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43枚目

 

 パニックになりかけた情緒を何とか持ち直しながら瞬時に脳内を働かせる。


 重力に従い勢い衰えず落ちる先に待つのは辺り一面に広がる水面との衝突。


 それ即ち、死!!!!!!!!


 ぎゅっと自身の体にしがみ付く二人は恐怖故か光耀は意識飛びかけ、菫は俺の懐に頭を埋め力の限り目を瞑っていた。


「大丈夫!だいじょうぶぅう!!オレが何とかするからぁああ!!」


 二人を少しでも安心させる為、言葉をかける。


 これは自分しかまともな判断が出来ないと察し、何としても二人及び自分を死の神から逃げ隠れる為決意を決める。


 魔法技術の知識がありつつも実際に扱った事の無いオレは、このチョーカーの性能により魔法を使えたとして難しい魔法を何の憂いもない場で扱えるかどうかの自信もあまり無い。


 ましてやこんな生きるか死ぬかの瀬戸際のこの状況。


 オレが何もしなければ確実に死が訪れるであろうここで、火事場の馬鹿力がオレ自身にあったとしても!


 成功するかどうかなんて保証は無い!!


 重力に抵抗出来ず、ただ落ちていく体を保護し水面と衝突した際の衝撃を緩和させる為には、どうするか。


 浮遊魔法は、一朝一夕で習得出来る代物では無い。


 風魔法で空気抵抗を減らし地面にぶつかる寸前に一番強烈な突風を吹かせ相殺させる。


 これも簡単そうに見えて実は、魔法式により風を生み出し、魔術式によって風に強弱を付けるよう出力調整をしなければならない。やったことが無ければ中々の至難の業!!!


 であれば見た事があって再現しやすいものをぶっつけ本番で成功させなければならない。


 唯一己でも出来そうだと閃いた頭の片隅にあったとある方法を実行する為、背面から落ちて行く体勢を何とか空中で捻り右手を下に持ってこさせる。


 恐怖に支配されながらもありったけの想像力と成功してくれと言う願望を注ぎ込み一思いに叫ぶ。


「萌餅みたくもちもちになれぇええええ!!!!!」


 声と同時に自身の首に付けられたチョーカーのタグが熱を持ち始める。


 高所から落下し、いよいよ水面へと右手が接触するのが自身の瞳で明確に捉えられ、視覚情報より早く脳内に衝突による痛みが来ると警戒信号が全身を駆け巡る。


 冷や汗が出る寸前、クッと右手中指が水面に触れ波紋を作った途端。

 そこから波が広がりブルルンッと弾力のある感触に変化し、一番最初に接触した右手が自由落下により倍増した重み分水面にめり込み……………………


 オレ達三人分の体ごと跳ね返った。


「うわっぷ!?!」


 ばっしゃあああん!!!!


