


「明日も生き残れればいいね」

「いいね、じゃなくて生き残るんだよ。大丈夫、お兄ちゃんに任せなさい」

「ふふ。今日は頼もしかったよ。お兄ちゃん」

「おぉ……冗談で言ったけど、なんかその呼び方、良いな………」


 守らなければと、庇護欲が湧いた菫からお兄ちゃんと呼ばるのは何だか悪くないと思ったものの、これでは己の中の何か別の物が芽生えそうであれだが、まぁ良い。


 庇護欲が湧けば誰でもその人に対して兄貴や姉御的存在になれる。


 オレは菫のお兄ちゃんだ。絶対に菫は守る。


「そろそろ寝よっか」

「うん。きっと明日もいっぱいいっぱいだ」


 草原から立ち上がり、既にチラホラの夢の世界に誘われている級友達の姿を見つける。


「「おやすみ」」


 菫と寝る前の挨拶を交わし簡易的に男女の区画として壁で隔たれた空間に入る。


 頭に乗っていた幸がフワフワと飛び立ち、静かに目を瞑っていたラファの頭上に止まれば瑞々しいロイヤルブルーの瞳が開く。


「あ、起こしちゃった……もぉダメじゃん幸」


 他の皆が起きないように小声で呟けば、うっとりとした夢見心地の様なラファが目を細めにこやかに笑う。


「んふ、よみおいで。一緒に寝よ」


 背後から照らされる月明かりのせいで、オレの影が全身に落とされたラファ。


 煌めく瞳はオレの瞳を掴んで離さなかった。


 ラファの隣の空いている空間に身を寄せ寝転がる。床材として敷かれた肌触りの良い葉っぱ達が頬を擽る。


「おやすみ〜ラファ」

「ん。おやすみ、よみ。良い夢を」


 月光に照らされたラファの玲瓏たる横顔は、どんな星々の輝きにも負けず劣らず美しくついついカメラのシャッターを切る。


「ふふ。また写真?」

「ラファが美しいのがいけない」

「何それ褒めてるの?」

「褒めです。美術館に飾ってもいいぐらい」


 ラファもまた、悪い気はしないと言うようにコロコロと笑う。


 明日は果たして何が待っているのか。


 備えて眠ろうと瞳を閉じれば、瞳の裏には先程目に焼き付いた菫色に輝く光緋蒼星があった。


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