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45枚目

 

「ヤバいヤバいヤバい!?!?光耀!?光耀!?!?!返事しろ!!!!」


 ビチビチと暴れ回る木の根に抗う術が無いオレは、それらに当たらないよう手前で停止し、根に掴まれた光耀に声をかける。


 しかし、何が原因か、全く返事が返ってこない光耀の腕を見れば、重力に従い力無く脱力している。


「待って待ってどういう事!?」


 頭が混乱し、周りの状況を把握できずにいると、気がつけば大樹の周辺にある水だけが無くなり干上がっていた。


 それに伴い、チョーカーの魔導式が発動し、濡れていた衣服が乾く。


「………ぁあ!!!」

「今度は何!?」


 再び悲鳴の様な声を上げた菫の方を見やれば、大樹に向かって指を指しフルフルと震えていた。


「思い出したぁ!!!」

「何を!?!?」


「あの大樹!!!山の新鮮な魔力で魔物化した意志を持つ木!!しかもあれはスイジュ!!」

「スイ……うわぁっちょおお!!」


 何かを思い出したらしい菫の言葉に耳を傾けていれば、突然振りかざされた根が自分目掛けて振り下ろされすんでのところで避ける。


「魔物化したスイジュはある一定周期にそこら辺にある水分全てを吸収する特性がある!!そんでもって、近くに居る人間を絡め取り………」


「その人間の体内にある水分と人間の魔力を吸い取ることによって自立型歩行形態にな…………」


 ドォオオォン………メリメリメリ…………


 一際大きな音が響き渡り、菫の言葉が途切れる。


 目の前で起こったことに菫と共に戦慄し、同時に本能から逃亡体制を取り、大樹から逃げるように脱兎のごとく走り出した。


「え、あ、え、ええあ!?!???ぎゃぁぁああああああああああ!?!?キモイ走り方になっなったぁああああああああてか地面から抜けるなぁああああああ!!!」


「逃げて逃げて逃げてにげてぇえ!!!!捕まったら身体中の水分絞り尽くされちゃう!!!」

「えぇ!!?!?じゃあ光耀やばいじゃん!?!?!?」


 為す術もなく、未だ捕まったままの光耀を助ける隙もなくただ力無きオレ達は自身の身を守ることしか出来なかった。


 皆の代表である次席なのに、魔法が使えず友人を助ける事も大樹を止める方法を実行することもできない。


 それがとても不甲斐なくて、苦しさに胸が詰まる。


 こんなことをしているうちにも、根に捕まったままの光耀はどんどんと水分を吸い尽くされ体が干からびてしまう。


 しかしオレにはもう一日一回の魔法は使い切ってしまいその手札はもうない。


 この場での打開策といえば、もう隣を共に走る菫の魔法しかないのだ。


 その大切な一回を確実なものとしなければならない。何か無いか………何か無いか!?!?


「………!」


 一つ思い当たる節がある。しかしそれはオレが知識があるだけで、実践することが出来ずやった事の無いもの。


 それを口頭だけで伝えて、菫に実行させようとさせるのは非常に他人任せで無責任な気がするが、今は一縷の希望に身を任せるしかない。


 運命の神様!!!!どうかオレ達の味方になってくれ!!!!!!


「菫!!!!簡潔に!!緑の手の効果を反転させて植物を枯らすことはできる!?!?」

「しょっ!植物を枯らす!?」


 菫が持つ固有能力は『植物思念』『緑の手』『音響収集』による地獄耳。


 緑の手は薬効強化や、植物の生育強化を施すことが出来る。


 であればその効果を逆転してしまえば、薬効弱化、植物の生育退化。つまりは、枯らすことが出来るという理屈だ!!!


 反転するには、どうするか。


 確か父さんが言うには、体内に血液と共に巡る魔力を、血液の流れに逆らって無理矢理反対側に流す感覚を作る…………


 待って!?!?それって大分やばくない!?!!


 血液に逆らう!?!?血液が流れるには逆流しないように弁が備わっている。それを乗り越えて逆流してしまえば体調に異常をきたす。


 それは魔力でも一緒なのではないか!?!?


「分かった!やってみる!」


 元気よく返事をした菫は意識を集中させる為に荒げられた息を整えるように大きな深呼吸をし始める。


「え!?ダメダメダメダメ!!!恐らくだけど体に大きな負担がかかっちゃう」

「でもやんなきゃ、なんにも変わんない!!」


 菫の負担も考えずに放った言葉を取り消そうとしたが、それを当の本人が受け入れ取り消すことが不可能となった。

 ならば少しでも負担が減るようにと隣を走る菫の前を行き、すかさず菫をおんぶし只管スイジュからの猛攻を避け続ける。


 オレのおんぶによる振動で揺れながらもブツブツと自分を鼓舞する言葉をつぶやきながら自身の首へと手をやり目を瞑る。


「……うっ、ぬんっ!」


 段々と体力が尽きてきたのが感覚的に分かる。


 もつれそうになる足を必死に動かし、菫を落とさないようポジションを整えつつ、根に捕まった光耀の様子を継続的に確認する。


 萎れているものの、まだ余裕はある。あると思わせてくれっ!!!!!踏ん張れ光耀ぉおおお!!!


