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44枚目

 

「さぁ、二人共落ち着きましたか??」

「「はい」」

「よろしい。それでは…………この状況を打開出来る案がある人は居ますか?」


 食料調達及び飲み水確保の為無人島の山へと足を踏み入れたオレ達所属する探索チームと山チーム。


 順調に山菜や木の実を収穫していた途中、岩陰地鶏と言う我々が今最も欲しがっていた《肉》が目の前にチラつき、捕獲する為罠を用意した。


 数匹程度捕まったものの人間とは欲が出るもので、まだ近くにいた他の地鶏も捕まえようと奮闘した結果。


 別行動していた光耀と菫の挟み撃ち作戦に運悪く巻き込まれたオレのせいで、三人仲良く求めていた飲み水がたんまりと湧き上がる山間という名の谷底にダイブ。


 そして、オレが落ちる寸前まで鷲掴んでいた岩陰地鶏は手を離したことにより逃げられており、本題である飲み水を汲む為桧達が制作してくれた桶もあの谷上。


 本来の目的を遂行すること無くこの様な状況に陥ってしまったのだ。


「はい!先生」

「どうぞ菫さん」


「ここはやはり、シンプルに谷上に上がる為足場がしっかりとした登れる場所を探すのが懸命だと思います!」

「その通り!光耀に成功するかも分からない浮遊魔法を扱ってもらうより断然そっちの方が安全だからね」


 元々高難易度な浮遊魔法は魔法技術を扱える人でもそれなりに習得する為の鍛錬が必要だ。


 魔法技術を扱った事の無いオレ達はともかく、菫ですらこの場で即座に扱うというのは土台無理な話だ。


 ここはシンプルイズベスト。


 物理的に谷上へと上がれそうな足場か、最悪登りやすそうな場所を探し根性で登り切り上から何かしらで二人を引き上げる方法を取る方が現実的だ。


 そうと決まれば、この辺りをぐるりと囲む岩肌を観察し、足場になり得そうな傾斜が緩やかな良い感じの足場を探すため直ぐ様行動を開始する。


 失神していた状態から目覚めた光耀にはもう少しだけその場で休んでもらい、その間に元々ピンピンしているオレと大分落ち着いた菫で探す。


 再びザブザブと水で浸かった地面を歩き、聳える岩肌へと歩みを進める。


 上を見上げれば、到底ボルダリングをして簡単に登れるとは思えない巨大な壁だというのがありありと分かった。


「う〜ん………幸は……居ないよねぇ……」


 先程落ちたであろう場所を見てみても、そこでフワフワと舞っていた極彩蝶である幸は見当たらなかった。


 たまにオレの言葉がわかっているのではないかと錯覚させる行動をとる幸があのままその場に留まっていれば、もしかしたら皆に居場所を知らせることができるかもと希望を少し持っていたが、それは今打ち砕かれた。