 跳ね返った反動でしがみついていた二人が衝撃に耐えられず二方に吹き飛ぶ。


 背中から水面にダイブしたオレは状態を起こし、立ち上がる。


 気付けば、チョーカーが持っていた熱が水によって冷やされたからなのかは分からないが元の冷たさに戻っていた。


 状況的にチョーカーに刻まれた魔導契約式によって魔法技術を行使できたのだろう。


 水分を服が満遍なく吸収し、先程より少し重くなったシャツの裾を絞る。


 頭から被った水も含みきれなかった分がぽたぽたと滴り落ち、己の周りの水面に波紋を作り続ける。


 これが本当の水も滴る良い男ってか。まぁ、ラファの方が元から良い男なので、水が滴ったら更に良い男になると思うが。


 いや、今はそんなどうでもいいことを考えている暇では無い。


 付近を見回し直ぐさま半失神状態だった光耀を助ける為、近くへと駆け寄る。


 幸い水位は浅く、立ち上がれば、己の踝より少し上ぐらいだった。


 しかし意識がない状態でぷかぷかと浮かんでいれば、たとえ浅い水位であろうと溺死の可能性は拭えない。


「光耀!だ、大丈夫か!?!?」


 仰向けで浮かんでいた光耀の頭部を持ち上げ頬をぺちぺちと叩く。


 うん。白目剥いてる。


 鼻先に手をやれば、吐き出される空気がかかったのが分かる。ちゃんと生きてはいる。


「はぁ……………良かった…………」


 傷もほとんどなく生きていると言う事実により心から安堵し、ホッと胸を撫で下ろす。


 一先ずこの水中に身を置き続ければ、いくら夏の暑さがあろうとも体には良くないと判断し、この非力な腕で光耀の腕を引っ張り上げ肩に担ぐ。


「菫!!………菫、大丈夫??」


 近くの水面にぺたんと座り込み俯いた菫を発見し、こちらも光耀を引き摺りながらも直ぐ様駆け寄る。


 視線が合うよう、その場にしゃがみこみ再び言葉をかける。


 て言うかこいつ、意外と重いな。


 そう言えばだいぶ前に光耀から縋りつかれた時も力が強くて吃驚したっけな。やっぱりこいつ隠れマッチョだろ。


 その筋肉寄越せ。


「…………う」

「う?」


「うわぁあああああ!!!ひとっ、ひどみ君!あり、ありがとぉおおおおお」

「ほぅお!?!?!」


 突然菫はその大きな黒光りする美しい瞳から大粒の雫を零し、堰が切れたように泣きじゃくり始め、自身でも聞いた事のない声が出る。


「うわぁああああああああん」

「あぇ、えと、え?どっ、どしたらええの」


 目の前で女の子が盛大に泣き散らす光景に遭遇したことが無いオレは、この未知なる状況の正解が分からず、ワタワタと意味も無く光耀の頭を撫でる。


 しゃくりあげながら泣く菫を瞳に映せば、ギュウッと胸が締め付けられなんとも形容し難い感情が渦巻く。


「…………菫。もう、大丈夫だよ。生きてる生きてる。皆無事だよ。怪我も殆どしてない。濡れちゃっただけだ」


 水面に座り込み大きな声を上げて泣く菫を空いている片手で抱き締め、背中を優しく摩る。


 菫の能力は音響収集でありそれを含めた《地獄耳》という大変聴力が優れた能力。所謂体の一部である耳に関するもの。


 聴力が優れている彼女にとって敏感に物音を拾ってしまうそれは、きっと落下して行く風の音が激しく耳に響き、オレが先程かけた言葉も掻き消されていたのだろう。


 それならばより一層、死へのカウントダウンが極限なる不安な状態で明確に近付いていると肌で感じていた筈だ。


「だいじょーぶ。生きて~る」

「うん………う゛ん!!」


 不安だった気持ちを吐き出す為に菫はこれでもかと言う程に涙を流し、オレにしがみつく。


 正直オレも助かる方法があるのかを必死に考える余力があの一瞬で沸き起こった事が、半ば奇跡だと感じている。


 あれが所謂死ぬ程の危機に面した際、走馬灯が流れ始め時間がゆっくりと流れる様な感覚に陥るってやつの解決策バージョンだったとでも言うべきか。


 菫の思うままにさせてやろうと思い、そのままされるがままに身を委ねる。


「よしよ〜し。大丈夫だ~」


 ついでにその艶やかな菫色の髪も撫でる。自身と同様水分を含んだ事により普段の菫色より一段と黒く光り、まるでオレと同じ髪色だと錯覚してしまう程。


(あ〜〜〜〜……………これが庇護欲…………)


 心に積もる守ってやりたいと思うこの感情。所謂これが強き者が弱き者に対してその力を振るい、守り通すとか言うやつ。


 まぁ、オレは強くもないんですけど。なんなら魔法技術に関しては菫の方が強いまであるだろうしね。


 いつかの占いの時に何かが芽生えるかもとか言っていたのは、この菫に対しての庇護欲だったのかもしれない。


 オカルト科学部の占い、当たってたよ。物部氏…………


 ある程度落ち着きを取り戻した菫を確認し、空いている方の手で菫を支える。


 一旦水辺から出る為、大樹が聳える付近にある隆起し水で浸かっていない地面を発見しそこへ歩いて行く。


 まだ目を回し意識を飛ばしている光耀を地面に寝かせ、水を吸収した靴を脱ぎ素足を晒す。


 菫も自身の長い髪の毛に付着した水分をギュッと絞り滴らせる。


 このびちょびちょどうしようかな〜太陽の力で乾くかな〜などと呑気なことを考えていると、何故か急に体全体に纒わりつくように染み付いていた水分が蒸発したかのようにカラッと干上がった。


 それと同時に首元に付けられたチョーカーのタグが少しだけ熱を持ち、直ぐに元の金属特有の冷たさに戻った。


「え〜〜乾いた〜〜〜」


 吃驚し、菫と横たわらせた光耀を見れば同様に濡れていた衣服は綺麗に乾いていた。


「これも……救済措置、かな?」

「ん〜それっぽいねー何にしろこれはありがたい」


 これも、首に取り付けられたチョーカーのタグによる魔法技術なのだろう。


濡れても乾いてくれるのなら洗濯してもすぐに服を着れると言うこと。だから所持品で衣服の持参しなくても良かったのか。


 ありがてぇええ!!


「……………っは!?」


「お、起きたか光耀」

「おはよう光耀君」


 そんなこんなやり取りをしていると、ぱっちりと目を覚ました光耀が周囲を見回し、いの一番にオレを見る。


「どうなった!?!?俺生きてる!?!」

「「生きてる生きてる」」


 光耀が起き上がるのを菫が手伝い、上体を起こす。


「何事!?」

「あの崖から落ちるのを何とか緩和して水浴びてイマココ」


「それでなんで死んでない!?」

「オレ、頑張った」


「瞳ぃぃいいいいい!!!俺のせいでごめぇええええん」


 非常に簡潔なるオレの説明を聞いた光耀は勢い良く抱きつき頬擦りをする。

 先程乾いた筈の頬が再び濡れたことに気づき、光耀が近づけてきた頬を押し返し、その顔面を見る。


「おまっ、お前まで泣くなよぉ!!!」


 自身の両手に包まれた光耀は先程の菫同様、絶えず涙をポロポロと零していた。


 ぐちゃぐちゃになったその表情は眉間に皺が寄り、何やら悔しそうにも見え、思わず光耀の後頭部に手を回し自らの肩に埋めさせ頭をワシワシと撫でくりまわした。



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