第8話 俺にもちゃんと役割がある
洞窟探索。
開始から。
一時間。
俺は。
一つの仕事を。
完璧にこなしていた。
「ノア」
「何」
「もうちょい右」
「…………」
杖を右へ。
パァァァ。
「そこそこ!」
「…………」
明るい。
非常に。
明るい。
「いやー」
剣士の男が。
感心したように言った。
「本当に便利だな」
「…………」
褒められている。
はずなのに。
全然。
嬉しくない。
「こんな明るい洞窟、初めてだ」
弓使いの女も。
辺りを見回している。
「昼間みたい」
「…………」
「ノアってすごいね」
「魔法使いだからな」
「照明として」
「魔法使いだからな」
大事なことなので。
もう一度言った。
「そういえば」
剣士が。
振り返る。
「ちゃんと自己紹介してなかったな」
「今?」
「そういや名前しか聞いてなかった」
確かに。
俺は。
こいつらの名前すら。
知らない。
よく考えたら。
名前も知らない奴らと。
洞窟に入っていた。
「俺はレオ」
剣士が。
自分を指す。
「見ての通り、剣士だ」
「見れば分かる」
「こっちがガルム」
大柄な盾役が。
軽く手を上げる。
「よろしく」
「よろしく」
「で」
レオが。
後ろを見る。
「こいつがミア」
弓使いの女が。
笑う。
「よろしくね、ノア」
「……よろしく」
「なんで私だけ目を逸らすの?」
「逸らしてない」
「逸らしたよね?」
「洞窟見てた」
「私、洞窟より面白くない?」
「そういう話じゃない」
「顔赤いよ」
「暗いからだ」
「明るいけど」
「…………」
また。
やった。
「ノア」
レオが。
真面目な顔で言った。
「一ついいか」
「何」
「その言い訳、ここでは使えないぞ」
「うるさい」
ミアが。
笑っている。
「面白いね、ノア」
「どこが」
「全部」
「…………」
帰りたい。
◇
「止まれ」
ガルムが。
低い声で言った。
全員。
足を止める。
「また何かいる?」
レオが。
剣へ手をかける。
ガルムが。
地面を見る。
「足跡だ」
俺たちも。
近づく。
土の上に。
小さな跡。
いくつも。
残っている。
「ゴブリンか?」
「多分な」
「数は?」
「分からん」
「ノア」
「何」
「奥、照らせるか?」
「…………」
またか。
杖を向ける。
魔力を流す。
パァァァァ――。
暗闇が。
一気に消える。
かなり先まで。
見えるようになった。
「…………」
三人が。
黙る。
「何」
「いや」
レオが。
奥を見る。
「毎回思うけど」
「何」
「お前、これだけで食っていけるんじゃないか?」
「…………」
「洞窟専門で」
「嫌だ」
即答した。
「なんでだよ。需要あるぞ」
「俺は魔法使いだ」
「照明魔法も魔法だろ」
「そういう問題じゃない」
「難しい奴だな」
違う。
俺が。
おかしいんじゃない。
多分。
◇
少し進むと。
予想通り。
ゴブリンがいた。
五体。
「俺とガルムが前」
レオが。
剣を抜く。
「ミアは後ろから援護」
「了解」
「ノア」
「分かってる」
俺も。
杖を構える。
「明かり頼む」
「分かってなかった」
パァァァァ。
洞窟が。
明るくなる。
「よし! 行くぞ!」
「おう!」
戦闘開始。
ガルムが。
盾で。
ゴブリンの攻撃を受ける。
その横から。
レオが斬る。
後ろから。
ミアの矢。
俺。
照らす。
「…………」
一体。
倒れる。
俺。
照らす。
二体。
倒れる。
俺。
照らす。
三体。
倒れる。
俺。
照らす。
「…………」
四体目。
「ノア!」
「何!」
「左!」
「はいはい!」
左を。
照らす。
「いた!」
ミアが。
矢を放つ。
命中。
「よし!」
最後の一体。
レオが。
斬り倒した。
「終わり!」
「…………」
俺は。
杖を下ろした。
「お疲れ!」
ミアが。
笑顔で言う。
「…………」
「どうしたの?」
「俺」
「うん」
「一回も魔物に攻撃してない」
「うん」
「一回も回復してない」
「うん」