 後ろを振り返れば、少しづつ迫ってきているスイジュが一本の根を振りかぶるのが見えた。


「でっ!!きる!!!」

「!!!」


 背中で叫んだ菫の声が聞こえ、咄嗟に腕を離し菫が地面へと降り立つ。


 瞬間、振り降ろされた根をすんでの所で躱し、土にまみれた太い根に菫が手をつける。


 ジュワワッという何かが溶ける音と同時にハリのあった太い根は徐々に萎れて行った。


「!!やった………」

「ゴホッ!!!」

「!? あ、菫!?!?」


 喜びに心躍らせ菫と分かち合おうとした直後、菫の口からは赤黒い鮮血が吐き出された。


 苦しそうに何度か咳き込む度に吐血する様子を見た途端頭が真っ白になっていれば、一度進行が止まっていたと思われたスイジュがまた動き出そうと地響きを鳴らし始める。


 何も状況打破の策を考えられない頭でただ一つ、せめて菫を守らなければと言う思考に支配され、菫を抱え再び走る。


「ゴフッ……あぇ、さっきので……全然効いてない……?」

「いや、いや!!効いてる、絶対効いてる!!多分遅効性なんだ。まだ、まだ焦る時じゃない!!」


 この言葉は菫を安心させる為のものであり、動転した己の思考をまとめる為希望を持たせる力を振り絞る為のもの。


 本当のところは分からない。しかし、そんなもの信じない限りはもう、絶望しか残らない。


 打開策を練ろうにも、既に万策は尽きた。


 攻撃出来る武器は無く、手段は使い尽くし、逃げる算段は見つけられていない。


 目頭が段々と熱くなる。


 情けない。情けない。何も出来ず、何もなし得れず、仲間をまともに守ることもできない。


 それなのに、そんなオレが泣くことが許されるというのか!?!?


『不味いと思ったら一人で立ち向かってはダメだよ』


 ラファの言葉を思い出すも、これは周りに動ける人がいるからこそ成り立つもので、今のこの自分しか動けない状況では通用しない。


 どうすることも出来ないのか。


 無我夢中で走り続けていれば吐血を抑える為必死に呻く菫の声が聞こえる。


 苦しみを取り除いてやりたいが、今は自身の足に集中することしか出来ない。


 無力、無力。無能。


 足掻くように前を見据え追いつかれる一方でありながらも、走る。


 走って走って走り続けて息が切れて、肺に酸素が届かなくなり始める。


 恐怖と、共に酸素の足りない脳が思考に靄をかからせる。


(走れ………走んなきゃ………いや、光耀も助け……いや、今は無理………でもこのままじゃ)


 すると何かが切れたように一つの思考が舞い降りてきた。


 考える力もなく、打開策もなかったオレは本能のままにそれに従う為走っていた足を緩め、背後に近付くスイジュに振り向く。


 眼球が熱くなるのを感じながらスイジュを見据えれば、視界が万華鏡のようにクルクルと輝きが回り出す。


 視界が紅く染まり、迫り来るスイジュに向かい動くままに右手の人差し指を突き出し地面へ振りおろす。


『………… () ()に堕ちろ』


 自らの声とは思えないほど重々しい声が発せられたと思えば、ウゴウゴと動いていたスイジュの進行が停止し地響きと共に大きな木の幹が地面に埋まった。


「なになになになに!?」

「………はぇ??」


 緊縛されたかのように自身の意思で動かせなかった体が動くようになり、地響きに驚いた菫もバタバタと身動ぎする。


 視界もいつもと変わらない色彩へと戻り、訳も分からずただ周囲を見渡せば、頭上から何やら赤い鱗粉が降り注いできていたことに気づく。


「わぁあああ!!!幸ぃいい!!!!どこ行ってたのさぁああああ!!!オレが大変な時にぃいいい!!!!」


 幸に向かい声をかければ声が届いたのか届いていないのか、ふわふわと舞い降りてくれば、全体的に赤みがかっていた羽はいつもの極彩色の模様へと戻っていた。


「剣人、大太刀。我が力に!!」


 何処からか声がしたと思えば、目の前にあった巨大なスイジュが太い幹の真ん中を境に真っ二つに切れ轟音を立てながら切り倒された。


「見つけましたよ。瞳さん菫ちゃん!そして光耀さん!」


 凛然とした声の持ち主は、根に捕まりぐったりとした光耀を担ぎ上げたローズだった。


「よみ!!」


 ローズが来てくれた、安心感に胸を撫で下ろしていれば、更にオレの心を安心させる声が耳に届いた。


 崖上を見上げれば、そこには逆光に照らされ神々しく輝いているラファが居た。


「あぁああああ!!!ラファぁああああ!!!!ぁああああああああ」

「瞳さん!?!」


 安堵からくる緊張感からの解放により、噛み締めていた唇が解き放たれ、熱い涙が止めどなく流れ始めた。


 肩にかついだままの菫がそれに気づいたのか、呻きながらもさすさすと背中を撫でてくれていた。


(あ〜あ………今のオレ、絶対すっげぇカッコ悪い………)


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