第9話 買ったばっかなんだけど
依頼範囲の。
さらに奥。
「…………」
俺は。
杖を掲げながら。
歩いていた。
パァァァァ。
相変わらず。
明るい。
非常に。
明るい。
「ノア」
「何」
「もう少し前」
「はいはい」
杖を前へ。
「おお」
レオが。
感心したように言う。
「やっぱ便利だな」
「…………」
便利。
魔法使いに対する。
褒め言葉として。
正しいのだろうか。
「ノア」
今度は。
ミア。
「何」
「ちょっと暗くできる?」
「…………」
俺は。
振り返った。
「明るくしろって言ったり」
「あ、うん」
「暗くしろって言ったり」
「うん」
「俺は何なんだ」
「魔法使い?」
疑問形。
やめろ。
「眩しいの」
「…………」
魔力を弱める。
パァァ。
「そこ!」
「…………」
なんだろう。
この。
細かい注文。
「ちょっと上」
「…………」
上。
「もう少し右」
「…………」
右。
「そこそこ」
「…………」
俺は。
宿屋の照明を。
調整しているんじゃない。
冒険者だ。
魔法使いだ。
多分。
◇
「ここだな」
しばらく進んだところで。
レオが。
足を止めた。
目の前には。
少し広い空間。
壁の一部が。
不自然に光っている。
「……あれ?」
俺も。
近づく。
岩肌に。
小さな青い結晶。
いくつも。
埋まっている。
「これが?」
「ああ」
レオが。
笑った。
「鉱石だ」
「…………」
俺は。
杖を下ろした。
近づく。
しゃがむ。
見る。
「いくら?」
「第一声それ?」
ミアが。
呆れている。
「大事だろ」
「普通は『綺麗だな』とかじゃない?」
「綺麗だな」
「遅い」
「で、いくら?」
「結局それじゃん」
レオが笑いながら。
壁を見る。
「結構残ってるな」
「全部持って帰れる?」
「無理だな」
「なんで」
「重い」
「…………」
俺は。
壁を見る。
鉱石を見る。
自分の身体を見る。
「何往復する?」
「しない」
「なんで」
「依頼範囲外だぞ」
「…………」
世の中。
厳しい。
ガルムが。
周囲を確認する。
「採れるだけ採って戻ろう」
「そうだな」
レオが。
道具を取り出した。
「ノア」
「何」
「照らして」
「…………」
パァァァァ。
「見やすい!」
「…………」
鉱石採掘でも。
照明だった。
◇
カン。
カン。
カン。
レオたちが。
鉱石を採っている。
俺は。
照らしている。
「…………」
暇だ。
「俺も採る」
「道具ある?」
「ない」
「じゃあ照らしてて」
「…………」
暇だ。
カン。
カン。
カン。
「ノア」
「何」
「もうちょい左」
「…………」
左。
カン。
カン。
カン。
「ノア」
「何」
「明るすぎて鉱石の色分かりにくい」
「…………」
少し暗くする。
「そこ!」
「…………」
俺。
魔法使い。
本当に。
魔法使い。
冒険者証にも。
そう書いてある。
確認したから。
間違いない。
「よし」
レオが。
袋を持ち上げた。
「こんなもんだろ」
「もう?」
「十分だ」
俺は。
袋を見る。
「それでいくら?」
「帰ってみないと分からないな」
「…………」
「そんな顔するなよ」
「してない」
「してるよ」
ミアが笑う。
「すごく残念そう」
「してない」
「眼鏡越しでも分かる」
「眼鏡関係ないだろ」
「帰ったらご飯奢ってあげようか?」
「…………」
「何、その間」
「別に」
「奢ってほしい?」
「別に」
「じゃあやめる?」
「…………」
「ノア?」
「…………好きにすれば」
ミアが。
笑った。
「奢ってほしいんじゃん」
「うるさい」
その時だった。
ガルムが。
立ち上がった。
「静かに」
「…………」
