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一章 味方を作れ (1)

引き続きお読みくださりありがとうございます。

 筈だった。


 目が覚めた。見慣れたベッドの上で、見慣れた景色の中で。


 だがその景色が今見えるのはおかしい。俺は死んだ筈だから、というのは勿論だがそれ以上に、この景色は俺が三年間を過ごした学園での自室の景色そのものだ。


 俺は間違いなくここを卒業したし、その後魔王の元へと無理やり配属された記憶もある。となれば、これは夢だろうか。


「まさか、最期に普通の学園生活を送りたいなんて願ったから? なんてな……」


 願った末に神様が気を使わせて見せてくれているとしたら、寧ろ逆効果だ。もう今更戻ることはできないし、仮に戻れたとしてもその後の未来がどうしようもない。

 俺は魔王に使い捨てにされ、実の父を殺して一緒に死ぬのだから。


 だが、それにしたっておかしい。

 死ぬ間際ギリギリの走馬灯だとしてもこれはあまりにもリアルな光景だし、何より太陽の微かな暖かみまで感じている。


「……まさか、な」


 ありえない、と脳内で一蹴した。

 そんな魔法が存在するなんて聞いたことすらない。


「時間遡行の魔法だなんて、ありえない……よな?」


 魔法とは元来不可能を可能とする力だ。

 その力は人を魅了し、同時に溺れさせる。しかし、そのような力でも可能なことと不可能なことは勿論あった。


 その最たる例が「時間」だ。


 魔王と呼ばれるだけの力があっても世界一の魔法使いと呼ばれる学園長であっても、それは例外では無い。

 体感を加速させるようなものは聞いたことがあるが、過去に戻るというものは普通に考えて世界全てに作用しなければならない魔法だ。どのような理屈だろうとも、それだけの力が簡単に生まれるとは思えない。


「だけど現実にしか思えない、か」


 窓越しに感じる太陽の熱も小鳥の囀りも、どれも夢や妄想で片付けられる類のものでも無い。

 で、あれば、いくらありえないものだとしても現実を見なくていけないだろう。


 俺は学生時代に戻ってきたのだと。


「はは……まじかよ」


 笑える。面白いわけでは無いが笑えてしまう。誰が何のためにこの力を発動させたかなど分からないままだが、俺は再度チャンスを得たのだ。

 誰もが何度も願い、しかし手にすることが出来なかった願い。


 過去をやり直すチャンスというものを。


「決めた、俺は絶対に魔王に屈しない……」


 父の言いなりになり、魔王の配下となった前世、いや正史と言えば良いだろうか?

 あのような轍はもう踏まない。


「今回は絶対、生き残ってみせる」


 俺は静かに拳を握るのだった。






 目を覚まして一時間弱、その後の調べで分かったのだがどうやら今は二学年目の序盤らしい。俺自身の肉体年齢は十三歳、ベッドに横になっているときは気付きもしなかったが年相応に体も縮んでしまっていた。


 因みに何故そこまで正確に分かったかというと、教科書やノートを開いたらしっかりと授業を受けた日付のメモが残されていたのだ。魔王の軍門に下る予定の男も、意外と学園時代はマメな性格だったらしい。将来を知っていると皮肉で笑ってしまいそうだ。


「となれば、後は状況の整理か」


 布団の上に適当に寝転がり、思考に耽る。


 俺の生存条件は魔王軍に与せず、また魔王の関係者である父親に怪しまれることなく五年後の戦争の終結まで大人しくしていることだ。


 だが、それを可能にする方法は果たしてあるのだろうか?


 学園卒業時の俺は、父が魔王関係者である噂を聞いていた程度であり実際に関係者だとは知らなかった。半ば強引——正確には強制的——に魔王の前に連れてこられたがため、自分の命を守ろうとし、忠誠を誓わされたのだ。


 ということは、どれだけ関係者じゃないと動いても、卒業と同時に父に捕まればおしまいである。


「割と詰んでるな」


 絶縁、したらしたで事故死に見せかけるなんてあの父親ならばやりかねないだろうし、そうなると俺にある選択肢は——


「スパイ……か?」


 ——敵軍に降りつつも、魔王討伐軍の仲間になるこの方法である。しかし、勿論これも危険が伴う。

 正史でもスパイ活動をしていたものは何人もいた、だが俺が知っている限りそういう奴らは全員もれなく殺された。魔王とはそういう存在なのだ。


「しかし、これは最終手段だとしても、味方を作るのは大切だな」


 味方を作る。それは今この学園にいる間に出来る唯一の対抗手段とも言えよう。魔王だって配下を求めたように、人の数の力は偉大だ。

 どれだけ俺が今から努力して優れた魔法使いになろうとも、何百人もの魔王軍に囲まれたらそのまま生涯を終えるだろう。ならば俺も正史の記憶を使い、魔王討伐軍の有力者を味方につければいいのだ。

 そうすれば最終決戦時に俺の生存確率が上がっていく。


「うん、ちゃんと顔も名前も覚えている。大丈夫だな。だが、あまり仲がいい奴らとは言い難いな……今から仲良くなれるか?」


 正直、正史での俺は父の言うことは絶対聞くマンだった。父や魔王の唱える純血至上主義に感化され、魔法使い以外の血が入っている者、親が魔法使いではない者たちを混血だとか雑種呼ばわりしてきた。

 魔王の戦いはこの「純血VSその他」で出来上がっていると言っても過言ではない。


 そんな中で今更、非純血の者たちと仲良く出来るものだろうか。


「……今から誠心誠意謝れば可能だとは思うが……?」


 一年時に罵倒した奴らと仲良くなれるかどうか流石に不安である。

 だが、考えが全くないわけでもない。

 人というのは友人の友人を無碍にはしないものだ。つまり、一人だけでも糸口を見出せればいい訳で、そうなれば難易度はグンと下がる。


「純血主義の姿勢は父親の目を誤魔化すために必要、となれば純血で且つ、魔王討伐軍に入った中心人物は……」


 一人、可能性を見出した。

3話目まで読んでもらえると幸いです。

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