 まぁ、所詮は自然界に生きる少しオレに懐いているただの綺麗な可愛い蝶々。


 あの子の行動を縛る事は出来やしないのだ。


 そもそも自由気ままに動き回る幸が皆のところに行ったとて、言葉が喋れる訳では無いのでオレ達が何処にいるかなど理解くれる人はいないだろう。


 オレだって「あぁ〜今日も自由に動いてるね〜」も言う感想だけで終わる気しかしない。


 共に行動していたジェニーや円城寺達にはオレ達三人が遭難したと察することが出来るかもしれないが、きっと居場所までは分からないだろう。


 無闇に大声を上げても、森の奥深くに潜っている今叫び損で終わる気がするので、出来るだけ体力を温存する方面で考えた方がいい。


「えぇ〜ぜつぼー………」


 再び訪れた絶望感をどうにか振り切ろうと一度岩肌にパンチを繰り込む。


 しかしそれは逆効果で、ただ痛く、この状況が夢じゃないんだと現実を突きつけられるだけだった。


 大人しく登れる場所を見つける為、自身の瞳を生かし下から上へと繋がっていそうな良い感じの通路が無いか目を凝らす。


 もし仮に要所要所に手や足を掛ける良い感じの窪みがあったとしても、若干こちら側に反っている岩肌を命綱無しに登れる程オレの肝は座っていない。


 ざりざりと掌を壁に付けてみれば、パラパラと砂粒がこぼれ落ちるものの、強度自体は岩のように固く、登山用のピック等があれば登れそうだなとも思った。


 まぁ、そんなもの持ってないんですけど。


「えぇえええええええ!?!?!」

「はい!?何ですかその悲鳴!?!?!!?」


 只管に壁を見つめ歩いていたオレの耳に届いたのは、菫と思しき声色の驚いた様な悲鳴だった。


 何事かと思い、声がした方へと視線を向ける為に勢いよく振り向く。


 そこに広がった光景に理解が出来ずにこれでもかと言うほど目を見開き思わぬ自体に喫驚する。


 この山間の崖下に鎮座していた大樹の根っこがミシミシと振動し、まるで生き物の腕かのように地面から抜き出され動いていた。


 その振動により、そこらに溜まっている水面が揺れ動き、それに準じて波が段々と大きくなるにつれ足を浸からせている体ごと水圧で壁際へと押し出される。


 それでもオレは波に逆らい足を踏み出し折角乾いた衣服全てに水を纏わせながら、その大樹の方へと水に足を取られつつ走る。


「瞳君!!瞳君!!!!!どうしようどうしよう!?!?!?」


 突然の状況の変化に震駭した菫はその場で立ち竦み、オレの名前だけを呼び狼狽える。


 それもその筈だ。


 菫の目にも見えて、オレの瞳にはその倍この状況が見えている。


 先程の危機的状況を超える恐怖が己の体を支配する感覚が全身を支配する。


 冷たいものが背筋を走り、今すぐに駆け出しあそこへと行かなければならないと本能が言っている。


 脳内とは反対に波頭が立つこの湖と言える今の状況では思うように体が動かない。


 早く行かなければ、早く行かなければ……………!!!!