空気が。
変わった。
レオが。
剣へ手を伸ばす。
「どうした?」
「音がする」
全員。
黙る。
「…………」
俺も。
耳を澄ませた。
奥。
さらに。
暗い通路。
ズッ。
何かを。
引きずるような音。
ズッ。
ズッ。
「…………」
レオが。
小さく言った。
「ノア」
「分かってる」
杖を。
奥へ向ける。
魔力を流す。
パァァァァ――。
暗闇が。
消える。
そして。
「…………」
何かが。
いた。
大きい。
人間より。
遥かに。
大きい。
四本の脚。
黒い体毛。
太い前脚。
そして。
口元から伸びる。
二本の牙。
「……何あれ」
俺が。
聞く。
レオの顔から。
さっきまでの笑いが消えていた。
「洞窟牙熊」
「強い?」
「…………」
「その間やめろ」
「普通なら」
レオが。
剣を抜く。
「四人で相手する魔物じゃない」
「…………」
俺は。
後ろを見る。
来た道。
「帰ろう」
「珍しく意見が合ったな」
「走る?」
「走る」
全員。
同時に。
後ろへ下がる。
その瞬間。
熊が。
吠えた。
「グオオオオオオッ!!」
「うるさっ!」
洞窟全体が。
震えた。
「走れ!」
俺たちは。
一斉に逃げた。
◇
「なんで追ってくるんだよ!」
「知らねえよ!」
「鉱石返す!?」
「関係ないだろ!」
「じゃあ何が欲しいんだよ!」
「多分俺たち!」
「もっと嫌だわ!」
後ろから。
ドドドドドドッ!
地面が。
揺れている。
速い。
「追いつかれる!」
ミアが叫ぶ。
ガルムが。
突然。
足を止めた。
「先に行け!」
「ガルム!?」
「ここなら狭い!」
盾を構える。
確かに。
通路は。
熊一体が通れる程度。
「俺が止める!」
「無茶だ!」
「早くしろ!」
熊が。
迫る。
「くそっ!」
レオが。
剣を抜いた。
「俺も残る!」
「じゃあ私も!」
ミアも。
弓を構える。
「…………」
俺は。
三人を見る。
そして。
熊を見る。
「ノア!」
レオが叫ぶ。
「お前は下がってろ!」
「…………」
下がる。
一歩。
「明かりは頼む!」
「結局それかよ!」
パァァァァァ!
通路を。
全力で照らした。
「来るぞ!」
熊が。
突っ込んでくる。
ガルムが。
盾を構える。
「おおおおおっ!」
ドゴォン!!
「ぐっ!」
ガルムの身体が。
後ろへ押される。
「ガルム!」
「まだだ!」
レオが。
横から斬る。
ザシュッ!
「グオオッ!」
効いている。
ミアの矢。
一本。
二本。
熊へ刺さる。
「いける!」
レオが叫ぶ。
「少しずつ削れ!」
「…………」
俺は。
照らす。
「…………」
いや。
待て。
本当に。
これだけ?
何か。
できないか。
「ファイア……」
杖先に。
炎。
ゴオッ!
「ノア!?」
レオが。
振り返る。
「援護する!」
「できるのか!?」
「…………」
「…………」
「できない!」
「じゃあ消せ!」
「分かってる!」
炎を消す。
危ない。
洞窟で。
味方の真後ろから。
巨大な炎を出すところだった。
「くそっ……」
何か。
ないのか。
治癒。
怪我してから。
攻撃。
届かない。
照明。
もうやってる。
「…………」
役に立て。
何か。
俺にも。
その時。
熊が。
大きく。
前脚を振り上げた。
「ガルム!」
盾。
間に合わない。
ドゴッ!!
「――っ!」
ガルムの身体が。
壁へ叩きつけられた。
「ガルム!!」
盾が。
地面へ落ちる。
ガルムも。
崩れ落ちた。
「おい!」
俺は。
走った。
「ノア! 待て!」
ガルムの横へ。
滑り込む。
「おい!」
返事がない。
脇腹。
血。
「…………」
まずい。
杖を。
傷口へ。
「《ヒール》!」
パァァァッ!