「ずっと光ってただけ」
「うん」
「…………」
否定してくれ。
「でも」
ガルムが。
盾を背負い直す。
「助かったぞ」
「…………」
「暗かったら、もっと時間がかかっていた」
「そうそう」
レオも。
頷く。
「普通の照明魔法だと、戦いながらあれだけ照らし続けるの難しいしな」
「ノアは魔力切れないし」
ミアが。
続ける。
「ずっと明るい」
「…………」
三人とも。
普通に。
褒めている。
「…………」
なんだろう。
この気持ち。
嬉しい。
でも。
嬉しくない。
「複雑そうな顔してるな」
「ほっとけ」
◇
さらに。
奥へ進んだ。
調査自体は。
順調だった。
魔物の数。
種類。
足跡。
通路の状態。
レオが記録する。
俺は。
照らす。
「…………」
少し。
慣れてきた。
認めたくないけど。
これはこれで。
役には立っている。
少なくとも。
何もできないよりは。
ずっといい。
「休憩するか」
レオの言葉で。
俺たちは。
少し広い場所へ座った。
「疲れた?」
ミアが。
俺を見る。
「別に」
「ずっと杖持ち上げてるもんね」
「魔力より腕が疲れた」
「そこなんだ」
そこだった。
魔力は。
まだまだある。
でも。
腕が。
地味に痛い。
「交代する?」
「何を」
「杖持つの」
「お前が持っても光らないだろ」
「あ、そっか」
「…………」
ミアが。
笑う。
俺も。
少しだけ。
笑った。
「…………」
悪くない。
そう思った。
パーティなんて。
もっと。
面倒なものだと思っていた。
能力を説明したら。
馬鹿にされるか。
追い出されるか。
そんなものだと。
思っていた。
でも。
こいつらは。
飛ばない魔法を。
笑わなかった。
いや。
ちょっと。
笑ってる気はする。
主に。
俺を見て。
でも。
少なくとも。
役立たずとは。
言わなかった。
「ノア」
「ん?」
レオが。
地図を広げていた。
「ちょっと相談」
「何」
「依頼の調査範囲は、ここまでだ」
地図を見る。
俺たちがいる場所。
その少し先。
道が。
まだ続いている。
「じゃあ帰る?」
「普通ならな」
「普通なら?」
嫌な言い方だ。
レオが。
地図の奥を指す。
「この先に、小部屋があるらしい」
「へえ」
「昔、鉱石が採れた場所だ」
「へえ」
「今も残ってれば」
「へえ」
「結構な金になる」
「行こう」
「早いな」
「行こう」
大事なので。
二回言った。
「さっきまで帰りたそうだったじゃん」
ミアが。
呆れた顔をする。
「状況が変わった」
「何が?」
「金」
「…………」
「金があるかもしれない」
「分かりやすいなぁ」
うるさい。
こっちは。
杖の修理代が。
必要なんだ。
「ただし」
ガルムが。
口を開く。
「依頼の範囲外だ」
「…………」
「何がいるか分からん」
「危険ってこと?」
「ああ」
俺は。
少し考える。
頭に。
あの杖が浮かぶ。
割れた魔石。
そして。
魔具店で言われた。
修理代。
「…………」
「ノア?」
「ちなみに」
俺は。
レオを見る。
「その鉱石」
「ん?」
「いくら?」
レオが。
だいたいの金額を言った。
「…………」
立ち上がる。
「行こう」
「迷い消えたな」
「行こう」
「分かった分かった」
レオも。
立ち上がる。
「危険そうなら、すぐ戻るぞ」
「了解」
ガルムが。
盾を持つ。
ミアも。
弓を背負い直した。
俺は。
杖を掲げる。
パァァァ。
「よし」
レオが。
奥を見る。
「行くか」
俺たちは。
依頼範囲の。
さらに奥へ。
歩き始めた。
「ノア」
「何」
「前、照らして」
「…………」
パァァァァァ。
「おお、見やすい」
「…………」
金のため。
金のためだ。
俺は。
自分に。
そう言い聞かせながら。
杖を掲げた。
この時。
俺たちは。
まだ。
知らなかった。
その先に。
何がいるのかを。
そして。
俺は。
何も知らず。
ただ一つ。
考えていた。
鉱石。
残ってるといいな。