「光ぉ耀ぉおおおおお!!!!!!!」


 オレの瞳に捉えられているのは、巨大な根っこの先端に締め上げらぐったりとしている光耀。


 そして何故だか、根っこに捕まっている光耀の頬は急激に頬がこけていっていた。



 ♦◆♦



「ただいま戻りましたわ」


 籠いっぱいに色とりどりの貝や魚を詰めて砂浜から歩いてきたのは、桧、ジェニー、萌餅が共同で制作した銛と己らで自作した釣竿を担いだ海岸チーム一行だった。


 二週間ほど無人島で過ごす為の快適な住居を作る為、円城寺が切り倒した材木達を加工し住居建設に精を出していた建築チームは籠の中の新鮮な食材達を見て目を輝かせる。


「え!いっぱいある!?すご!!!」

「なんとね〜ローズちゃんが海初めてで、しかも素潜りも!初めてだったのに大活躍だったんだよ!」

「海と初対面!?それなのに素潜り初めてでこれ!!?」

「器用すぎじゃない!?」


 自慢げに語るリリィが放った言葉は、ローズの凄さを明白にさせ、岩を組み合わせ簡易的な竈を作っていた桧達は驚嘆の眼差しでローズを見やる。


「いえいえ。リリィさんや他の皆様も素潜りや貝集め、道具を自作して釣りをしてこの様な結果になったんですのよ」


 成果の塊である食材でいっぱいになった籠を見つめながら嬌笑を浮かべるローズに一同尊敬の眼差しとその耽美な表情に目を奪われる。


 と、そこに数個の籠を持って萌餅とレナートが此方へとやって来る。


 抱えられた籠の中には、何やら物が入っておりそれが気になったリリィは直ぐ様それが何かと尋ねた。


「近くにあった木の実を試しに氷室の洞窟に入れてみたの!」

「そうしたらこの通り、どうやら短時間で冷え切って良い感じの保存状態にしてくれるらしいね」


 籠の中に入っていた木の実を一同が覗き込むと、そこに入っていた木の実は薄く霜が降りかかり、一目で冷たく保存されている事が確認出来た。


「あら。それでは生鮮食品を入れていても良いといいことですね?」

「うん。よく見てみれば薄いけれど時間停止空間と保冷空間の術式が施されているみたい」

「食堂のボックスとほぼ一緒だ!」


 舞濶の食堂にバイキング様に設置されているボックスと同じ性能が施された、いわば冷凍庫と同じ機能をする氷室。


 これが正しくと機能していれば、幾らか食材を貯蓄する事が出来、万が一天候に左右され食料を狩りに行けない日があっても一時凌ぎが出来る。


 生き抜く為の食料をある程度余裕のある形で保存していれば、心にも余裕が出来るというものだ。


 皆の心が安堵に包まれていると、ふとレナートの視界の隅に藍色の鱗粉が降りかかり、それに気がついたレナートは瞬時にそちらへと顔を向ける。


 そこに居たのは、よく瞳と行動を共にしている極彩蝶がその場で上下に忙しなく飛んでいた。


 すると森の奥から複数の足音が近付いてくるのを耳で捉えたローズが、万が一の危険に備え、いの一番に森側へと移動する。


「れ、レナート!!!!」


 焦った様な声色でレナートの名を呼んだのは先程別れた筈のジェニー。


 共に姿を表した円城寺に続き、他に所属している山チームの面々が皆一様に血相を変えたような表情で森から走って出てくる。


 円城寺は手元に持っていた大きな角をその場に置き、レナートとローズの前に膝を降り自身の黒髪がサラリと風に吹かれながら頭を下げる。


「何があったんですか悠剣さん」


 その様子に目を見張ったローズはその場に跪いた円城寺の元へと駆け寄り、この一連の行動に違和感を抱いた桧や萌餅達も作業の手を止め集まる。


 歯を食いしばっていた円城寺が何かを言う前に、どこからとも無くやって来た極彩蝶を右肩に止まらせたレナートが円城寺の方へと一歩近づく。


「すまないレナート…………!!俺がついておきながら……三人が遭難してしまった!!!」

「「!?!」」


 円城寺のその言葉に、この場の空気が凍り付く。


 改めて全員集まっているであろうこの状況でローズは級友達の顔と人数を確認する。


「………っあ……菫ちゃん……光耀さんに瞳さんが居ません!?!」

「その件については俺も悪いんだ!!偶然見つけた岩陰地鶏の他にジャイアントディアが居たから危険を鑑みて手分けをしたんだ!!」


 円城寺に次ぐ山チームの二代主戦力であったジェニーが、円城寺を庇うように先ほど起こった出来事を説明する。


「なるほど。それは賢明な判断だよジェニー。今回ばっかりは状況が悪かった」

「………それでもっ」


 当時の状況を多方理解したであろう桧は、悔しそうにその場で俯いたジェニーに励ましの言葉をかける。


 それでも責任を感じずにはいられなかったジェニーは、自身のライムグリーンの瞳を揺らす。


「レナート………っごめん!!!」


 切羽詰まったジェニーを落ち着かせるようにレナートはその場に歩み寄り、俯くジェニーの肩を摩る。


「ジェニー頭を上げて」


 少し落ち着いたジェニーは言われた通り、顔を上げれば目の前に居るレナートの異質さに目を奪われた。


 傾き始めた太陽により輝くエメラルドグリーンの髪は、焦りと絶望が渦巻く心を自然と安らがせ、深々と輝くロイヤルブルーの瞳はこの場に不自然な程柔らかく微笑しているかのようだった。


「萌餅とジェニー、リリィと桧はこの場で皆と共に待機。万が一があれば桧、よろしくね」

「あいわかった」


「円城寺、ローズ。君達二人はボクと共によみ達を」

「えぇ」

「……了解した」


 絶望的な空気感を打ち破るかのように、的確な役割配分を指示し場を取り仕切るレナートを見た萌餅はその冷静さとカリスマ性に感嘆した。


 レナートの肩から羽を広げ耳元を飛び回った極彩蝶。


 それを皮切りにレナートが先導し、円城寺、ローズが後に続き、件の岩陰地鶏とジャイアントディアと遭遇した場所へと進む。


 現場に残されていたのは、岩陰地鶏を捕まえる為に設置されたのであろう菫達が制作した罠がそのまま放置されていた。


「ここからどこへ行ったのか分かりますか?」

「いや。俺とジェニーが瞳達の方へジャイアントディアを連れていかないよう先行してしまったんだ」


「であると、その反対側に行った可能性が高いかもしれませんわね………レナートさん?何処に行かれますの?」


 現場の周囲を観察しながら歩いていたローズと円城寺とは反対の方向に向き、森の奥を見つめるレナート。


 その視線の先には、肩で羽を休めていた極彩蝶がチラチラと舞っていた。


「二人共、あっちだ」

「え?」


 レナートは、とある一方に指をさし二人に方向を示す。


 突然の事に困惑した二人は互いに目を見合わせ先に立つレナートの背中に視線を移し、既に歩き出していたレナートに追いつく為足早に追いつく。


「レナートさん場所が分かったのですか!?」

「一体どうやって!?」


「______ぇえ………!!」


「「!?」」


 するとどこからとも無く誰かの悲鳴と思しき声が微かに聞こえ、風が吹きさらす中耳を澄ます。


 しかし、その声は直ぐに消え去り元の自然の音だけが辺りを支配した。


 極彩蝶が更に森の奥へと飛び去るのを視認したレナートは、それに追いつくよう走り出す。


「二人共、このままじゃマズイかもしれない。いざとなったら魔法を使おう」

「この先に何かあるんですの!?それにさっきの悲鳴……!」


 サクサクと草木を踏みしめる音が響き渡る中、足早に森を抜けるよう駆け抜けながら前を向く。


 森林に溶け込みそうなエメラルドグリーンの髪を靡かせるレナートはくっと顎を引き、何かを見据えるように目を細めた。


「あぁ、よみが………三人が居る」

「レナートはそれがいつ分かったんだ!?」


 円城寺の疑問を耳にしたレナートは僅かに口の端をあげ一言放った。




「………勘、かな」

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