傷が。
塞がり始める。
「よし……!」
だが。
「ノア!」
声。
顔を上げる。
熊が。
こっちを見ていた。
「…………」
レオが。
前へ入る。
剣で。
受ける。
ガキィン!!
「ぐっ!」
押される。
「早く治せ!」
「やってる!」
魔力を。
流す。
傷は。
深い。
まだ。
足りない。
「ミア!」
「分かってる!」
矢。
熊の顔へ。
刺さる。
「グオオオッ!」
熊が。
暴れる。
レオが。
吹き飛ぶ。
「レオ!」
まずい。
ガルム。
まだ治療中。
レオ。
倒れた。
ミア。
後衛。
そして。
俺。
「…………」
熊が。
こちらへ向く。
「ノア!」
ミアが叫ぶ。
「逃げて!」
「…………」
逃げる。
ガルムを。
置いて?
「…………」
無理だろ。
俺は。
ゆっくり。
立ち上がった。
「何してるの!」
「…………」
杖を見る。
買ったばかり。
新品。
普通の。
魔法使い用の杖。
「…………」
嫌な。
記憶が。
蘇る。
人型の魔物。
飛ばない魔法。
杖先へ。
全部。
集めた魔力。
そして。
思いっきり。
殴った。
結果。
魔物は死んだ。
杖も。
死んだ。
「…………」
熊を見る。
こっちへ。
歩いてくる。
「…………」
杖を見る。
新品。
熊。
新品。
熊。
新品。
「…………」
いや。
待て。
「ノア!」
「これ」
俺は。
杖を握りしめた。
「買ったばっかなんだけど」
「何言ってるの!?」
知ってる。
今。
そんな場合じゃない。
でも。
買ったばっかなんだ。
「…………くそ」
魔力を。
流す。
杖先へ。
パァァァァ――。
光が。
生まれる。
ミアが。
目を見開いた。
「ノア……?」
もっと。
魔力を。
込める。
光が。
強くなる。
「…………」
前より。
入りにくい。
新しい杖だから。
こんなものなのか?
「…………」
まあ。
光ってる。
なら。
いけるだろ。
俺には。
どれだけ魔力が。
集まっているのかなんて。
分からない。
でも。
前と。
同じだ。
「またこれかよ……」
熊が。
地面を蹴った。
来る。
俺は。
杖を。
両手で握った。
「仕方ねえ……!」
振りかぶる。
「壊れたら――!」
熊が。
目の前。
「お前らが弁償しろよ!!」
「今それ!?」
ミアの声。
そして。
俺は。
全力で。
杖を振り抜いた。
ドゴォォォォォン!!!!
光。
衝撃。
爆音。
熊の巨体が。
横へ吹き飛んだ。
壁へ。
激突。
ドォン!!
「…………」
静かになった。
俺は。
杖を握ったまま。
動けなかった。
熊も。
動かない。
「…………」
倒した?
恐る恐る。
杖を見る。
「…………」
魔石。
無事。
「…………!」
俺は。
目を見開いた。
「生きてる……!」
「ノア!」
「杖が!」
「そっち!?」
「壊れてない!」
やった。
俺は。
杖を。
胸元へ抱えた。
「よかった……!」
「ノア!!」
「何だよ!」
ミアが。
熊を指差している。
「まだ動いてる!」
「…………え?」
振り返る。
「グ……」
熊の。
前脚が。
動いた。
「…………」
俺は。
杖を見る。
熊を見る。
もう一度。
杖。
「…………」
一発じゃ。
足りなかった。
「嘘だろ」
熊が。
ゆっくり。
身体を起こす。
「…………」
俺は。
新品の杖を。
握り直した。
「二発目は」
魔石を見る。
「聞いてないぞ……」




